ド田舎大学のある市には何もなかった。
吉幾三の歌そのもの。
45年前のド田舎県ド田舎市はコンビニも無いし、マックも無いし、洋式トイレは無いし…
私が3年の頃、隣県にミスタードーナッツが出来たのだがこのニュースは瞬く間に前県に広がった。
まあ何て事は無い、テレビも新聞も二県にまたがっているからなんだけどね。
でも地域で初めてミスドが出来るって事が田舎じゃ社会ニュースになる訳よ。
最近じゃスタバがそうだった様に。
で、ミスドがどんなものかは知っていた。
遠征で都会へ行った時に食べた事があるから。
「こんなどえりゃあうめえもんが世の中にあったとですかばい」
ド田舎大学生は店先で腰を抜かすのである。
隣県にミスドが出来たニュースは学内を震撼させた。
しかし、汽車(電車ではない、汽車)に乗ってまで買いに行くほどとは誰も思わない。
汽車賃の方が高くつくし絶対他人に馬鹿にされる。
或る後輩は思案した。
「ミスドを最初に学内に持ち込めば間違いなく英雄だ。それをあの子にあげたら多分上手くいくだろう」
そこで彼は自転車に飛び乗ると隣県目指して走り出したのである。
その距離40キロ、向かい風、上り坂彼の目の前には試練の嵐が吹きまくる。
「うう、こんなもんに負けてたまるか!ミスドだミスドだ。俺が最初のミスドマンになるんだあああ」
往復4時間掛けてドーナツ4個を持ち帰った。
ハンドルよあれがド田舎の灯だ…真っ暗だった。