油屋種吉の独り言

日記や随筆をのせます。

せっせと草刈り。  (3)

2024-09-17 20:02:48 | 随筆
 九月十七日(火) くもりのち晴れ
 朝方はとても涼しかった。
 気温をみると、なんと摂氏23度。
 空は灰色の雲におおわれていて、お日さまが顔を
出す気配がまったくない。

 (こりゃあ、一日、楽勝楽勝)
 すこぶる元気づき、自然と相好がくずれる。

 しかし、しかしである。
 午前十時を過ぎるころには、二階の屋根が白々と
してきた。
 「あれれ、やっぱりだめでしょうか」
 おらは窓際に寄り、ひとりごちた。

 きのうは山の畑の小道の膝上二十センチくらいま
でにのびた草を、幅二メートルにわたってせっせと
刈った。

 二時間くらいついやして、きょうのからだはその
せいでけっこうくたびれている。

 「きょうはお休みにしてしまおう」
 と声に出し、ドサリとPCの前にすわった。

 ブログを、なんと、三つも四つも書かせていただ
いている。
 まことにありがたいことで、その日、その時の気
分に応じて、いずこのブログに書くか決める。
 まことにぜいたくなことだ。

 書き出して十三年目。
 このところ、歳のせいか、体調が思わしくない時
がある。

 (そろそろ潮時かな。なんだって引き際が肝心だよ
な)
 そう心得て、他人さまにお見せするものとそうでな
いものの区別をつけることを始めた。

 人のいのちはいつ尽きるのだろう。
 他人さまのものではない。おのれの身の上である。
 一寸先のことすら不明だ。
 心の臓がぴたりと止まる。
 それでこの世とおさらばとなる。

 この日も永らくネットの友として付き合っていただ
いている方のごきょうだいが、ふいにお亡くなりになっ
た。

 「姉であるわたしにあの子、まったく、そんな素振り
を見せなかったんです」
 彼女をIさんとしておこう。

 わたしなら、その弟さんの立場だったらどうしたであ
ろう。
 きっとジタバタするに違いなかった。

 二度も三度も振りまわして、ようやく視界がひらける。
 そうやって、おらがのびた草にてこずっているさいちゅ
う、ふと一メートル先で何かが飛んでいるのに気づいた。

 篠竹の群生の上を見やった。
 塩からトンボがふわりと、一本の細竹にとまる気配を
みせた。

 鎌をふるう右手をとめ、そのトンボの動きをみつめる。
 「Fじいちゃん?だよね。おら、できないながらもこれ
までがんばってきたよ。もう少しは楽してもいいよね」
 と語りかけた。

 植物にせよ動物にせよ。
 なんにでも、仏がそなわっている。こまかく言えば、
仏性。
 生き物は転生する。
 そう説く和尚もおられる。

 おらだって、今度この世に生まれてくる時は、めでた
く、ふたたび人間として現れるかどうか定かでない。

 そろっと立ち上がり、右手の人差し指をトンボの目玉
の先に向けた。
 指の先をまわすと、トンボは目玉をくるくる回した。

 警戒するのか、羽を伏せたり広げたり、そのうち飛び
あがった。

 おらのかぶりものが気に入ったのか。よほど立ち去り
がたかったのかわからない。

 トンボは中空を一度大回りしてきて、今度はおらのキャ
ップのてっぺんにとまった。

 (やっぱりじいちゃんだったんだ。もう少しいっしょに
いておくれね。亡くなって、実に三十四年になるね。こ
の間、いくども、あなたがあの世からもどり、農業を知
らないおらを𠮟ってもいいから導いて欲しかったよ)
 と祈った。

 突然風が吹きすぎ、おらのキャップが飛ばされるまで、
トンボは空高く舞い上がることはなかった。
 
 
  
コメント (2)
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