―第307号「古典から始める レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
★古典から始める レフティやすおの楽しい読書★
2021(令和3)年11月30日号(No.307)
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(11)-2021-
「パーティー族」ドナルド・E・ウェストレイク」
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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2021(令和3)年11月30日号(No.307)
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(11)-2021-
「パーティー族」ドナルド・E・ウェストレイク」
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今年もはやクリスマス・ストーリーの紹介の季節となりました。
昨年は古典編で、伝統的なクリスマス・ストーリーらしい
ハート・ウォーミングな短編でした。
今年は、現代編で、泥棒を主人公にした犯罪コメディの短編です。
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-クリスマス・ストーリーをあなたに (11)- 2021
~ クリスマス・プレゼントは…… 軽妙な犯罪者コメディの短編 ~
「パーティー族」ドナルド・E・ウェストレイク
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●過去の ~クリスマス・ストーリーをあなたに~
毎年、この時期恒例の
「クリスマス・ストーリーをあなたに」の11回目です。
最初は、2008年12月のクリスマス号として、超有名なクリスマス物語で、
<クリスマス・ストーリー>というジャンルを定着させた
ディケンズ『クリスマス・キャロル』の紹介でした。
その後は、2011年から毎年11月の末に、
「クリスマス・ストーリーをあなたに」と題して
お気に入りのクリスマス・ストーリーを紹介してきました。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
2008(平成20)年12月クリスマス号(No.11)-081206-
『クリスマス・キャロル』善意の季節
『クリスマス・キャロル』ディケンズ/著 中川敏/訳
集英社文庫 1991/11/20
―訳者の解説と木村治美の鑑賞など、資料も豊富。
~「クリスマス・ストーリーをあなたに」~
1◆2011(平成23)年11月30日号(No.70)-111130-善意の季節
『あるクリスマス』カポーティ
・『誕生日の子供たち』トルーマン・カポーティ/著 村上春樹/訳
文春文庫 2009.6.10
―クリスマス短編「あるクリスマス」「クリスマスの思い出」収録
「―思い出」はクリスマスの懐かしい、でもちょっと切ない思い出を
振り返る愛情あふれる物語で、少年に与えられたクリスマスの贈り物、
「ある―」は逆に、
少年が与えたクリスマスの贈り物の思い出話といえる抒情的名編
善意の季節『あるクリスマス』カポーティ
http://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2011/11/post-2b5f.html
2◆2012(平成24)年11月30日号(No.94)-121130-
クリスマス・ストーリーをあなたに~
アガサ・クリスティー『ベツレヘムの星』から
・『ベツレヘムの星』アガサ・クリスティー/著 中村能三/訳
ハヤカワ文庫―クリスティー文庫(2003/11/11)
―おススメ短篇「水上バス」を含む、クリスマスにまつわる小説と
詩を集めた、クリスティーが読者に贈るクリスマス・ブック
クリスマス・ストーリーをあなたに ―第94号
「古典から始める レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
http://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2012/11/post-4575.html
http://ameblo.jp/lefty-yasuo/entry-11415827315.html
3◆2013(平成25)年11月30日号(No.117)-131130-
クリスマス・ストーリーをあなたに~
『サンタクロースの冒険』ライマン・フランク・ボーム
・『サンタクロースの冒険』ライマン・フランク・ボーム/著
田村隆一/訳 扶桑社エンターテイメント(1994.10.30) [文庫本]
―『オズの魔法使い』の作者ライマン・フランク・ボームの描く
サンタ・クロースの生涯を描く、サンタさん誕生物語
(新訳版)『サンタクロース少年の冒険』ライマン・フランク・ボーム/著
矢部太郎/イラスト 畔柳和代/訳 新潮文庫 2019/11/28
クリスマス・ストーリーをあなたに~
『サンタクロースの冒険』ボーム
http://ameblo.jp/lefty-yasuo/entry-11713521094.html
