「恋は炎に包まれる―― 」
セメレーはカドモスとハルモニアーの娘で、たいそう美しかった。
ところが、このカドモス一家は、軍神アレースに捧げるはずの大蛇を殺してしまったために、血縁の者は呪われていた。
そんな因縁があったためか、セメレーもまた不幸な人生の終わり方を迎えることになる。
ところが、このカドモス一家は、軍神アレースに捧げるはずの大蛇を殺してしまったために、血縁の者は呪われていた。
そんな因縁があったためか、セメレーもまた不幸な人生の終わり方を迎えることになる。
セメレーはテーバイの王女にして、新月の巫女であった。この字面を見ていいるだけで、麗しの美女を十分に連想させる雰囲気がある。
当然の如く、あのヒヒ爺が見逃すはずがない。ゼウスは夜風に姿を隠して、夜陰に紛れてセメレーの元に訪れる。
そして細々と愛の言葉の限りを尽くし、彼女の心をつかもうと迫ったのだ。
当然の如く、あのヒヒ爺が見逃すはずがない。ゼウスは夜風に姿を隠して、夜陰に紛れてセメレーの元に訪れる。
そして細々と愛の言葉の限りを尽くし、彼女の心をつかもうと迫ったのだ。
「わたしに恋をしてくださるのは嬉しいのですが、でも、どうか本当の姿を見せてください。そうでなくては、あなたの言葉を信じるわけにはまいりません」
いちいち道理にかなったセメレーの返事なのだが、仮にそれがやんわりとした拒絶であっても、ゼウスが諦めるはずのない。それでもしつこくセメレーに会いに来た(当然と言えば当然のこと)。
「あれがゼウス様とは、この婆やは信じられません」
セメレーの乳母ペロエーはセメレーに忠告する。
「どうでしょう。本物のゼウス様だということの証拠に天上で身に着けておられる冑をつけてくるように申してごらんなさい」
純真なセメレーは、その言葉に従った。あれ、なんかヘンだぞ。このババアどこかで見たような気が…… 。
「ほっほほほお、これでセメレーもおしまいだわ。神ならぬ身であの冑を見たら、たちまち灰になるもの。申し遅れました、あたくし、ペロエーに変装したヘーラーでございます」
ちょっと待て! それって、あんまりじゃあないですか―― なんて、こちらの声が届くはずもなく、哀れゼウスの真の姿を見たセメレーの体はたちまち炎に焼き尽くされてしまう。
ただその時、命の炎が燃え尽きる瞬間に、彼女はディオニューソスを生んだのだ。
この子供は、まるで母親の体を焼き尽くした炎を体にとりこんだように輝き、眩いばかりの光を放っていた。
この子供は、まるで母親の体を焼き尽くした炎を体にとりこんだように輝き、眩いばかりの光を放っていた。
それにしてもこの親父、女の子をモノにするためなら、手段を選ばないんだなあ。普通、相手を殺すと判っていてやってくるかあ!? 全能神といえども欲には勝てないのだろうか?
ゼウス曰く。
「男の性じゃ!」