「ギリシャにもヒダル神がいるのかもしれない」
エリュシクトーン、この男もテッサリアの王さま。血筋なのか、何なのか知らないが、テッサリアはよほどバカ殿揃いの国らしい。
彼が怒らせたのは、収穫と豊穣の女神デーメーテール。この恵み深き彼女を怒らせた結果は心底恐ろしいものになった。
普段おとなしい人を怒らせると、どれだけ怖い目に遭うのかを思い知る話。
普段おとなしい人を怒らせると、どれだけ怖い目に遭うのかを思い知る話。
ことの起こりは、エリュシクトーンがデーメーテールの聖なる森の木を切り倒したことだった。それも、ついうっかりとか、それと知らずに、なんて可愛いものではなく、森の中でも一番古い、花輪とお札で飾られた、いわば神木のような樫木を切り倒したのだ。
信心深い人が止めようとするのを斧でぶっ殺し、木の傷口から流れる血も、助けを求める木の精の悲鳴も無視をして、である。
信心深い人が止めようとするのを斧でぶっ殺し、木の傷口から流れる血も、助けを求める木の精の悲鳴も無視をして、である。
森の木の精たちの訴えを聞いて、デーメーテールが彼に与えた刑罰は、実りの女神の仕事の裏返しで、飢餓に取りつかせるというものだった。つまり、ギリシャ版ヒダル神というわけ。
かくしてエリュシクトーン王は、果てのない猛烈な飢餓に襲われた。食べても食べてもお腹がいっぱいにならない。満足できない。お城の食糧倉庫はたちまち空っぽになる(ほとんど怪物)。
そして遂に、テッサリア全土が荒廃した。国王がすべての作物と家畜と、狩猟の対象となる獲物を食べ尽くしてしまったからだった(オイオイ)。
さらにエリュシクトーンは娘のムネーストラーを連れて、他国へと出掛ける。この頃になると、家臣には見放されて、親子二人の旅だったらしい。そして食べ物を買いあさったが、金貨はすぐに底をつく。
さらにエリュシクトーンは娘のムネーストラーを連れて、他国へと出掛ける。この頃になると、家臣には見放されて、親子二人の旅だったらしい。そして食べ物を買いあさったが、金貨はすぐに底をつく。
いまや食べるためだけに生きている哀れなエリュシクトーンは、遂に食べ物を買うお金のために、ムネーストラーを人に売り払ってしまう。
王女は海の王ポセイドーンに祈り、、動物に姿を変えて父親の元へ逃げ帰ってくる。すると王はまたムネーストラーを売る。また彼女は戻ってくる。またまた王は彼女を売る、といった具合の繰り返しだった(なんという親だ)。
王女は海の王ポセイドーンに祈り、、動物に姿を変えて父親の元へ逃げ帰ってくる。すると王はまたムネーストラーを売る。また彼女は戻ってくる。またまた王は彼女を売る、といった具合の繰り返しだった(なんという親だ)。
しかし、とうとうムネーストラーに恋人ができて、彼女はある日戻ってこなかった。金づるが帰ってくるのを虚しく待ち続け、遂には飢えに耐え切れずに自分の指を食べ始めるんだよね(痛そう……)。
それから腕、足…… と、食い続けて最後に残った唇を飲み込んで、とうとうエリュシクトーンは消滅してしまったのだ。
それから腕、足…… と、食い続けて最後に残った唇を飲み込んで、とうとうエリュシクトーンは消滅してしまったのだ。
想像するだけでも、それはそれは恐ろしい。やっぱり神さまを怒らせてはいけない、という話でした。