http://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2013/11/post-2e56.html
4◆2014(平成26)年11月30日号(No.140)-141130-
「クリスマス・ストーリーをあなたに~
『ひいらぎ飾ろう@クリスマス』コニー・ウィリス」
「ひいらぎ飾ろう@クリスマス」収録短編集:
・『マーブル・アーチの風』コニー・ウィリス/著 大森望/編訳
早川書房・プラチナ・ファンタジイ(2008.9.25)
―もう一つのクリスマス・ストーリー「ニュースレター」も収録
クリスマス・ストーリーをあなたに~
『ひいらぎ飾ろう@クリスマス』コニー・ウィリス ―第140号
「古典から始める レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
http://ameblo.jp/lefty-yasuo/entry-11958011368.html
http://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2014/11/post-e7fb.html
5◆2015(平成27)年11月30日号(No.164)-151130-
「クリスマス・ストーリーをあなたに~
『まれびとこぞりて』コニー・ウィリス」
「まれびとこぞりて」収録短編集:
・『混沌【カオス】ホテル (ザ・ベスト・オブ・コニー・ウィリス)』
コニー・ウィリス/著 大森望/訳 ハヤカワ文庫SF1938 2014.1.25
クリスマス・ストーリーをあなたに―
「まれびとこぞりて」コニー・ウィリス ―第164号
「古典から始める レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
http://ameblo.jp/lefty-yasuo/entry-12101006584.html
http://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2015/11/post-108a.html
6◆2016(平成28)年11月30日号(No.188)-161130-
「クリスマス・ストーリーをあなたに~
ディケンズ『クリスマス・ブックス』から『鐘の音』」
・『クリスマス・ブックス』ディケンズ/著 ちくま文庫 1991/12
―落語調訳「クリスマス・キャロル」小池滋/訳、
「鐘の音」松村昌家/訳
・『クリスマス・ブックス』田辺洋子/訳 渓水社 2012
―前期(1843-48)のクリスマス中編5編を収録。「クリスマス・キャロル」
「鐘の音」「炉端のこおろぎ」「人生の戦い」「憑かれた男」
クリスマス・ストーリーをあなたに~
ディケンズ『クリスマス・ブックス』から『鐘の音』 ―第188号
「古典から始める レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
http://ameblo.jp/lefty-yasuo/entry-12224275324.html
http://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2016/11/post-2cc0.html
7◆2017(平成29)年11月30日号(No.212)-171130-
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(7)
「クリスマス・プレゼント」梶尾真治」
「クリスマス・プレゼント」収録短編集:
・『有機戦死バイオム』梶尾真治/著 ハヤカワ文庫JA 1989.10
クリスマス・ストーリーをあなたに~(7)
「クリスマス・プレゼント」梶尾真治
―第212号「レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
http://ameblo.jp/lefty-yasuo/entry-12332325526.html
http://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2017/11/7-eb88.html
8◆2018(平成30)年11月30日号(No.236)
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(8)
『昔なつかしいクリスマス』ワシントン・アーヴィング」
・『昔なつかしいクリスマス』ワシントン・アーヴィング/著
ランドルフ・コールデコット/挿絵 齊藤昇/訳 三元社 2016.12.1
―1920年刊『スケッチ・ブック』第5分冊(クリスマス編)を基に、
コールデコットの挿絵をつけて1876年に刊行された。
クリスマス・ストーリーをあなたに~(8)
『昔なつかしいクリスマス』ワシントン・アーヴィング
―第236号「レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
http://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2018/11/8-9bc1.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/3a5c8cbafc52eca791e8a99a100b9644
