奇跡のりんご農家、木村秋則さんを知る方は多いと思う。昨日は彼の著書、全ては宇宙の采配、を再び読んでみた。その中の一節を紹介したい。
こんな事が書かれている。
引用:すべては宇宙の采配 P120より、
金属にも魂
たまたま車の修理に行って、出合った整備工の話です。
車の修理というのは床屋さんや美容院と一緒で、一度そこの工場に行くと、次からも同じ所へ行くものではないでしょうか。自分の家から通いやすいところであったり。何かが気に入ったりして一度行くと、妙にご縁が出来ます。
そんな調子で入った修理工場でしたが、何度となく通うようになりその整備工と毎度顔を合わせる様になりました。
だいぶご年配の様子でした。年寄ってきた事も関係あるのでしょう、仕事に慣れすぎて緊張感がなくなってしまったのかも知れません。とにかく仕事が乱雑なのです。一応修理して動くようには出来るのですが、彼が直すと必ずといっていいほど、また壊れてしまいます。わざとやっているわけではありませんし、人柄は決して悪くありません。仕事仲間には慕われているくらいでしたが、あまりにも信じられないようなミスをするのでちょっと問題になっていました。
具体的には4つあるタイヤのボルトを全部締めたつもりが一つ忘れていたり、エンジンを組み立てた中にスパナを忘れたり……。危なくて仕方がありません。『とても彼には大事な仕事はさせられない。』暗黙の了解のようになっていました。
見兼ねた私は、何かアドバイスできる事はないかと仕事ぶりをチェックしていると、気付いた事が有りました。
だいたいそういうミスを犯す人というのは、仕事のパートナーである道具に愛着がないものです が、やはりそうでした。とても乱暴に扱っていて、だから整備し終った車に付けたままにしてしまうのです。
彼が使っている工具は、勤めている会社が買ってくれています。プロが使う工具は、見た目は同じ様でも、100円ショップや街の小売店で売っているものとは全然違います。スパナ一つとっても、材質が全然違い、値段も全く違います。そんな高い道具なのに、『べつになくしたところでまた工場が買ってくれるから問題ない』と思っているのです。思っている自覚はないかも知れませんが、無自覚でそう思っているのです。
わたしは言いました。
『あなたの道具にはみんな魂があるんだよ。心があるんだよ』
彼はその時スパナを手にしていましたが、『そのスパナにだって心があるんだ。口いわない工具だと思って使っているから、あんたの仕事には魂がこもらないんだ』
実際、彼がスパナで締めても、なぜか揺るむ事が多いのです。どんな力で締め上げても、なぜか緩むのです。
これは力の問題や、技術の問題ではないと思います。
...
整備工の仕事の本質は、車の修理といった断片ではありません。そういう意識の高さと責任感を持って欲しかったのです。気持ちが伝わったのか、仕事振りが見違えるように変わりました。
変化はまず工具の置き忘れが無くなった事に現れました。道具をとても大切に、丁寧に扱うようになったのです。...道具を大切にする心を取り戻してからは、すっかり腕のいい整備士に戻りました。
人間が凄いのは、『思い』や『気持ち』の持ちようで、幾らでも物事を変化させる事です。心の眼が開くのです。その力は、誰にでも、何時でも発揮出来ます。
引用終わり、
総じて木村さんの体験談は面白い。未知との遭遇をリアルに語っておられる。道具が持つ心を読み道具の良き理解者になりたいと思った。
やっぱり、クルマとはお話出来るんだ...。
道具の心か...物を大切にする心、仕事に対する誇り。
それは物に伝わるのはもちろん、人にもしっかり伝わるんですね。
...これがMade in Japan.(日本製)の成功の本質なのかも知れない。