「夏は去りて秋は来ぬ、と山も呼べば川も歌う 低くたれし空も晴れて澄み渡れり、高く、青く」 さても、耐えがたかりしこの年の夏よ。 その酷暑の暑さも過ぎて、すがすがしい秋になりました。 連日、三十三度だ、五度だと苦々しい顔をして言った人々が「そんな事ありましたか」と思い出せないような涼しい顔をしています。 「のどもと過ぐれば熱さを忘れる」とは、よく言ったもの、もっとも初秋の序曲に台風という演奏のあることも覚悟しなければなりません。 日本は、まさにその行列の通り道、次ぎ次ぎとオーケストラがやってまいります。 そしてそれが通り過ぎた後、本当のさわやかな秋、平和な秋がやってまいります。
野辺地天馬著「晩秋の感謝」より