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「石になった女王・ニオベー」

2010-07-10 07:18:47 | ギリシャ神話

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 「自慢話は程ほどに、それで不幸になる人もいる」


 母親同士のケンカは、後が怖いぞ、という話。


 ゼウスの極道息子タンタロス(前に取り上げた人)の娘に、ニオベーというテーバイの女王がいた。
 父親の愚かで見栄っ張りな心の片鱗を引き継いだ彼女には、自慢と誇りはそれこそごまんとあった。神々の宴席に並んだ父、女神である母のディオーネー、テーバイの領土と国王である夫、自分が父から貰ったブリュギアの街などなど、いわゆる超一流のセレブだったのだ。


 その中で、わけてもニオベーの心を驕らせたのは、彼女の輝かしい七人の息子と、美しい七人の娘だった。
 そして彼女は、アポローンとアルテミスと、二人の母であるレートーを祝う祭りの時、人々に言った。


 「レートーには、たった二人しか子供がいない。それがたまたま太陽神と月の女神だったというだけ。でもわたくしには、神に勝るとも劣らない立派な息子と娘が七倍もいるのよ。さあ、こんな祭りなんか止めてしまいなさい!」(あ~あっ、言ってはならんことを…… )


 さあ、それを聞いたレートーは怒ったなんてもんじゃない。激怒した(普段はおとなしい人ですが、苦労して生んだ子供たちであるが故に、子供の事となると見境が―― )。


 「やっておしまい!!」


 アポローンとアルテミスは母親の怒りを受けて、ただちにテーバイの街に矢を携えて飛んでいく。
 アポローンは黄金の矢をつがえて、次々とニオベーの息子たち目掛けて放った。街の若者たちと戦の訓練をしていた彼らは、天から矢を射られて、何事が起こったかもわからずに、次々と射ち倒された。


 最後に残った息子は天に祈った。


 「助けて下さい!神よ! 」


 そして、天に手を差し伸べたままこときれる。


 ニオベーは、外の騒ぎと従者の言葉を聞き、何が起こったのかを知り、真っ青になった。


 「天罰!?」


 ニオベーの夫、テーバイの国王は、驚愕と恐れに耐え切れず自殺―― 。


 「おのれ! レートー、けれどわたくしには七人の娘がいるんですからね!!」


 しかし、それもつかの間、この時にもアルテミスが娘たちの頭上に来ていたのだ。喪服を着て、兄弟の死を嘆く彼女たちは、白銀の矢に射られて兄弟たちの棺おけの上に一人,また一人と倒れていった。


 ニオベーは、唇をわななかせて最後の娘を抱きしめ叫ぶ。


 「お願い…… 、一番下のこの子だけは―― !!」


 言葉の終わらぬうちに、矢を受けてその娘も死んでしまう。


 ニオベーは呆然と石のように冷たく座り込んで、ただただ熱い涙を流すしかなかったのだ。まるで涙を流すこと以外は、すべての感覚がなくなってしまったかのように。


 ……月日が流れ、彼女の身体は深い悲しみのために、本当の石になってしまった。そして一陣のつむじ風に運ばれた彼女は、今でもとめどなく水を滴らせている大きな岩となり残ってる。