9◆2019(令和元)年11月30日号(No.260)
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(9)
『その雪と血を』ジョー・ネスボ」
・『その雪と血を』ジョー・ネスボ/著 鈴木恵/訳
ハヤカワ・ミステリ文庫 2018/11/20
―ノルウェーを代表するサスペンス作家が描くパルプ・ノワール。
第8回翻訳ミステリー大賞および第5回読者賞をダブル受賞した。
クリスマス・ストーリーをあなたに(9)『その雪と血を』ジョー・ネスボ
―第260号「レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2019/11/post-2d509d.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/e0b43669289d5be0dd6bc01509240c60
10◆2020(令和2)年11月30日号(No.283)
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(10)
「ファンダーハーフェン老人の遺言状」メアリー・E・ペン」
・メアリー・E・ペン「ファンダーハーフェン老人の遺言状」
Old Vanderhaven's Will(1880)小林晋/訳
(The Argosy誌1880年12月号掲載)
『ミステリマガジン』2020年1月号(738) 2019/11/25 掲載
クリスマス・ストーリーをあなたに~(10)
「ファンダーハーフェン老人の遺言状」ペン-楽しい読書283号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2020/11/post-b1f27c.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/32ad800de583f407aaa4dab7f8b3c849
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
一回毎、一年ごとに【古典編】と【現代編】を交互に紹介してきました。
【古典編】
チャールズ・ディケンズ『クリスマス・キャロル』『鐘の音』
ワシントン・アーヴィング『昔なつかしいクリスマス』
ライマン・フランク・ボーム『サンタクロースの冒険』
メアリー・E・ペン「ファンダーハーフェン老人の遺言状」
【現代編】
トルーマン・カポーティ「あるクリスマス」「クリスマスの思い出」
アガサ・クリスティー「水上バス」
コニー・ウィリス「ひいらぎ飾ろう@クリスマス」「まれびとこぞりて」
梶尾真治「クリスマス・プレゼント」、ジョー・ネスボ『その雪と血を』
今年は、【現代編】です。
●ドートマンダー・シリーズの一短編
今回紹介しますのは、
「パーティー族」ドナルド・E・ウェストレイク
Party Animal(Playboy 1993-12)
初出『ミステリ・マガジン』2009年6月号
・ドナルド・E・ウェストレイク
『<現代短篇の名手たち3> 泥棒が1ダース』
木村二郎/訳 ハヤカワ・ミステリ文庫 2009/8/21 収録
です。
(画像:ドナルド・E・ウェストレイクのクリスマス・ストーリー「パーティー族」収録のドナルド・E・ウェストレイクの<泥棒ジョン・ドートマンダー>シリーズの短編集<現代短篇の名手たち3>『泥棒が1ダース』(木村二郎/訳 ハヤカワ・ミステリ文庫 2009/8/21))
この小説の主人公ドートマンダーについて、紹介しておきましょう。
《天才的犯罪プランナーにして職業的窃盗の第一人者
ジョン・ドートマンダー。彼こそ、難攻不落のターゲットを狙い、
だれも考えつかないような奇想天外の作戦計画を樹立する
不世出の大泥棒……のはずなのだ。
だが、どういうわけかその計画が予定通りに運ぶことはまずない。
うまく運んでいると思っても、
必ずや不幸の連鎖が襲いかかってくるのだ。
泥棒稼業はつらいよ! 世界一不幸な男、
哀愁の中年泥棒ドートマンダー奮闘記。》
↑の出版社の紹介文にありますように、
主人公は、泥棒を稼業とする中年男性。
第一級の犯罪プランナーでプロフェッショナルの窃盗犯
……のはずなのですが、なぜか予想外の出来事が起こり、
そのためあれやこれやと想定外の奮闘を要求される
という運命を背負っています。
まあ、たいていの場合、最後はなんとか切り抜けるのですが、
肝心の獲物は……、といった哀愁に満ちた人物です。
角川文庫で『ホットロック』で初登場し、その後相次いで
『強盗プロフェッショナル』『ジミー・ザ・キッド』
『悪党たちのジャムセッション』と紹介され、
(ここまでは私もリアルタイムで追いかけて読みました。
仮設銀行を襲う『強盗プロフェッショナル』が一番面白かった。)
(画像:初期4長編で一番のお気に入りで、今も手元に残っているドナルド・E・ウェストレイクの<泥棒ジョン・ドートマンダー>シリーズの一冊『強盗プロフェッショナル』(渡辺栄一郎/訳 角川文庫 1975))
その後少し合間をおいて、ハヤカワ文庫に版元を移して、
木村二郎(木村仁良)訳で5作が紹介されました。
(これらはすべて長編小説。)
どれもドートマンダーが仲間たちと計画を立て犯行に及ぶ、
という犯罪物語です。
ところが、予想外の出来事に巻き込まれたりして……、
