酷暑を凌ぐ音楽を探して15年振りくらいにクラシック音楽全般を聴き直したが、近年は古楽を再現したりお馴染みの曲でも最新の録音技術で再録された良作がかなり増えていて有り難い。
西洋クラシック音楽と和歌が意外と合う事に気付けたのは今年の大きな収穫だ。
この暑さの中にも高雅な心を伝えてくれる名歌を今一度紹介しよう。
(直筆短冊 与謝野晶子 牛ノ戸花入 昭和前期)
「夏祭よき帯しめて舞姫の 出でし花野の夕月夜かな」与謝野晶子
これは彼女が初期に詠んだ二首を合わせ晩年に改作した歌で、どの歌集にも入っていない幻の歌の自筆短冊なのだ。
この神代の夢幻の儀式を想わせる美詠には、竪琴(ハープ)の名手ジュディ・ローマンのギリシャの神話世界のような音楽を合わせたい。
彼女は一昨年80歳過ぎにして古曲や中世の旋律を復元し、見事に現代風に編曲したニューアルバムを出した。
特に「Oblivion 」は色々な人が色々な楽器でやっている中、正に楽神アポロンの心の琴線その物を奏でるような妙技で隠者も心酔させられた。
他のアルバムではバッハのフランス組曲などもアレンジ演奏共に絶品だ。
願わくば日本の箏にもこの位の奏者が出て来てくれないだろうか。
古今新古今風の和歌の典雅な調べにはバロック音楽が良く似合うので、そこに加えて清涼な冷茶でもあれば俗世を離れた浄界に浸れる。
(SERENADE 石版画 竹久夢二)
暑い時期のBGMにはドイツ古典派シンフォニーのような大袈裟な音量の強弱があると、老隠者にはやや煩わしく聴こえてしまう。
強弱の差が少ないバロック音楽は秋冬向けなら断然バッハのピアノ曲か弦楽を選ぶが、夏にはハープやリコーダーの音色が涼しげで酷暑を凌ぐにはお薦めだ。
キース・ジャレットのチェンバロとミカラ・ペトリのリコーダーで出たヘンデルのソナタ集はかなりの音楽通の耳も満たしてくれるだろう。
こういった古風な笛の音を聴くと、以前我家で演奏してくれた自然の中で尺八を吹く旅をしていた老人を思い出す。
写真は晩夏の明るさの中にも哀愁を帯びたメロディーが聴こえて来るような、竹久夢二のクラリネット吹きの石版画だ。
ーーー笛吹の旅風の音水の音 褥に聴くは遠き星音ーーー
笛と言えばこの季節の我が谷戸では連日子供達による祭囃子が聴こえて来る。
子供達の夏休みの終り頃には鎌倉宮の例祭と盆踊りがあり、コロナ禍で中断していたのが去年今年でかなり賑いが戻ったようだ。
酷暑に負けず元気で可愛らしい子供達の半被や浴衣姿を見るのは、鎌倉の古老達にも大きな喜びとなろう。
鎌倉の盆踊りでは何故か昭和のアイドル荻野目洋子の「ダンシングヒーロー」が大人気だし、屋台の光景は井上陽水の「少年時代」のような懐かしさがある。
そこで上の写真も100歳近いライカの老レンズ(ヘクトール)でノスタルジックな描写にしてみた。
ーーー涼風の町星の路地子等の家 みな美しき影となりゆくーーー
(先月の俳句を改作)
悲しい事に先週18日にはフランス映画界の大スター、世紀の美男アラン・ドロンが亡くなった。
彼が主演した「太陽がいっぱい」「冒険者達」などの古き良き時代の青春映画は、私も若い頃大いに憧れたものだ。
ーーー哀悼の夜の鬼灯の仄明りーーー
©️甲士三郎