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ーーー藤棚の上(へ)は秘めやかに光満ち 友鳥集ふ紫浄土ーーー
それぞれの月を象徴する色が、3月は薄紅なら4月は藤色だろう。
鎌倉の山々は天然林なので山藤も多く自生していて、早朝の散歩道にも山裾から張り出した藤が爽やかに揺れている。
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この山藤は他より淡く上品な色調で、土壌によって同種でも多少発色が違うらしい。
まだ薄い若葉色と薄紫の取合せは隠者好みで、品の良い爽やかさを感じる。
藤は風薫る谷戸のあちこちに戦いで暮春晩春の我が暮しには欠かせない彩りだ。
藤の蔓は他の木を枯らすので切ってしまう人もいるが、鎌倉の山は自然に任せて放っておくべきだと思う。
それでも山藤は台風の塩害に弱く、鎌倉では10年に1度は被害に遭う。
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こちらの藤は山から写真外の家の庭木にまで這い移っていて、そこのご主人は切らずにそのまま楽しんでいる様子だ。
庭に入った事は無いが、この時期は後ろの山の藤と合わせてさぞ見事な眺めだろうと思う。
鎌倉の山際の家は何処も山を借景にした庭を作れるのが長所だが、近年は戦前からの良い家屋や庭がどんどん壊されて行くのが残念だ。
八幡宮の弁天島の神前には白藤の棚が広がっている。
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たまたま通り掛かりに鳩が藤の花を食い散らしているシーンが撮れた。
鳩も藤棚上の中の方だと下からは見えないので、この端の位置で運良くカメラに納められたのだ。
白藤の下には弁財天の小さな朱塗の社があり、紅白の色彩の対比が鮮やかだ。
これが紫の藤だとそれほど良くは見えないだろう。
我が荒庭の藤を活けてコーヒータイムにしよう。
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本は土井晩翠の「天地有情」。
紫と黄緑の彩りを壊さぬように、緑釉の花入と茶器を選んだ。
今日を思い返せば山腹から谷戸筋に雪崩れるように咲く山藤は、鎌倉の天と地を繋ぐ美しき鎖のようだ。
土井晩翠は新体詩の詩人の中では漢文調の気宇壮大な叙事詩に良さがある。
また彼の訳によるオディッセイは気韻生動する名訳なのに比べ、戦後の韻律も何も無い口語訳ではホメロスが嘆いていよう。
彼が一編でも鎌倉武士の英雄叙事詩を書いていたら愛唱したのにと思う。
今週末の鎌倉祭ではようやく流鏑馬が復活するらしいが、まだ観客数は制限されるそうだ。
指定伝染病の解除以降は以前のような明るい街に戻ってくれるのだろうか。
©️甲士三郎