油屋種吉の独り言

日記や随筆をのせます。

晴れの日がつづいて。

2023-10-24 10:04:54 | 小説
 このところお天気がいい。
 晴れの日がつづくと、こんなにも気分が
さわやかになるものかと嬉しくなる。

 体温に近いほどの高温、それにゲリラ豪
雨と……。これが永らく温帯に属していた
我が国の気候かといぶかしんだ。

 ひさかたぶりの日本晴れが、それらの重
々しい気分をどこかに吹き飛ばしてくれた。
 
 まずは、生まれて以来ずっと弱かった胃
腸の調子が良くなった。
 それに皮膚の荒れが収まった。
 
 これには、最近、つとにさつまいもを食
している恩恵があるようだ。
 さつま、と聞くと、近ごろ亡くなった昭
和元年生まれの母を思い出す。
 いい想い出も身体にいい影響があるもの
のらしい。

 「小さい手でうねを掘っては、赤い赤い
さつまがつぎつぎとび出してきょる。それ
を見たお前がぼこん、ぼこん言うて、えら
いよろこびよった。お母ちゃん、それがう
れしゅうてな、がんばって、芋の苗をぎょ
うさん植え付けたんやで」

 物のあふれる今とは違い、その頃は子ど
ものおやつもままならなかった。

 娘のころ、重いものなどあまり持たなかっ
た母が嫁に来たとたんの野良仕事。
 いやでも母を強くした。
 父の頼みで義理の兄の野良仕事の手伝い
に行かなくてはならなかった。

 昭和二十年から三十年代にかけて。
 まだまだ昔ながらの家父長制度の名残が
あちこち厳然と存在していた。

 昭和二十八年に、耕運機が開発されたが、
市中にはいまだたくさん出まわっておらず、
田畑を掘り起こすのは、いまだ牛馬の力に
頼った。

 苗の植え付けから刈り取りまで、すべて
人力である。

 食管法がきびしく施行されており、出来
た米は俵につめ、それらを積んだ荷車を農
協の倉庫まで牛に引かせた。

 機械化が進み、農家に嫁いだ方たちは野
良仕事から解放されるにつれ、活き活きと
してきた。
 田舎が彼女らの笑い声でいっぱいになっ
てきた。

 素晴らしきかな。
 古来、女性は太陽であった。
 
 読書の秋でもある。
 中村文則さんの新刊「列」を読み始めた。
 
 中村さんは、優れた才能の持ち主であり
今まで芥川賞をはじめ、かずかずの著名な
賞を受けられてきたのは、みなさまご存じ
のとおり。

 列に居ならぶ人を、カフカ流に、蟹にた
とえられたりと……。
 その優れた描写力に脱帽。
 
 きのう、髪を切りに街まで出た。
 六十代の後半あたりから、めだって、薄
くなったわが愛しの髪の毛。
 正午から二時間は、ふだんは980円の
カット代金がなんと300円近くもプライ
スダウンされるという。
 わたしも含め、人々がわれさきにと列を
作った。
 
 正午まで半時間あまり。
 受付の始まるまで、人の列はおとなり餃
子屋さんの商売のじゃまにならぬよう、く
ねくねと曲がった。

 まるで中村さんの小説世界にまぎれこん
だよう……。
 わたしは、前や後ろに並ぶ人たちの表情
や動作に注目していた。

 「列」は、一読の価値あり。

 秋の夜長のひととき、彼の小説を読んで
楽しまれてはいかがでしょう。

 共に暮らした家族は、もはや、すべて鬼
籍に入った。
 われひとり異郷で、子や孫たちとともに
生きている。
 秋は、人をして、物思いにひたらせる。

 楽しからずや。

 

  

 
 
 
 
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そうは、言っても。  (17)

