鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

288 春日の写俳

2023-03-16 13:01:00 | 日記

今週は鎌倉も急に暖かくなり、種々の花が一気に咲き鳥達も朝の食餌に忙しんでいる。


こんな日は手軽に写俳(写真と俳句)でも楽しみながら、春陽の谷戸の散歩に出よう。

家を出た所で先ずはウォーミングアップの一句。

ーーー裏壁に桜の色の照り返しーーー



染井吉野や山桜はまだ先だが、彼岸桜はもう満開になりそうだ。

花の明るさにつられ桜の根本の蒲公英の蕾も膨らんで来て、我が谷戸は来週あたりから春の盛りとなるだろう。

昨年は麗らかな真に春らしい日は5〜6日しか無かったので、今年はそんな日和は1日も逃さずに心して味わいたい。


小鳥達も活発に飛び回り、様々な声色の囀りは雲上の奏楽天のようだ。

ーーー眩しさに見えぬ辺りで囀れりーーー



今週は毎日早起きして花に来る鳥の撮影をしているのだが、例によって病眼のためにピント合わせがままならない。

この写真はうまく撮れた方なのだ。

山影で遅咲きのこの梅も満開となり、目白や鶯が替わる代わるにやって来る良き撮影スポットだ。


もう少し行くと琴の師範の家があり数年前まではよく稽古の音が聴こえていたのが、最近はあまり聴こえなくなり心配している。

ーーー囀りの中に古曲の伝授かなーーー

この上もしも鳥の囀りまで無くなったとしたら、我が谷戸の春は如何に淋しくなるか想像も付かない。


散歩路の傍らに可憐な花が咲き競う様子は、その小世界に入り込めればまさに楽園だ。



ーーーお茶の時菫に光足りし時ーーー

古来種の菫草は西洋スミレよりはるかに小さく、足元をよく見ていないと踏んでしまいそうだ。

品の良い紫の可愛らしい花は路地のあちこちに咲き、我が荒庭の一隅にも咲いている。

菫や犬ふぐりは春光の集まる場所に咲くので、しばらくしゃがみ込んで居れば春陽の精達の騒めきにも観応出来るかも知れない。


家人に老舗の和菓子でも買って帰ろうと思ったが、お目当ての品は予約していないと午前中で売切れてしまう。

ーーー行く春や夢色和菓子売切れてーーー



(文机 江戸時代 菓子桶 江戸時代 急須茶杯 昭和前期 李朝徳利)

仕方なく買って来たスーパーの三色団子でも案外楽しめる。

古びた文机の飴色の艶に春の花や和菓子の淡い色彩が引き立って、その時節に適した器を使えるなら今のスーパーコンビニの菓子類は十分高級品だと思う。

ーーー卓上の杏散りだし月曜日ーーー


写俳は世界の重層を表現するのに適し、スマホやPCで俳画よりずっと短時間で出来る所が良い。

実は俳画で最も難しいのは俳句でも画でも無く、書で失敗する事が多いのだ。

まあ何をするにも名作傑作と意識し過ぎなければ、春のひと時を心豊かに過ごす事が出来るだろう。


©️甲士三郎