というコメディに仕上がっています。
で、今回紹介しますのは、
そのドートマンダーの短編シリーズの一編です。
●ジョン・ドートマンダー・シリーズの短編「パーティー族」
お話は、
クリスマスの日、宝石を泥棒して逃げる途中、
警察に追われ、非常階段の途中で絶体絶命のピンチに陥り、
逃げ場をなくしたドートマンダーが、
10年から25年の刑務所入りを覚悟した時――
《なんというクリスマス・プレゼントなんだ。》p.159
左の肘に、二インチほど開いた窓に出くわします。
窓の向こうには、人気のない部屋の反対側にあるドアから
明るい光が差し込んでいます。
まさに希望の光か。
ダブルベッドの上に山積みになったコートの中に自分のコートを置き、
パーティー出席者の話し声がする部屋に入っていきます。
仕出し屋の仏頂面の女性がいます。
予定していたメンバーが来ていないのです。
彼はその助手の代わりになりすまします。
服装がちょうど給仕人ぽかったので、
タオルをエプロン代わりに使い、“変装”します。
女性はきりきり舞いしていたので、
大助かりとばかり彼を受け入れます。
この辺のやりとりは本編でお楽しみください。
そこへ、警察官が踏み込んできます。
ここでも警察官とのあれこれがあります。
彼女も“救世主”を手放したくなかったのか、
彼のことを告発しません。
で、なんとか無事に切り抜けます。
いってみれば、
チェスタトンのブラウン神父シリーズの推理小説の
「見えない男」や「奇妙な足音」のトリックのようなもので、
給仕人には、余り注意を持たれないというのでしょうか。
しばらくするうちに言い争う声が聞こえてきます。
ドートマンダーは“戦利品”の一部を
パーティー出席者の一人の持ち物に隠しておいたのですが、
それが見つかったようです。
この隙に、彼は逃げ出すことにします。
その前に一つ、
仕出し屋の女性が一人でソーセージを並べているところに立寄り、
一つ残してあった“宝物”
(《羽根の形をしたきわめて素敵な黄金のブローチだ》)
を取り出し、女の背後にまわり、女の束髪のなかに隠します。
《「何? 何? 何なの?」
女は何が起こっているのかわからなかったが、
うしろを向くのが怖かった。/
「家に着いたら」ドートマンダーが忠告した。
「きみのボーイフレンドにそれをだしてもらうんだ。
家に着いてからだぞ」/
「でも、何なの?」/
「羽根だよ」彼は的確に言ってから、
変装に使った皿拭きタオルを外した。
例のジャケットがなくて残念だ。
「さてと、煙突から出ていくかな」/
女は笑った。二人が出会ったときよりも
ずっと楽しそうな人間になっていた。
そして、ソーセージをのせたトレイをつかみあげた。
「トナカイさんたちによろしくね」/
「言っておくよ」》 pp.187-188
ドートマンダーは、ベッドルームには入り、
コートの山から自分のコートを取り、
商売道具と今夜の収穫をポケットに入れ、
ベッドサイドの電話で家で待つ同居人に電話します。
《「おれは少し遅くなるぞ、メイ」/
「確かに遅いわね」メイが同意した。「警察署?」/
「いや、パーティー会場にいるんだが」ドートマンダーが言った。
「これから出るところだ」
厳密に言うと、非常階段をおりていくのだ。
「問題が起きたんだが」と説明した。/「もう大丈夫だ」/
「素敵なパーティーなの?」/
「食べ物がうまい」ドートマンダーが言った。
「じゃあ、あとで会おう」》 pp.188-189(おしまい)
●天の助けか、クリスマスプレゼントか
「クリスマス・プレゼントに欲しいものは何ですか?」
と尋ねられたら、人はどう答えるでしょうか。
仕出し屋の女性の行動から思うのは、
給仕作業の手助けをしてくれたドートマンダーという存在は、
素敵なクリスマス・プレゼントだったということでしょうか。
そして、逃げ場として現れた開いた窓は、
ドートマンダーにとってのクリスマス・プレゼントであり、
そこで現れた女性が彼を受け入れてくれたことは、
こちらもまた天の助けであり、
その返礼が金のブローチとなったのでしょう。
では、この女性にとってはどちらが嬉しかったのでしょうか。
たぶん、○○ですよね、って。
●お楽しみの小説
ディケンズ『クリスマス・キャロル』に見られるように、
クリスマス・ストーリーにはつきものとされるのが、
精霊や幽霊といった存在、
スーパーナチュラル、超自然現象が見られるものです。
現代編では、そういうものが必ずしも出てこない、
ストレートな小説も多く見られます。
今回の作品もそういう一編です。
超常現象は現れませんが、仕出し屋の女性にとっては、
ドートマンダーの登場はまさに天の助け、
というところだったのでしょう。
そして、ドートマンダーにとっても、
彼女は天使のような存在に思えたことでしょう。
クリスマス・シーズンといえば、善意の季節というのが、相場です。
泥棒稼業とは相容れない関係かもしれませんが、
小説の中のお話ということで、ご勘弁願いましょう。
四角四面、杓子定規な善悪判断ではなく、融通無礙な受け止め方で、
大らかにお楽しみとしての読書があってもいいでしょう。
こういうお話があってもいいですよね。
重いテーマに裏打ちされた、
人の生き方や社会のあり方を考えさせる小説ばかりが芸術ではない、
と思います。
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★創刊300号への道のり(7) 2014(平成26)年(7年目)
120.
