今日が本番の日ですので、昨日に引き続き、〈左利きグッズの日〉に関して。
2016.2.9
2月10日は左利きグッズの日
●左利きグッズ普及の前提
左利きグッズ(左手・左利き用品、左用のお道具)普及の前提として言えることはふたつあります。
(1)左利きを容認する社会であること
(2)右用と左用の違いの理解ができていること
この二点があって初めて生まれるものだと考えられます。
それ故に、この二点をより発展・浸透させることが、普及の一番のポイントではないでしょうか。
一つずつ見てゆきましょう。
(1)左利きを容認する社会であること
これは正に大前提でしょう。
昔のように、左利きを問答無用で全否定し忌避する状況では、絶対に生まれてこないものです。
ドラマ化等で有名な小説『アルジャーノンに花束を』の著者であるダニエル・キイスの多重人格を扱ったノンフィクション『24人のビリー・キリガン』([上]巻p.365 堀内静子訳 早川書房ダニエル・キイス文庫)の中に、こんなシーンがあります。
このシスターのような人が多数の社会であれば、左用の道具が必要だなどという発想は生まれません。
左手を使ってもよい、という前提なしで左手用の道具を作るなどということはあり得ません。
もちろん、社会が発達する以前の段階―個人と家族程度の限られた社会であれば、あるいは、道具を使用する個人が個々に自分(とせいぜい身内程度)用に製作する時代でもなければ。
(2)右用と左用の違いの理解ができていること
次に問題になるのが、右用と左用の違いを認識できているかどうかでしょう。
右用の道具類は右手で持ち操作するときの動きを想定して設計・製造しているもので、左用はその逆に左手の動きに合わせて作られたものなのです。
左右性のある道具に於いて、右用と左用の違いを理解していなければ、当然それぞれに対応した道具は生まれません。
例を挙げて話せば、ハサミです。
いまだに持ち手の部分が左右対称であれば「両利き用」(左右どちらの手でも使えるという意味でしょう)と説明している人がいます。
実際には、刃のかみ合わせという問題があるのです。
あるいは、利き手と非利き手の違いを理解していない人もいます。
「初めて習うことだから右でも左でも(利き手でも非利き手でも)同じ」とか「慣れたら一緒」といった考え方があります。
初めて取り組むことなら、一から始めるので習熟までの過程はいっしょだ、というのです。
しかし実際には、利き手と非利き手では役割が違う、といわれています。
脳科学者・久保田競氏の著作『手と脳―脳の働きを高める手』(紀伊國屋書店 1982)『脳を探検する』(講談社 1998)『脳力を手で伸ばす』(PHP文庫 2010)などによりますと、利き手は「作用の手」非利き手は「感覚の手」だと言います。
「作用の手」とは何かをするのが得意な手であり、「感覚の手」とは触覚を活かした感覚器として優れている手だということです。
役割の異なる手で動作を担当しあってもうまくは行きません。
一眼カメラの操作などで「慣れたら一緒」というのも間違いで、右利きの人が右用の道具や機械を使うときは、その動きに慣れる必要はないのです。
右利きの人の構えや動きにあった設計がなされており、手にすれば即馴染めるものなのです。
そういう利き手と非利き手の違い、道具の持つ右用左用の別を知っていなければ、当然右用左用の両方を用意する必要性を感じないでしょう。
そういう状況では左用の道具の普及という考えは生まれません。
●未来は変えられる
左用の道具や機械、システムといったものが必要になる人々がいるのだという事実を、ぜひとも知っていただきたいものです。
左利きの割合は、研究者によって異なりますが、十人に一人から八人に一人程度から最大で30%ぐらいと言われますが、どちらにしろ、少数派であり、主流派ではありません。
心理学者アドラーの言葉に「過去は変えられなくても未来は変えることができる」とあります。
多数派の右利きの人だけでなく、少数派の左利きの人にとっても暮らしやすい社会に変えてゆきたいものです。
*
『24人のビリー・ミリガン〔新版〕上』ダニエル・キイス 堀内静子訳 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫 2015/5/8)
久保田競『手と脳―脳の働きを高める手』(紀伊國屋書店 1982)
『手と脳 増補新装版』2010/12/24
『脳を探検する』(講談社 1998)
『脳力を手で伸ばす』(PHP文庫 2010)
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※本稿は、ココログ版『レフティやすおのお茶でっせ』より
「2月10日は左利きグッズの日―普及の前提」を転載したものです。
(この記事へのコメント・トラックバックは、転載元『お茶でっせ』のほうにお願い致します。ただし承認制になっていますので、ただちに反映されません。ご了承ください。)
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2016.2.9