2023-08-17 19:43:42 | 小説
 「あんた、まったくもう、一体どこへ行っ
てたのよおう。何度も電話したのにでなかっ
たじゃないの」
 種吉が帰宅してすぐに汗を流そうと、浴室
の更衣室にとびこんだ。
 そこに、いきなりの種吉のかみさんの罵声
である。
 種吉は返す言葉につまった。
 「あれれ、何があったっけ?」
 「あったなんてもんじゃないでしょ。あん
たったらもう……」
 話のなかみが判らない。
 主語がなく、だらだらと述部ばかりの話が
つづいて、種吉はいささかうんざりする。
 プラス思考って、常日ごろ、話している人
にしては、いいところもあるのに、種吉の欠
点ばかりひろう。
 「ちょっとわるいけど、シャワーを浴びて
からにしてくれる?頼むよ。とっても外は暑
かったんだもの」
 種吉がやんわり言い、身に付けているもの
を脱ぐと浴室に入った。
 二つ折りのドアをグッと内側に引き寄せる。
 (いくらかみさんでも、こうすれば、もは
や入っては来れぬぞ)
 叫んではいても、彼女の話から、近所のど
なたかが亡くなったらしいことは理解できる。
 興奮しているのか、彼女は簡単には引き下
がらず、更衣室にとどまる。
 よほど急なことだったのだろう。
 かみさんがあのようにふるまうのは、めず
らしい。
 「おら、おら、はだかんぼうじゃきに。そ
こまでするこたあ、ねえだろ。ああかっこわ
るかんべなあ」
 種吉が水道の栓をひねると、いくつもの細
かな穴から、勢いよく水が飛び出してきた。お
盆に食べたそうめんを、種吉は思い出した。
 かみさんの声が、シャワーの音で、かき消
されてしまえばいいなと思う。
 「年取ってるくせに、いまさら、若い気を
だして、あんたって、人は……」
 「ええっ?」
 彼女の話がまったく別の方向へと、向かっ
てしまいそうだ。
 ああもういやだし、と、種吉は空いている
左手で、左の耳をふさいだ。
 (おらのカラオケ道楽のことを批判してい
るのだろうが、入院して治るかどうかわから
ない病と闘っていることを思えば、これくら
いは許されてもよかろう。五十くらいの時に
一度、検査入院の経験があるだけだぜ)
 「下手でもなんでも、じぶんが楽しく歌っ
ていたりすると、聞いている人は、何か感じ
て拍手してくださる。歌うことじゃ決してわ
るいことじゃないよ」
 種吉は、更衣室にいすわるかみさんに向かっ
てつぶやくように言う。
 「ええ?いま、なにか言った?」
 かみさんの顔が、スリガラスに、大写しに
なる。
 「いんやいんや、なんでもございません。と
にかく落ち着いてください。よおく話をうか
がいますので」
 「うん、わかった。あのね、となりのYさ
んの旦那さんが、急に亡くなってしまわれた
んだって……。班長のTさんから電話連絡が
あったのよ。先日、救急車でK病院に運ばれ
てたんだって、知らなかったわ。あんたに連
絡しようと何度もラインメール入れたり、コ
ールしたりしたのに、ぜんぜん応えてくれな
かったんだもの」
 おしまいのほうが涙声になる。
 「わかった。わかったから、もうちょっと
待っててくれる、すぐに出るから」
 「五時には、班の人みなで、仁義にいくこ
とになってるの。あんたはむりでしょ?わた
しが行くから」
 「お願いします」
 冷たい水を、からだ全体に、浴びているに
もかかわらず、なぜか種吉の胸の内にあつい
思いがわいてくる。
 (このお盆、Yさんの奥様の新盆だったな。
そういえば、彼の家のどこにも、Yさんの姿
がなかった……)
 先だって、ごみ出しに行く道すがら、種吉
がYさんにお悔やみを申し述べたばかり。
 その時のYさんの悲し気な顔が、種吉の脳
裏にあざやかに浮かんだ。
 種吉は浴室から出ると、急いで身支度をと
とのえた。
 折からの激しい夕立である。
 雷鳴が山あいにとどろく。
 (どなたか人生五十年、下天のうちになん
とかって言ってたよな、むかしむかし。それ
くらいは医療の発達がなくても、人の身体は
もつようにつくられてるってことか。なるほ
ど。それ以上長く生きられるかどうかってこ
とになると、神さまだけが知っておられるわ
けだ。やはり、一寸先は闇ってことか)
 ズボンの足もとが濡れるのが気になる。
 種吉は前かがみの姿勢になると、ズボンの
すそを、大きく二つ折りにしてから、大きめ
の黒傘をひらいた。
 
 
 
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そうは、言っても。  (16)

2023-08-15 07:37:34 | 小説
 八月十五日の早朝。
 台風七号のせいだろう。ときおり、二階の
屋根を雨が激しくたたく。
 突発性難聴をわずらっていて、両の耳が聞
こえにくい種吉にしてはめずらしい。
 種吉はふと目をさまし、きょろきょろとあ
たりを見まわす。
 容易に、気になる場所に、思いの焦点があ
てられない。
 (あれは夢だったんだな。いったい誰やろ?
ずいぶんと年老いている。小男?だった気が
する。昔むかし、はやったどてらを着こんで
いた気がする。こんな季節にな。それもきち
んと身に付けてはいず、胸から下腹部あたり
までからだの前がまる見えで、ふんどしだっ
たろう。白っぽい布切れが彼の大事な部分を
隠していた)
 その小男はふと立ち止まると、ふずまの隙
間からそっと種吉の部屋をのぞきこんだ。
 にこにこ顔なのが救いだった。
 種吉は恐ろしくなり、彼の心臓がドクンド
クンと鳴り出した。
 その小男の右手が少し上がると、どてらの
袖がずるりと下がった。
 彼はまねき猫よろしく、おいでおいでをや
りだしたからたまらない。
 どこかで見た顔みたい……。
 種吉はひっと叫んだ。
 わっと叫んで飛び起きた。

