
「ランクル70」、10年ぶり復活の理由
トヨタがこだわった"最強のオフロード車"
東洋経済オンライン 8月28日
トヨタ自動車は8月25日、四輪駆動車「ランドクルーザー70(ナナマル)シリーズ」を、10年ぶりに日本で発売すると発表した。
ランドクルーザーは、1951年に警察予備隊(現・陸上自衛隊)の要請で開発された、「トヨタ ジープBJシリーズ」を原点に持っており、悪路を走るタフさが売りだ。「ランドクルーザー」という名称になったのは、1955年の「20シリーズ」から。現在はオフロード性能を突きつめた「70」のほか、ラグジュアリーなワゴンタイプとして進化した「ランドクルーザー200」、オンロードの扱いやすさも重視した「ランドクルーザー プラド 150」の3つのシリーズがある。
ランクルブランドの累計販売台数は790万台。「70シリーズ」だけでも、これまで世界180カ国で販売されてきた。ただし、「70」はディーゼル規制などをきっかけに、2004年に日本国内で販売を終了。以降は海外だけで売られてきた。
シリーズごとに集まるユーザー
今回は来年6月末までの期間限定だ。バンタイプ(360万円)と、荷台を持つピックアップトラック(350万円)の2モデルを用意した。いずれも4ドア5人乗りで、V6・4.6リットルのガソリンエンジン、マニュアルトランスミッションの海外仕様車を、ほぼそのまま販売する。
ではこのタイミングで、70シリーズを復活するのはなぜか。
ランクルのチーフエンジニアを務める製品企画本部の小鑓貞嘉氏は「たくさんのファンの声。今年は70シリーズの誕生30周年に当たること。またランクル本来の魅力を日本でも味わっていただきたいこと」と3つの理由を挙げる。
実際にランクルには、ブランド全体だけでなく、シリーズごとにユーザーの集まりがある。70シリーズ復活のお披露目となったこの日、会場には老若男女、多くのランクルファンが集まった。
東京都に住む島田謙佑さん(20)はそんな一人だ。2年前に父親が中古で買った94年モデルの「70」を気に入り、すっかり自分のものにしてしまった。2年間で走った距離は4万キロメートル。ランクルを通じて多くの仲間にも出会った。島田さんより年上で自動車の知識も豊富な多くの“先輩”から、自動車の修理方法やオフロードでのマナーなどを学んだという。
「ランクル70はおもちゃのようで楽しい。車の素人だったが、ランクルを通じて多くのことを学んだ。若者のクルマ離れなんて言われているけど、このクルマがない人生は考えられない」と目を輝かす。
多くのファンを惹き付けて止まないのは卓越したタフさだ。とりわけ70シリーズは、圧倒的なオフロード性能から、世界中の過酷な現場で使われている。
灼熱の砂漠、地引き網の浜でも
確かに、中近東の国境警備隊やオーストラリアのパークレンジャーは、灼熱の大地を走る。オーストラリアの炭鉱では、地下1500メートルの坑道で塩水と酸性水の中、作業をする。「ランクル70でも3~4年しかもたない。でも、ほかのクルマだと半年で壊れてしまうので、これしかないと言われた」(小鑓チーフエンジニア)。中東では、漁師が地引き網の網を引く道具として使われているという。
ランクル、特に70の開発では、「信頼性、耐久性、走破性。この3つは絶対に犠牲にしない」(小鑓チーフエンジニア)。過酷な環境で壊れたら、それは人命にも直結する。「だから壊れない。たとえ壊れても戻ってこられる自動車であることを重視している」。鋪装された平地を走る限りにおいては、「300万キロメートルでも400万キロメートルでも何ともない」(同)。
もちろん、快適性や燃費も大事だが、優先順位はそこにはない。今回の2モデルの燃費は、1リッター当たり6.6キロメートルと、ハイブリッド車で低燃費が代名詞となる、トヨタの自動車とは思えない水準だ。が、欠点よりも、その突出した個性を魅力に感じるユーザーも少なくない。
ランクル70の受注を見ると、バン500台、ピックアップ250台の計750台に達する。月販目標とする200台を大きく上回っている。
近年、新興国を中心にランクルの販売台数は右肩上がり。2013年は全世界、シリーズトータルで、40万台弱を売り切った。
販売の9割以上は海外であるのに対し、生産は70を含めてほとんどを、国内で生産する(ケニアでの組み立てと中国向けのみ中国生産がある)。しかも部品の90%は日本製だ。
近年、大手自動車メーカーは、消費地の近くで生産することを基本としており、それはトヨタも同じ。その中で、国内生産300万台を守ることを公言しているトヨタにとって、輸出でも圧倒的な競争力を維持するランクルは心強い存在なのだ。
トヨタのクルマは平均点は高いが、面白みがないと評されることが多い。トヨタ自身もこのことを否定しない。そして、その殻を打ち破りたいと考えている。
昨年の東京モーターショーでスピーチをした加藤光久副社長は、「嫌いじゃないけど、好きでもない。そんなクルマはいらないと思っている。好きで好きでたまらない、このクルマ以外は考えられない。お客様にそう思っていただけるクルマを造ること。それがトヨタのクルマづくりの方向性だ」と言い切った。
ランクル、ましてや70は数が出るクルマではないかもしれない。だが、トヨタが目指す理想像にもっとも近いクルマの1つだ。
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期間こそ限定されているが、日本でランドクルーザー70が再び発売された。これは嬉しい出来事である。何が嬉しいかと言えば、トヨタの中に分っている人々がいる事が分った事である。