2月10日は左利きグッズの日
●左利きグッズ普及の前提
左利きグッズ(左手・左利き用品、左用のお道具)普及の前提として言えることはふたつあります。
(1)左利きを容認する社会であること
(2)右用と左用の違いの理解ができていること
この二点があって初めて生まれるものだと考えられます。
それ故に、この二点をより発展・浸透させることが、普及の一番のポイントではないでしょうか。
一つずつ見てゆきましょう。
(1)左利きを容認する社会であること
これは正に大前提でしょう。
昔のように、左利きを問答無用で全否定し忌避する状況では、絶対に生まれてこないものです。
ドラマ化等で有名な小説『アルジャーノンに花束を』の著者であるダニエル・キイスの多重人格を扱ったノンフィクション『24人のビリー・キリガン』([上]巻p.365 堀内静子訳 早川書房ダニエル・キイス文庫)の中に、こんなシーンがあります。
《二年生になると、シスター・ジェイン・スティーヴンズが、文字を書くにも絵を描くにも右手だけを使わせようと決心した。「あなたの左手には悪魔がいるのよ、ウィリアム。追いださなければいけません」シスターがものさしをとるのを見て、ビリーは目を閉じた……。》
このシスターのような人が多数の社会であれば、左用の道具が必要だなどという発想は生まれません。
左手を使ってもよい、という前提なしで左手用の道具を作るなどということはあり得ません。
もちろん、社会が発達する以前の段階―個人と家族程度の限られた社会であれば、あるいは、道具を使用する個人が個々に自分(とせいぜい身内程度)用に製作する時代でもなければ。
(2)右用と左用の違いの理解ができていること
次に問題になるのが、右用と左用の違いを認識できているかどうかでしょう。
右用の道具類は右手で持ち操作するときの動きを想定して設計・製造しているもので、左用はその逆に左手の動きに合わせて作られたものなのです。
左右性のある道具に於いて、右用と左用の違いを理解していなければ、当然それぞれに対応した道具は生まれません。
例を挙げて話せば、ハサミです。
いまだに持ち手の部分が左右対称であれば「両利き用」(左右どちらの手でも使えるという意味でしょう)と説明している人がいます。
実際には、刃のかみ合わせという問題があるのです。
あるいは、利き手と非利き手の違いを理解していない人もいます。
「初めて習うことだから右でも左でも(利き手でも非利き手でも)同じ」とか「慣れたら一緒」といった考え方があります。
初めて取り組むことなら、一から始めるので習熟までの過程はいっしょだ、というのです。
しかし実際には、利き手と非利き手では役割が違う、といわれています。
脳科学者・久保田競氏の著作『手と脳―脳の働きを高める手』(紀伊國屋書店 1982)『脳を探検する』(講談社 1998)『脳力を手で伸ばす』(PHP文庫 2010)などによりますと、利き手は「作用の手」非利き手は「感覚の手」だと言います。
「作用の手」とは何かをするのが得意な手であり、「感覚の手」とは触覚を活かした感覚器として優れている手だということです。
役割の異なる手で動作を担当しあってもうまくは行きません。
一眼カメラの操作などで「慣れたら一緒」というのも間違いで、右利きの人が右用の道具や機械を使うときは、その動きに慣れる必要はないのです。
右利きの人の構えや動きにあった設計がなされており、手にすれば即馴染めるものなのです。
そういう利き手と非利き手の違い、道具の持つ右用左用の別を知っていなければ、当然右用左用の両方を用意する必要性を感じないでしょう。
そういう状況では左用の道具の普及という考えは生まれません。
●未来は変えられる
左用の道具や機械、システムといったものが必要になる人々がいるのだという事実を、ぜひとも知っていただきたいものです。
左利きの割合は、研究者によって異なりますが、十人に一人から八人に一人程度から最大で30%ぐらいと言われますが、どちらにしろ、少数派であり、主流派ではありません。
心理学者アドラーの言葉に「過去は変えられなくても未来は変えることができる」とあります。
多数派の右利きの人だけでなく、少数派の左利きの人にとっても暮らしやすい社会に変えてゆきたいものです。
*
『24人のビリー・ミリガン〔新版〕上』ダニエル・キイス 堀内静子訳 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫 2015/5/8)
久保田競『手と脳―脳の働きを高める手』(紀伊國屋書店 1982)
『手と脳 増補新装版』2010/12/24
『脳を探検する』(講談社 1998)
『脳力を手で伸ばす』(PHP文庫 2010)
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※本稿は、ココログ版『レフティやすおのお茶でっせ』より
「2月10日は左利きグッズの日―普及の前提」を転載したものです。
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