森林インストラクターとは、
「森林を利用する一般の人々に対して、森林や林業または自然についての知識を与え、森林などの案内や、フィールド内での野外活動の指導を行う者。」
分かり易く言いますと、森のできるだけ沢山の生き物や、ニングル達からのメッセージが理解できるようにお手伝いをする、インタープリター(通訳者)の役割だと思います。
この資格だけで生計を立てている方は、私の知る限りでは全国で多分お一人かお二人。そういう類の資格ではありませんので、凡人が生計をかけてはいけません。
そもそも、自然は人の関知できない天からの恵み物なのです。そういう自然を人間の欲望に利用するにはそれなりの覚悟が必要だと思います。ギルガメッシュ大王は森の精霊フンババを征伐してしまい、チグリスユーフラテス地域に永年続いた文明が滅びました。
森林インストラクターの資格試験は、(社)全国森林レクリエーション協会が農林水産大臣の認定実施団体となって、1991年(平成3年)から実施されています。年に一度秋の試験(一次・二次)に合格し、協会に登録すると『森林インストラクター』の称号が与えられます。
神奈川県のように各都道府県認定の森林インストラクター制度もあります。
現在、全国森林インストラクターの数は約2千人位だと思います。私の登録番号は、平成15年1月1日登録で、1452番でした。
森林インストラクター試験の対象領域は、次の4分野に分けられています。
1)森林 :
・森林の生態
・樹木、森林の動植物
・森林の地質と土壌と水分
・森林の法令
・森林の観察
2)林業
・山村と農林業
・森林の効用
・森林の育成と管理
・森林の保全
・木材および特用林産物の利用
3)森林内の野外活動
・自然体験活動の概念
・野外活動の指導法
・キャンピング
・ネイチャークラフト
・野外ゲーム
4)安全および教育
・山の安全、救急処置法
・環境教育と自然保護
・森の民俗学
・指導技術・企画の立て方
・人をひきつける話法
適切な参考書はないので、それぞれの分野で体験し、独学するのが基本ですが、協会が行っている高尾山での野外実習を伴う延べ8日間ほどの養成講座があります。そこでは森林インストラクターになるのに必要な最低知識、および技術に触れることが出来ますので一般の方にはお奨めです。講師の方々は各分野の日本の権威者で、試験問題の出題者でもあるので、その年の問題の傾向が掴めます。また、講習を終了すると、自然体験活動推進協議会が認定する『CONEリーダー』の称号を申請により取得することができます。
林野庁の関係者とか林業科の学生さんとかでなければ、この講習と独学だけで試験にパスするレベルまで知識を深めるのは困難だと思います。所沢のくぬぎ山で実習と講座を開設している『里ネット』はメルマガも送ってくれます。知識、洞察力を深め、試験にも大変役に立ちます。『自然文化の会』の通信教育は、毎週のようにポイントを捉えた講義資料を送ってくれ、問題がたっぷりと出され、丁寧に添削してくれるので、大変お奨めです。受講者と合格者一緒に野外実習もやっています。大変役立ちました。今もお世話になっています。
森林インストラクターにせよCONEにせよ、はてまた巷の『XXX士』は、取得しただけではだめです。取得してからの行動・実践が重要です。言うまでもありませんが。
さて、試験問題ですが、一次試験はいずれの分野も選択問題や穴埋め問題は僅かで、殆どが300字から400字の記述式問題です。
<例>
「二次遷移について、稚樹が発生してから老齢木になるまで、森林の構造はどのように変化していくか、あなたの生活場所付近の植物を例にとって4百字以内で説明してください。前生林はどのような条件であったかをことわってから説明してください。」
「森林の持つ水源涵養機能と土壌の関係について4百字以内で説明してください。」
「きのこの発生場所をあげ、そこに生える代表的なキノコ名を引用しながら、知るところを述べなさい。」
「ポドソルとは何か。2百字以内で説明して下さい。」
「「神社の依り代」について、3百字以内で記述してください。」
「森や水に対する日本人の信仰的心情について、3百字以内に記述してください。」
「組織キャンプを行う場合に必要な主要な三つの役割を担う係りの名称をあげ、それぞれについて百字以内で説明してください。」
「林業経営を目的とした森林施業によって、森林の公益的機能が高度に発揮される例を3百字以内で説明してください。」
「温室効果と森林の関係について、3百字以内で説明して下さい。」
「止血帯使用上の注意を記述して下さい。箇条書きでも構いません。」
「山でバテないために、どのようなことに気をつけたらよいか、その方法を詳しく記述して下さい。」
といったような、漠然とした設問が多いので、限られた時間で何をどのように構成してまとめるかがポイント。インストラクターに求められる即興力、分かり易く簡潔にまとめ表現する力が問われる。なんと言っても、文章力と早く綺麗に書き上げる能力が必要です。考えている時間はありません。問題を見たら、漠然とした設問だけに自分で結論の方向を定め、試験が終わったらビール飲むんだなんてことは忘れて、一心不乱に書き連ねることです。書いて書いて書きまくって、時間ぎりぎりまで書き上げ続けるのです。また、専門知識が求められるので、専門用語を多く使用すると印象がよく、高い点数になるようです。「木の上」は『樹冠』、「遷移でははじめにタンポポなどが生え・・・」は『遷移初期段階ではタンポポなどの草本が侵入し・・・』などのように表現することです。それと、400字以内とあれば、350字以上は書くこと。体験、学習して知っていることは全て書くことです。
受験すると決めたら、外出するときは樹木図鑑は必ず携帯する。類似樹木の特徴と判別の仕方は必ず出題されます。本州の在来種50種類くらいは覚える必要があります。
参考図書は多々ありますが、私がお奨めするのは以下です。
これらを熟読し、過去の問題を参考に自分で変化させた設問を作り、表現を変えて何度も回答を升目に埋める。そうやって練習したノートが4冊と携帯サイズの原稿用紙が2冊ほど残っています。そうとう入れ込まないと合格出来ないと思います。
一次試験の合格率は15-20%です。
二次試験は面接と実技ですが、養成講座受講した人は実技は免除されます。実技で緊張して目が眩んでコナラとミズナラを間違えたりすると、不合格になります。
「森との共生-持続可能な社会のために」-藤森隆郎 森林の入門バイブル。試験問題の出題者。
「写真物語森の生態系-森のシナリオ」-西口親雄
「森林インストラクター-森の動物・昆虫学のすすめ」-西口親雄
「森の何でも研究」-西口親雄
「樹と森のものがたり」-西口親雄 西口氏も出題者
「環境と文明の世界史-人類史20万年の興亡を環境史から学ぶ」
-安田喜憲+石弘之+湯浅赳男
「ことわざの生態学-森・人・環境考」-只木良也
「森と人間の文化史」-只木良也
「森の文化史」-只木良也 類似したタイトルだが、内容は異なる。
「森を創る 森と語る」-稲本正
「森をつくる人々」-浜田久美子
「生態系を蘇らせる」-鷲谷いずみ
「雑木林に出かけよう」-八田洋章
「日本の森はなぜ危機なのか」-田中淳夫
「いちばん大事なこと」-養老孟司
「木材なんでも小事典」
「植物はなぜ5000年も生きるか」
「森林の100不思議」
「森林の手入れ基礎知識」-(財)日本緑化センター
「楽しもう森林レクリエーション」-(財)全国森林レクリエーション協会
「すぐわかる森と木のデータブック」-日本林業調査会
「林業白書」
「高尾山 花と木の図鑑」 野外実習の登竜門「高尾山」の樹木・林床植物の図鑑。充実している。