立春を過ぎても寒い日が多いが、我が荒庭では梅が2〜3輪咲き出した。
来週は梅の名所である近所の瑞泉寺にでも吟行しよう。
梅の詩仙と言えば宋時代の詩人林和靖がいる。
彼は我が国では梅より鶴の仙人として知られており、絵になる取り合せなので多くの画像が残っている。
(林和靖図 狩野芩信 江戸時代)
鶴と仙人が描いてある古画はみな林和靖だと思えば良い。
花鳥楽土で詩人の理想の暮らしの体現者として崇められて来た。
文人知識人は古来皆この絵のような精神生活に至りたいと願っていたのだろう。
シンプルだが静謐感のある高雅な絵で、隠者も気に入って画中の世界に浸っている。
神仙画と珈琲に鶯餅で和洋中の文化の良いとこ取りのコーヒータイムだ。
外の梅にはまだ少し早いので、この画幅を掛けて暖かい室内でゆっくりと春の花鳥楽土の詩句でも案じよう。
こちらは中国清朝時代の林和靖。
(延年寿 竹園)
経年の汚れで見え難いが、鶴と仙人に従者が描かれている。
中国では今でも鳥を飼う人が多くいて、愛好家が集まって鳴き競べなどもよくやっている。
日本人の方がそう言った楽しみに興味を抱かなくなったように思う。
鎌倉も一昔前なら狭庭の梅に小鳥の声を愛でるような暮しが普通だったのだが。
現代でも鶴は無理でも小鳥達と共に春を喜ぶ事は出来る。
(春禽図 奥村土牛)
先師奥村土牛の若い頃の直筆で、師には珍しい軸装でそれもかなり傷んでいたのを私が修復した。
具墨(胡粉と墨を混ぜた色)の重ねに師独特の技法があって、私には真贋の判別が付け易い。
土牛師のこの絵はちょっとした縁で我家に来たのだが、その経緯は別の機会にしよう。
師の命ある者達に対する思いが良く伝わってくる。
ーーー春来れば此処に彼処になに飾ろ 梅に椿に先師の画幅ーーー
©️甲士三郎