「神さまと力比べをしても、レフェリーはおらず。」
ゼウスの頭から生まれた知恵と技術の女神アテーナーに、愚かにも、また雄々しくも勝負を挑んだ少女がいた。彼女の名はアラクネー。
アラクネーは、機織と刺繍にかけては神がかり的に見事な腕前を持っていた。出来上がった作品も見事なら、それを作る彼女の腕の冴えも素晴らしかった。
森や泉に住むニュムペー(ニンフ、妖精)たちが時々やってきてはため息をつきながら彼女の仕事に見惚れるというくらいだった。
森や泉に住むニュムペー(ニンフ、妖精)たちが時々やってきてはため息をつきながら彼女の仕事に見惚れるというくらいだった。
「まるでアテーナー様が自ら教えたかのような腕前ですわ」
と褒めると、アラクネーは大いにふくれた。
「まさか! アテーナー様だってこれほどの腕ではないわよ。お望みならわたし、アテーナー様とだって技を競っても勝てるつもりよ」(なんと恐れ多い!!)
先に言ってしまうと、このアラクネーには同情の余地があるかもしれない。こんな若い小娘の子供っぽい自負心に、それほど罪があるとは思えないんでけど…… ねえ。
だけど、やはりというか、お決まりというか、きっちりアテーナーは、機嫌を損ねた。かくして衆目の中、女神と少女の機織刺繍合戦が開催されることに。
驚異と興奮と感嘆に満ちた光景の中で、アテーナーは、現在アテーナイと呼ばれている街をポセイドーンと争った時の神々の戦いを織り出し、図案の中に、不遜な人間は神によって罰せられるという教訓を織り込んだ(この後の展開が読める暗示だよね)。
一方、アラクネーは、「みんなゼウスが悪いのさ」…… と題したかどうかは知らないが、ゼウスが罪もなき人間の乙女たちを引っ掻け捲くっている様をこれみよがしに織り出した(なんと、恐れ多いことに)。
レーダー、ダナエー、エウローペーなどなど…… 。はっきり言って神さまに対する強烈なあてつけを描いたのだった。
一方、アラクネーは、「みんなゼウスが悪いのさ」…… と題したかどうかは知らないが、ゼウスが罪もなき人間の乙女たちを引っ掻け捲くっている様をこれみよがしに織り出した(なんと、恐れ多いことに)。
レーダー、ダナエー、エウローペーなどなど…… 。はっきり言って神さまに対する強烈なあてつけを描いたのだった。
その織物の出来栄えは本当に素晴らしかった。だけど(いや、だから、かもしれないが)、やっぱりアテーナーはこの小娘に天誅を加える。アテーナーの手を額に当てられた彼女は、自分の非を悟って、後悔と恥じに耐えられず、首をくくって死んでしまったのだ。
綱に垂れている彼女の姿を不憫に思ったアテーナーは、アラクネーを生き返らせて、糸を紡ぐクモに変えたということだ。
ちなみに、勝負に敗れたアラクネーが絶望して自殺したという説もある。ある意味、そのほうが、自尊心の高かった彼女らしいといえば、彼女らしいといえる。
ちなみに、勝負に敗れたアラクネーが絶望して自殺したという説もある。ある意味、そのほうが、自尊心の高かった彼女らしいといえば、彼女らしいといえる。