 以前にもこんなふうなことがあったなと種
吉は思う。
 もう三十七年も前のこと、時刻はたしか今
回と同じくらい。
 ここまで考えて、種吉は、今度の夢の意味
がすんなり納得できた。
 (なあんや。今はお盆さまの時期だもんな。
このうちとゆかりのある方が、あちらの世界
から抜け出ていらっしゃったって、なんの不
思議があるわけはないやろう)
 種吉の頭の中のスクリーンに、このうちの
ご先祖さまが、遺影の中から、むくりと浮き
上がってきたのを思い出した。
 種吉のほうに顔を向け、ほほ笑んでおられ
た。
 「おまえさんだって、おらとおんなじ立場
だんべな」
 そんな言葉が、種吉の耳の奥で聞こえた。
 なぜだ。なんでや?と、種吉はしばらく考
えてから、ようやくその原因に気づいた。
 ほとんどの物を、新しい家がたちあがった
と同時に新居に運び入れたが、旧家の鴨居に
差し込んであった、二代前のご先祖の写真を
持ってくるのを失念していた。 
 まだ朝日が山の間からのぼっていず、辺り
はようやく白みだしたばかり。
 種吉のからだが歩くたびにふらつく。
 足もとに気をつけながら、五分ばかり、と
なりの家の庭先を通り抜ける旧家までの道の
りを歩いた。
 二代前の大黒柱も、近所からおいでになっ
ていた。
 むこ様だったのである。 
 種吉はベッドからさっさと下り、階段をす
ばやく降りた。
 洗面所で顔をあらい終えるとコップ一杯の
水をごくごくと飲んだ。
 草刈りが原因の筋肉の疲れは、もうずいぶ
んと治ってきているらしい。
 からだが動きやすい。
 大事にすりゃ、おらの身体、まだまだ動け
ると思うと、とてもうれしかった。
 台風七号は強い高気圧のはりだしのせいで、
その進路をやや西寄りに変えた。
 紀伊半島のねっこのあたりに、種吉の実家
がある。暴風雨におそわれ、建物がおおゆれ
だろう。
 でも大丈夫と、種吉は思う。
 それぞれの家のご先祖さまのみ霊がいらっ
しゃる。何か事が起きれば。すわっとばかり
に、彼らが姿をあらわしてくださる。
 ふだんは家のどこかにひそんでいらっしゃっ
て子孫たちを、じっと見守っておられる。
 自然は科学では割り切れない。
 人さまが理解できないことがたくさんある。
 お盆さまにあたって、種吉はそんな思いを
強くするのである。
 「それにしても、どてらのご先祖さま、こ
の家に半世紀にも渡って住みついている。ど
もりだしたかと思うと、やたらと片目をつぶっ
てしまう。情けないかっこうのおらに、いっ
たい何が言いたかったんだんべ?」
 彼にじぶんの言葉が聞こえれば、まして返
事がいただけりゃありがたやと種吉は思う。
 だから、その思いをわざと口に出して言っ
た。
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そうは、言っても。  (15)

