古来神仙界では桃は不老長寿の霊薬とされて来た。
桃の明るい彩りと瑞々しく張った形が、如何にも若々しさを象徴して不老の効果がありそうに見える。
かなり昔に見た映画で、神仙境のような村があった。
一見普通の長閑な山村に見えて殆どの村人が知的で品性高く、道や家々や花や樹木の配置も美しく、建築や家具什器書画は全て歴史を経た物だ。
村の一番奥まった所にたわわに実った仙桃の大樹が立っていた。
題名も忘れストーリーの印象も残っていないB級映画だが、村の幸福そうな映像だけは覚えている。
その村はキリスト教の天国と違って、実現可能な理想郷に思えた。

(古伊万里色絵四方皿 江戸時代)
皿の絵は西王母へとお付きの童子が仙桃を捧げている場面である。
中国種の桃はお尻が尖っていて、日本の桃とはすぐ区別がつく。
ひと昔には我が楽園の山際に山桃の木があってたまに摘んだりしていたが数年前の台風で倒れてしまい、続けて昨年は庭の中心に咲かせていた枝垂梅もやられた。
同じ庭の杏子の木はかなりの大樹となって健在だが、この春は極端に花付きが悪く実らなかったのは、世界の禍事(まがごと)の予兆だったかも知れない。
どこかで禍事に負けない仙桃の苗が見つかれば、我が夢幻界の庭に植えて世界の安寧を祈りたい。
血糖の呪いで実物の桃が食べられない隠者用に、清朝青磁の桃を入手した。

(青磁桃形水滴 清時代 青磁祭器 李朝時代 青磁盃 明時代)
熟した桃よりもっと若々しい青桃で、不老長寿にも病魔退散にも霊験がある気がする。
有難くアーティファクト(聖遺物)としてお祀りしよう。
盃には普通なら白桃烏龍茶が最適なれども、西洋神の飲物であるネクター(ピーチジュース)を供して疫病禍の世界中にも祈願が及ぶようにしてみた。
おまけで今年新参の猿神様を紹介しよう。

戦後まもなくの頃の輸出用セトノベルティーの猿で、私が申年生まれと言う事でヨーロッパから御帰還願った。
取り合せは白桃では大き過ぎたので李にして、我が荒庭の一画で楽しく遊んでくれると良い。
ただ先住の神獣達と仲良く出来るだろうか、少し心配だ。
©️甲士三郎