通りがかった図書館の棚にあった本。
勝気で気ままでかわいらしい小鳥ちゃんは何を象徴しているのだろう。
鳥になりたいと思うのは、しがらみを辛く感じている現われだ、と聞いたことがある。
翼は、面倒な場所からひょいと身体を遠ざける便利なものだ。
でも、翼がない人間が歩いて離れるのを、私たちは追いかけることができる。
勝気で気ままでかわいらしい小鳥ちゃんは何を象徴しているのだろう。
鳥になりたいと思うのは、しがらみを辛く感じている現われだ、と聞いたことがある。
翼は、面倒な場所からひょいと身体を遠ざける便利なものだ。
でも、翼がない人間が歩いて離れるのを、私たちは追いかけることができる。
いきなり車がとまった。
「なんだ?」
びっくりして彼女の顔をみたが、彼女はぼくにはおかまいなしで、エンジンをとめ、イグニッションキーをぬく。サングラスをかけた横顔。
「たのしそうにして」
まえをむいたまま彼女は言う。
「たのしくないのなら帰って」
ぼくは困った。急にたのしそうにはできないからだ。かといって帰るのも気がすすまない。
「駐車違反じゃないかな」
フロントガラスごしに道路標識をみながら言ってみた。
ぼくたちは、そのまま黙って車のなかにいた。ひろい道路、角の雑貨屋、そのまえのベンチ。
「こういうとき、あなたの小鳥ちゃんなら窓からとんでいっちゃうんでしょうね」
彼女が言った。
「羽根があるとすごく便利ね」
同感だった。羽根があれば、ぼくこそとんでいってしまいたかった。
「おりましょう」
彼女が言い、ぼくたちは車をおりた。それぞれの足で。車の両側でドアを閉める音。おもいのはか風がつめたい。彼女はぼくの先に立ち、きびきびした足どりで公園に入っていく。ぼくは、彼女に羽根がなくてよかったとおもった。