僕は自転車(3)

2021-04-29 08:59:56 | 童話
少し経って、僕の仲間ができた。男の子が大人になって、自分のお金でカッコいいマウンテンバイクを買ったのだ。そして、今迄乗っていた大きな自転車もきれいにして、僕の隣りに置いてある。
2台の自動車で時々お話しをするので僕は寂しくない。

ある日、僕は他の家に貰われて行くことになった。小さな子供が居る家で、自転車の練習をしたいというのだ。
僕は昔を思い出した。転びながら練習をしたよね。僕は今度の小さな子供も上手く乗れるようにしてあげようと思った。

僕が貰われて行く日に、男の子がやって来て、サドルをボンポンと叩いた。僕は涙をこらえるのが大変だった。僕は幸せだったし、今も幸せだ。

僕が他の家に貰われて行く日、今度の家のおじさんが自動車でやって来た。おじさんが僕を自動車に積む時に、僕を大事にしてくれた男の子が、サドルをボンポンと叩いて『今迄ありがとう。』と言った。僕はみんなに見つからないようにして涙を流した。

『バイバイ。』男の子と男の子のお父さんに見送られて、走り出した自動車の中から手を振った。いや、手ではなくハンドルを振った。

ほどなく、自動車は今度僕に乗ってくれる子供の家に着いた。
『わ~い自転車だ、ピカピカの自転車だ。』
『大事に乗るんだよ。』と言っておじさんが僕を自動車から降ろした。
『うん、大事にするよ。』
『明日の日曜日に、公園で乗る練習をさせてやるよ。』
『うん。』と言って僕をずっと眺めていた。