2014(平成26)年1月15日号(No.120)-140115-
私の読書論-53- 年末年始の本屋さんの思い出から
121.
2014(平成26)年1月31日号(No.121)-140131-
“今年(2013年)読んだ本・買った本”から (2)娯楽編『時の地図』
号外
2014(平成26)年2月15日号-140215-号外「体調不良のためお休み」
122.
2014(平成26)年2月28日号(No.122)-140228-
-古代インドの哲学-「ウパニシャッド」
123.
2014(平成26)年3月15日号(No.123)-140315-
私の読書論-54-「私のおススメの古典から」(1)
-古代の古典から- 古代英雄叙事詩
124.
2014(平成26)年3月31日号(No.124)-140331-
-古代インドの大叙事詩-『マハーバーラタ』
125.
2014(平成26)年4月15日号(No.125)-140415-
私の読書論-55-「私のおススメの古典から」(2)著作のない四聖
126.
2014(平成26)年4月30日号(No.126)-140430-「生き方の秘訣
-古代インドの宗教詩編-『バガヴァッド・ギーター』」
127.
2014(平成26)年5月15日号(No.127)-140515-
私の読書論-56-「私のおススメの古典から」(3)
-人生の教科書-『ミステリ・マガジン』
128.
2014(平成26)年5月31日号(No.128)-140531-
「古代英雄叙事詩『ラーマーヤナ』」
129.
2014(平成26)年6月15日号(No.129)-140615-
「私の読書論-57-「私のおススメの古典から」(4)
-人生の教科書-『ミステリ・マガジン』(2)コラム編」
130.
2014(平成26)年6月30日号(No.130)-140630-
「幸福な生のための“性”典『カーマ・スートラ』」
131.
2014(平成26)年7月15日号(No.131)-140715-
「私の読書論-58-「私のおススメの古典から」(5)
-古典を考える- 岩波文庫フェア 小冊子から」
132.
2014(平成26)年7月31日号(No.132)-140731-
「“もう一度 あの頃の…”思い出の名作
―3社<夏の文庫>フェア2014から」
134.
2014(平成26)年8月31日号(No.134)-140831-
「原始仏教:ブッダの教え、ブッダになる教え(1)」
135.
2014(平成26)年9月15日号(No.135)-140915-
「私の読書論-60- -古典を考える-
岩波文庫フェア 小冊子から(3) 外岡秀俊」
136.
2014(平成26)年9月30日号(No.136)-140930-
「原始仏教(2)原始仏典(1)スッタニパータ(前編)」
137.
2014(平成26)年10月15日号(No.137)-141015-
「私の読書論-61- -古典を考える-
岩波文庫フェア 小冊子から(4) その他あれこれ」
138.
2014(平成26)年10月31日号(No.138)-141031-
「原始仏教(3)原始仏典(1)スッタニパータ(後編)」
139.
2014(平成26)年11月15日号(No.139)-141115-
「私の読書論-62- -古典を考える-
入門書としての少年少女名作全集(前編)」
140.
2014(平成26)年11月30日号(No.140)-141130-
「クリスマス・ストーリーをあなたに~
『ひいらぎ飾ろう@クリスマス』コニー・ウィリス」
141.
2014(平成26)年12月15日号(No.141)-141215-
「私の読書論-63- -古典を考える-
入門書としての少年少女名作全集(後編)」
142.