2023-08-12 13:03:45 | 小説
 令和5年8月12日。
 種吉は、午前四時ごろ目をさました。
 ぼんやりした頭で、きょうなすべきことを
考えてみようとしたが、下腹が妙に重々しい。
 あっそうやと思い、ベッドを両の手でささ
えた。
 すばやく動きだしたいのだが、思いに行動
がついて行かない。
 二、三度からだを揺すってから、
「よっこらしょ」
 と声をかけた。
 からだのわりに大きめのふたつの足を、た
たみの上に置き、しげしげと眺めた。
 (ここまでずいぶんと長く働いてくれたな)
 種吉は愛おしくて、胸がじんときた。
 しばらくして、もう一度、よいしょ、どっ
こいしょと、両腕に力をこめ、ようやく立ち
上がった。
 用を済ませ、部屋にもどった。
 さっさと常の服に着がえ、トントンと一階
に下りたいところだが、いまだに気分がすっ
きりしない。
 いま一度ベッドに横たわった。
 ここら辺が、起きがけからさっさと動ける
三四十代ころと違うところだな、と種吉は思
う。
 心底、横になってたほうが楽なのだ。
 ベッドのすみで丸くなっていた、クロと三
毛猫のたまは、種吉がもぞもぞと動き始める
なり、さっさとどこかへ行ってしまった。
 あくせくあくせくしていて、なんぼのもん
や。数えで七十七歳まであと少し、よくぞ
ここまでもってくれたぞ、わが身体、とほめ
てやりたくなる。
 見るべきことはすべて見たし、やるべきこ
とはすべてやった感が強い。
 (金が欲しくて、この歳で、塾だ、商いだ
とむりやり世の中に出ていって、今さら何に
なる。恥をさらけ出すようなものじゃないか。
浮き世にいるのもあと少し、静かに過ごした
ほうがいいのじゃないか)
 しかし、今どきの値上げラッシュ。
 なかなか、そんなわけにはいかない。
 草刈りひとつ、せがれたちに任せられない
のだ。
 (おらはいま少し、何が何でもがんばらな
くちゃならない。中途でへたばろうとかまわ
ない)
 そう決意したら、気持ちがすっきりした。
 実家の両親、きょうだいふたりも、すでに
あの世とやらにいってしまっている。
 「もうちょっと、そっちで、おらがいくの
を待っていてくれ。みやげ話をたくさん持っ
ていくからな」
 ふわりと種吉の魂が、天井辺りまでのぼり
そうになる。
 「おめえさん、まあだ、寝てるんだね」
 かみさんのかん高い声が、階下で聞こえた。
 とんとん、とんとん。
 どうやらうちの飼い猫たちがお迎えに、階
段をのぼってくるらしい。
 種吉はさっさとつねの服を着た。
 一匹、二匹と、なついてくる猫たちを両脇
にかかえた。
 「今、行きます。きょうは猫ちゃんたちと
は遊びません。すみませんね。どうもきのう
の草刈りの疲れが残ってしまって」
 そう言いながら階段を下りた。
 我が家の家族三名がすでにキッチンに勢ぞ
ろいしておられる。
 「待つ身になってください」
 すでに朝食の用意ができている。
 かみさんの一言が、矢となって、種吉の胸
に突きささった。
 「明日、我が家に、たくさんのお客さまが
お見えになるから。先ずは墓そうじ」
 かみさんの号令いっか、種吉初め、せがれ
たちの身が引きしまる瞬間である。
 「なんだい。その白いの?足とか手に貼っ
ちゃってさ」
 「起きようとして、右手首と右足の甲あた
りが痛んだんでね。シップ薬をはりました」
 種吉が訴えた。
 「ふうん、もう歳なんだね。気を付けてや
るんだよ」
 予想もしないかみさんのねぎらいの言葉に
種吉のまぶたがちょっとだけ濡れた。
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マイナカード物語

2023-08-09 09:34:29 | 小説
 種吉が朝から元気がない。

 お気に入りのぬれ縁に腰かけ、わきからひょ
いと種吉のひざにのってきた飼い猫のからだ
を、あちらこちら、なでてやってはいるのだ
が、いまひとつ気持ちが入らない。

 「みやあっ」
 種吉の顔をみて、ひと声鳴いた。

 「ああ、おめえも心配してくれのかい?わ
るいわるい。言葉のつうじぬおめえに話して
もせんないことだけんど、おらのカードのぐ
あいがわるいんだってよ」

 「みやあああっ」
 もうひと声鳴くと、彼は種吉の左手を、丹
念になめはじめた。

「まあ、お上がやられるこった。最後までお
手なみ拝見といこうか。それにしてもいやし
いよな、おらの根性、たかだか二万の金が欲
しくってよ。命とおんなじくらいに大事なふ
たつの証文、世の中にさらけだしてしまいや
がった」

「おまえさん、ごはん出来てるよ」
家から、種吉のかみさんが出てきた。

「ああ、いつもお世話さんで」

「ばかだねあんた。ひょっとしてどうかした?」

「はい、とっくに」

「食べないと、かたづけっちゃうから」

「はい、いいでげすよ」

「ばかも、ほどほどにしな」
 種吉は、ますます今はやりのマイナス思考と
やらにはまりこんでいく。

 不意に、隣の家の雌猫が納屋のわきから現れ
た。彼女の気配を察知したのか、種吉の雄猫は、
あわてふためき、彼女のもとへといそぐ。

 「おい、これ、どこさ、行くんだ。気をつけ
ろ。おんなはこわいぞ」

 「おんなって、今、あんた言ったね」
 
 「いんや、そういうことは言っていません。
おたく様の聞き違いです」

 「へえ、そうかい」
 種吉のもとに近寄ると両手を腰にあて、ぐいっ
と顔を
種吉の目の前に突きだし、にらみつける。

 「あれかな、もうちょっと、ここで頭を冷
やしてますです」

 「ふうん。まあ、いいけど」
  
 その後も、種吉の独り言がつづいた。

 (おかみがやりなさることだよ。そのうち
なんとかしてくださるって、そんなにしんぺ
えすんなって。それにしても、うちのかみさ
んより、こええなんてもんはいねえ……)

 種吉のかみさんは、あきれたとばかりにた
め息をひとつつき、すたすたと歩いて玄関へ。
 戸をぴしゃりと閉めて、家のなかに入って
しまった。





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