いよいよ秋も深くなりました。冷気も日に日に強くなり、暁け方などは寒さをおぼえるほどになりました。 果物も枝からもぎ取られ、穀物もおおかた刈り取られ、わずかに柿の木だけが、はだかになった枝の先に、赤い果を宝石のように見せています。 やがて収穫のおわった畑の上に、銀色の霜が降りることでしょう。 おお静かな晩秋であることよ。春から夏へ、夏から秋へと忙しかった果樹や田畑がようやくその働きをおえて、冬の息みに入ろうとしているのです。 かれらは、いと安らかに、いとつつましやかに、その功績をほこらず、あたかも「無益のしもべ、なすべきことを成したるのみ」(ルカ十七の十)と小さな声で私語しておるかに見えます。
野辺地天馬著「晩秋の感謝」より