鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

118 夢窓の冬陽

2019-12-05 14:37:00 | 日記


(ピューター水差 オスマントルコ 17世紀)
冬枯れの庭から薄陽の差す窓辺には、ドライフラワーが似合う。
透過光が枯れた薔薇に今一度の輝きを与えてくれる。
そこでぬくぬくと珈琲に静かな音楽で中世の隠者の暮しなぞ想い起こしていると、現代人の精神生活に何が足りないのか良くわかってくる。
寒さと温もり、荒廃と美が交錯する中世の厳しい生活環境の中では、自然の恩寵に対しても今より遥かに敏感になれただろう。
現代生活の暖房の効いた窓の中と、中世と変わらぬ窓外の自然界の落差が夢幻を誘う。

今回の題の「夢窓」は我家の近所にある瑞泉寺の開山、夢窓国師から頂いている。
国師作と伝わる岩窟庭園(昨年既出)は私が鎌倉で最も好きな場所なのだが、近世の出鱈目な普請で庭園周囲を台無しにしてしまった。

(国師を祀る堂の窓)
国師もきっとここや京都の天竜寺庭園のような禅の理想郷や花鳥浄土の具現を、常々夢の窓から観想していたのだろう。
殊に厳しい現世の冬枯の景の中で夢見る、真冬でも花が絶えず鳥達が歌う浄土の景は美しかったろう。
---茎捩り葉を枯らし咲く寒菊に 薄き陽の差す浄土の跡地---

この夢幻界に開く窓の外には冬の菊が殆どの葉を枯らしながらも健気に咲いて、修行の慰みとなっている。

花屋では一年中瑞々しい仏花用の小菊を売っているが、夢幻の窓下に咲く事を許されるのはこの枯れかけた寒菊の方だ。
夢窓国師の抱いた浄土のイメージを全く理解出来ず庭園も伽藍配置もめちゃくちゃにしてしまった現代に、寒菊だけが枯浄土の夢を象徴している。

©️甲士三郎