鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

336 如月の花菓

2024-02-15 13:02:00 | 日記

ーーー花競ひ菓子の色彩(いろあや)競ふ街 鎌倉人よ装ひ集へーーー

昔の良家は立春後のこの時期に年間の茶事酒宴の予定を立て、必要な物を早めに注文し取り揃えていたそううだ。

それに習い現代人も時節の花や花器の計画は年頭に立てておいた方が良い。

昨今では花屋でも和花を見なくなり、自家で植えたり種を撒いたりしなくてはならないのだ。


また和菓子も色や形を凝った手作りの物が段々消え、機械作りの量産品ばかりとなっている。



(黒唐津面取壺 大正頃 黄瀬戸筒茶碗 黄瀬戸小皿 江戸時代)

長年色々と試した結果、紅梅には黒釉の花入が一番似合うと思う。

一見黒高麗に見える花入は100年ほど前の唐津か近辺の民藝釜だろう。

我が荒庭のこの紅梅は香りも高く、いち早く春の喜びをもたらしてくれる。

茶菓子は老舗の春らしい彩りの三色大福があるのだが私には大き過ぎる。

私は例の血の呪いでほんのひと齧りしか出来ないから、コンビニやスーパーの小振りの物が返って都合良いのだ。

しかし全国的にも手作りの和菓子屋は激減しているそうで、鎌倉でも良い店や職人が減り季節の形や彩りを楽しめる和菓子は少なくなった。


季節の花と茶菓子の取合わせを考えている時間は楽しい。



(古丹波小壺 江戸時代 上野焼珈琲器 昭和前期)

大振りの薄紅椿には意外と珈琲が合う。

日本の椿は19世紀のヨーロッパに輸出され、あちらの貴族庭園でも大人気となっていて、この写真もその時代の雰囲気を狙って組合せてみた。

寒椿と違って春咲きの大輪の椿は、やや薄暗いような光の中でこそ耽美主義的な味わいが出る。

茶器も沈んだ色味の方が好ましい。

またこの小さな最中もコンビニの和菓子詰合せで、私の茶菓は節季ごとに一口、花が変わるごとに一口だがそれでも楽しい。


菜の花には鄙びた素朴な花器が良い。



(黒牟田酒壺 紅志野茶碗 大正〜昭和頃 古美濃皿 江戸時代)

この惚けた形の口付き酒壺がいかにも春の田園を思わせてくれる。

家人のために買って来た苺の生菓子と薄紅に発色した絵志野茶碗を取り合わせれば、明るく暖かな如月のひと時を過ごせる。

菜の花の黄色と葉の黄緑は結構濃厚な色あいなので、茶碗も色味のある物を選ばないと引き立たない。

いずれにせよ菜の花を飾るなら戸外の陽光を感じるような花器茶器で楽しもう。


これから4月までは種々の花が咲きつぎ、また詩画に茶菓にと目眩くような麗しき日々が来る。

この季節を精一杯味合わないのは人生の重大なる損失なので、諸賢も良き春を高雅に過ごして頂きたい。


©️甲士三郎



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