「おどろおどろしい愛憎劇、人間も愚かだった」
災いの元はいつも、はた迷惑な神々? ……そうとは言い切れない。ある意味人間はもっと醜悪で凄まじい―― という話です。
猟奇いっぱいのどろどろサスペンス劇場みたいな展開なので覚悟されよ。
猟奇いっぱいのどろどろサスペンス劇場みたいな展開なので覚悟されよ。
アテーナイにピロメラという王女がいた。ピロメラにはプロクネという姉がおり、トラーキアの王テレウスに嫁いでいた。
ある時、ピロメラは姉夫婦の元を訪問し、しばらく滞在することになった。
ある時、ピロメラは姉夫婦の元を訪問し、しばらく滞在することになった。
ところが、しばらくするとテレウスは、妻の妹であるピロメラによからぬ欲望を抱く。そしてある夜に、嫌がる彼女を力ずくで押さえつけ、ものにしてしまったのだ。
しかも、このことを口外されたくないと思ったテレウスは、ピロメラの舌を切り落とし、口が利けないようにしてしまった。
しかも、このことを口外されたくないと思ったテレウスは、ピロメラの舌を切り落とし、口が利けないようにしてしまった。
何たる非道。許せん! と思いの方はご安心を。この行いには、やはりそれなりの報いを受けることになる。
ピロメラは泣き寝入りなんかしなかった(健気です)。復讐を固く誓った彼女は、先ずテレウスの犯罪を描いたタペストリーを織り上げて、それを姉のプロクネに贈ったのだ。
プロクネは、一目で夫が妹に何をしたのかを知った。姉妹愛と、身勝手で卑劣な男への憎悪は、この姉妹にとんでもない報復を決意させる。
プロクネは、一目で夫が妹に何をしたのかを知った。姉妹愛と、身勝手で卑劣な男への憎悪は、この姉妹にとんでもない報復を決意させる。
テレウスが、夕食に出された肉料理を食べていると、突然戸が開き、姉妹が現れた。
「あなた、そのお料理は、お気に召したかしら?」
プロクネは、夫にそう言うと、右手を高々と上げる。その手に握られていたのは、テレウスとプロクネの幼い息子イテュスの首だった!
テレウスは愕然と皿の上に目を落とし、自分が食した肉の正体を知ったのだ。
「うう… うおおっ!?」
彼はうめき吠えると、斧を取りプロクネとピロメラを追った。テーブルを蹴飛ばし、城の外へ飛び出し、猟園を駆け抜け、森の中でとうとう彼は、姉妹を捕まえる。
「死ねえっ!!」
テレウスは叫びながら斧を振りかぶる―― 。
たが、この時、彼らによる醜悪なドラマを神が救った。家庭の守り神である心優しい女神ヘスティアーが、一部始終を見ていたのだ。
事の成り行きにあきれ果てたヘスティアーは、もうこれ以上悲惨な事態を進ませないようにと、三人を鳥に変えてしまう。
事の成り行きにあきれ果てたヘスティアーは、もうこれ以上悲惨な事態を進ませないようにと、三人を鳥に変えてしまう。
テレウスはヤツガシラに、プロクネはツバメに、そして、テレウスに襲われて以来、口が利けなくなったピロメラを、ヘスティアーは特に可哀相に思い、美しい声でさえずるサヨナキドリ(小夜啼鳥・英語名:ナイチンゲール)にしたのだった。
ちなみにこの話は、シェークスピアの戯曲『タイタス・アンドロニカス』の元ネタになっている。