僕は自転車(1)

2021-04-27 09:22:16 | 童話
僕は自転車、この家の男の子の自転車。
男の子のお父さんの自転車は古いが、僕は新しい。もう一つ、お父さんのとは違うところが有る。僕には補助輪が付いている。
男の子は頑張っているが、なかなか補助輪が外せない。今日も補助輪を外して、お父さんと公園で練習をしている。

『お父さん、手を離さないでね。』男の子が乗った僕がグラグラ、グラグラ。なかなか上手くならない。お父さんが『下ばかり見ているからだ、もっと遠くを見ないとダメだよ。』
だけれど男の子は遠くを見ることができない。
『ほらほらっ、前を見て、遠くを見て。』
お父さんの声は聞こえるが、顔が自然に前の車輪の地面を見てしまう。急に僕がグラグラして転んでしまった。お父さんが手を離したのだ。男の子は血のにじんだひざを見ながら泣くのをがまんしている。
『少し乗れるようになってきたから、もう少しだよ。』お父さんが励ましているが、男の子はひざが痛くて仕方がない。
『男だろっ、頑張れ。』
男の子は『僕は男でなくてもいい。』と思った。

そこへ、男の子の友達が自転車でやって来た。
『なんだ、まだ乗れないのかよ。』と言った。自転車の僕は男の子が乗れるように頑張る
ことにした。グラグラしていても、僕が倒れ
ないようにすればいいのだ。

僕は男の子に『一緒に頑張ろうよ、僕も倒れないようにするから。』といって励ました。
『うん、頑張る。』と言って、友達の前で僕を
漕ぎ始めた。僕はグラグラしながらも倒れな
いように男の子を支えた。