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「女の敵・ナルキッソス」

2010-07-13 02:03:30 | ギリシャ神話

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 「僕は美しい! だからどうした?」


 “ナルシシズム”の語源となった美少年ナルキッソスの話は、一人のニュムペー(ニンフ・妖精)の話抜きには語れない。
 彼女の名はエーコー。陽気でお喋りで機転が利く、快活なニュムペーだった。だが、気が利きすぎたのが彼女の不幸となった。
 ヘーラーが、ゼウスとニュムペーたちの浮気現場を取っ捕まえてやろうと、肩をいからせやって来たとき、エーコーはヘーラーに話しかけて、その間に友だちのニュムペーたちを逃がしてあげたのだ。


 ヘーラーは怒った。


 「このお喋り娘め! 二度と自分から話しかけることが出来なくしてやるよ。呼びかけた相手の言葉を繰り返すほかは、もう二度と話せないからね!」


 とんだとばっちりだ。


 このエーコーが恋をしたのが、問題のナルキッソスという美少年。けれど自分から近づくことが出来ないので、エーコーは、ただただ声をかけられるのを待つしかなかった。
 ある日、ナルキッソスは、森の中で仲間とはぐれてしまった。


 「誰かいる?」


 彼は呼んだ。待ちかねていたエーコーは嬉しくなった。


 「いる!」


 彼女は答えて駆け寄り、彼に微笑みかけた。
 しかし、ナルキッソスは彼女を、嫌な顔をして押しのけて、冷たく言い放つ。


 「何だよ。おまえなんか知らないよ。あっちに行けよ!」


 「あっちに行く……」


 そう答えることしかできない彼女は、青ざめてナルキッソスから遠ざかって行くしかなかった。そして悲しさとショックでやせ細り、とうとう肉体は消えて、声だけの“エコー(こだま)”になってしまったのだ。


 顔は綺麗なナルキッソスは、他のニュムペーにも心を寄せられたが、それをことごとくエーコーのように無残に扱った。まさに女の敵みたいな奴なのだ。


 しかし、とうとう中でも気性の激しいニュムペーが、彼を恨んで復讐の女神ネメシスに祈る。


 「あたしのように報われない無残な恋を、彼にも与えてやって!」


 願いは聞き届けられた。


 ナルキッソスは水に映った自分の姿を、美しい水の精だと思い込んで好きなった。水面をはさんで見つめ合い、微笑み合っているのに、その相手は手を伸ばすと消えてしまうのだ。
 恋に苦しんだナルキッソスは、そのまま池のほとりでやせ細り、衰弱死してしまった。


 そして彼はそのまま水仙の花になったという。


 それでもかなりの数のニュムペーが、彼の死を悼んだそうだ。こんな性格をしていても愛してくれる人(?)はいる。まったくもって、顔のいい奴はいいよな(別にひがんでいるわけではないです……)。
 これは女の敵ならぬ、男の敵かもしれない。