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「羊飼い・エンデュミオーン」

2010-07-18 16:21:58 | ギリシャ神話

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 「夢の中へ、行ってみたいと思いませんか…… 」


 月の女神アルテミスが銀の戦車に乗って夜空を駆け巡っていると、ラトモス山の中腹に一人の若者が眠っているのを見つけた。
 その眠りが安らかで美しいことに感動した彼女は、その若者の夢の中へ入り込んだ。


 「あ、あなたはいったい…… 、誰っ」


 驚く若者に女神は微笑む。


 「わたくしはアルテミス。あなたの寝顔があまりに美しく、平和で優しかったので、起こすのには忍びなく、こうして夢に現れました。 ……名を名乗りなさい」


 「僕の名はエンデュミオーン。羊飼いをしております。昼間の仕事に疲れてしまい、ここで眠っておりました。もしお気に障りましたらお許しを…… 」


 「何を言います、わたくしがこうして夢に現れたのは…… 」


 そう言ってアルテミスは、エンデュミオーンに優しくキスをするのでした。


 美貌と謙虚さを持つエンデュミオーンを、彼女はすっかり気に入ってしまったというわけ(なんと言う甘い展開っ、虫歯になりそうな…… 。勝手にやってくださいよ、と言いたくなってきた)。
 二人は夢の中で楽しい時を過ごす。エンデュミオーンは光栄で、嬉しさのあまり、こんなことを口走ってしまう。


 「ああっ、アルテミスさま。僕はこのまま、ずっとこの夢が覚めなければいいと願います」


 たぶん、戯れて言ったことだろうが、甘いっ、甘いぞ! エンデュミオーン。神さまというのは、冗談が通じないんですよねぇ。


 静かで、密やかなこの夢を守り続けたい。そう願っていたアルテミスは、渡りに船とばかりに喜んだ。


 「もちろんです。ましてやあなたが、老いて死ぬなんて考えたくもないわ」


 そう言ってゼウスに願った。


 「エンデュミオーンが夢をずっと見続けることができるよう、永遠の休みない眠りと永遠の若さをお与え下さい」


 好き者ゼウスは、喜んで願いを聞き入れた。
 こうして、エンデュミオーンは神話の時代が続く限り永遠に、ラトモス山の洞窟で眠り続けたという。


 アルテミスは、毎晩彼の夢に現れ、何と娘を五十人も儲けたそうだ(ううむ、五十人とは、たぶんギネスもんだね)。
 ちなみにアルテミスさん、アテーナーを敬愛していて、同じ純潔の誓いを立てていたんですが、な~にが神だ、聞いてあきれ……ああ、いえいえ、愛の前に脆くも崩れ去ったというわけ…… ええ、違うって、夢の中の出来事ですから…… なるほどっ。 



「吟遊詩人・オルペウス」

2010-07-18 11:40:46 | ギリシャ神話

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 「愛のために、黄泉の国へ赴く男」


 「黄泉の国から、きっとエウリュディケーを連れ戻してみせる―― 」


 決意の血の涙(……か、どうかは定かではありませんが)を拭きさり、神話上、最高の詩人オルペウスの旅がはじまった。


 事の次第はこうだ。エウリュディケーは彼の最愛の妻であり、新婚の二人はこれから幸福の人生を歩んでいくはずだった。
 しかし、運命の悪戯か、美しいエウリュディケーに懸想した男がいた。その抱擁から逃れようとした彼女は誤って毒蛇を踏み、咬まれて殺されてしまう。
 可哀相なエウリュディケー。いいや、愛する妻にこんな形で先立たれ、残った夫の悲しみはいかばかりなのか。
 そうして、愛に燃えるオルペウスは決心したのだった。


 本来、生身の人間は、黄泉の国には入れないのが定めだ(そりゃそうです)。ところが、そこは天才詩人音楽家。なんたって彼が歌い、竪琴を奏でると、野獣・山川・草木・石に至るまで、その素晴らしさに聞き惚れて彼の周りに集って仲良く耳を傾けた、と言うほどなのだ。


 オルペウスの奏でる音色を前にして、三途の川の渡し守・金の亡者であるカローンは渡し賃を取るのも忘れ、かの地獄の番犬ケルベロスまで飼い犬同然、地獄の魔物どもも、襲うどころか、すっかり聞き入ってしまった。
 そうして、とうとう彼は冥界の王ハーデースと、その妃ペルセポネーの前に立つ。


 「愛する妻を返して下さい…… 」


 切々と訴える哀切の調べに、ペルセポネーは大きく心を動かされた。実はハーデースは乗る気がしなかったが、妃の口添えにやむなく心を動かす。


 「 ……わかった。ただ一つだけ守ってもらうことがある。お前はエウリュディケーの前を常に歩き、地上に帰り着くまで決して後ろを振り向いてはならん。よいか、決して振り向くな」と条件を出して許した。


 当然ながら、喜び勇んだオルペウスは、地上に向かって歩き始める。やがて彼の目に地上の光が差し込んできた。


 「やったぞ、わが妻よ!」


 地上に出て、振り向いた彼の後ろに悲しみの表情を浮かべたエウリュディケーがいた。


 「ああ、あなた……っ、さよなら…… 」


 なんと、早すぎた。エウリュディケーの足は半歩、まだ冥界にあったのだ。目の前でかき消されていく愛妻。
 同じ手は二度と効かず、こうしてオルペウスはすっかり厭世的になったとも、また川に身を投げて死んでしまったとも伝えられている。