2014(平成26)年12月31日号(No.142)-141231-
「2014年に読んだ本から(前編)
フィクション編『マハーバーラタ』」
・・・
この年は、月末の「古典紹介編」では、
古代インド編を。神話から原始仏教まで。
月半ばの発行号の「私の読書論」では、
年の前半では「私のおススメの古典から」で、
私の個人的なオススメの古典を紹介していました。
また後半では、「-古典を考える- 岩波文庫フェア 小冊子から」で、
各氏の古典読書についてのご意見を紹介しました。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
本誌では、「クリスマス・ストーリーをあなたに~(11)-2021-「パーティー族」ドナルド・E・ウェストレイク」をお届けしています。
今回は、全編公開しました。
本文中でも紹介していますように、過去10編のクリスマスストーリーを紹介してきました。
古典編と現代編をそれぞれ交互に。
で、今年は、現代編として、犯罪コメディの短編を紹介しています。
ドートマンダーさんは、私の好きなキャラクターでもあります。
こういう話も楽しいですよね。
エンタメのお手本の一つではないでしょうか。
コロナ禍の時代に、こういうコメディで現実を忘れるのも、気分転換になりますし、精神安定剤としての役目もあるでしょう。
眉間にしわを寄せて生きるのも一つの生き方ですが、私のように気が弱くて怖がりの人間には、こういうふうにお気楽に過ごすのもありでしょう。
・・・
では、弊誌を面白いと思われた方は、購読のお申し込みを!
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(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』
『レフティやすおのお茶でっせ』
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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載
クリスマス・ストーリーをあなたに~(11)-2021-「パーティー族」-楽しい読書307号
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★古典から始める レフティやすおの楽しい読書★
2021(令和3)年11月30日号(No.307)
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「パーティー族」ドナルド・E・ウェストレイク」
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今年もはやクリスマス・ストーリーの紹介の季節となりました。
昨年は古典編で、伝統的なクリスマス・ストーリーらしい
ハート・ウォーミングな短編でした。
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毎年、この時期恒例の
「クリスマス・ストーリーをあなたに」の11回目です。
最初は、2008年12月のクリスマス号として、超有名なクリスマス物語で、
<クリスマス・ストーリー>というジャンルを定着させた
ディケンズ『クリスマス・キャロル』の紹介でした。
その後は、2011年から毎年11月の末に、
「クリスマス・ストーリーをあなたに」と題して
お気に入りのクリスマス・ストーリーを紹介してきました。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
2008(平成20)年12月クリスマス号(No.11)-081206-
『クリスマス・キャロル』善意の季節
『クリスマス・キャロル』ディケンズ/著 中川敏/訳
集英社文庫 1991/11/20
―訳者の解説と木村治美の鑑賞など、資料も豊富。
~「クリスマス・ストーリーをあなたに」~
1◆2011(平成23)年11月30日号(No.70)-111130-善意の季節
『あるクリスマス』カポーティ
・『誕生日の子供たち』トルーマン・カポーティ/著 村上春樹/訳
文春文庫 2009.6.10
―クリスマス短編「あるクリスマス」「クリスマスの思い出」収録
「―思い出」はクリスマスの懐かしい、でもちょっと切ない思い出を
振り返る愛情あふれる物語で、少年に与えられたクリスマスの贈り物、
「ある―」は逆に、
少年が与えたクリスマスの贈り物の思い出話といえる抒情的名編
善意の季節『あるクリスマス』カポーティ
http://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2011/11/post-2b5f.html
2◆2012(平成24)年11月30日号(No.94)-121130-
クリスマス・ストーリーをあなたに~
アガサ・クリスティー『ベツレヘムの星』から
・『ベツレヘムの星』アガサ・クリスティー/著 中村能三/訳
ハヤカワ文庫―クリスティー文庫(2003/11/11)
―おススメ短篇「水上バス」を含む、クリスマスにまつわる小説と
詩を集めた、クリスティーが読者に贈るクリスマス・ブック
クリスマス・ストーリーをあなたに ―第94号
「古典から始める レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
http://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2012/11/post-4575.html
http://ameblo.jp/lefty-yasuo/entry-11415827315.html
3◆2013(平成25)年11月30日号(No.117)-131130-
クリスマス・ストーリーをあなたに~
『サンタクロースの冒険』ライマン・フランク・ボーム
・『サンタクロースの冒険』ライマン・フランク・ボーム/著
田村隆一/訳 扶桑社エンターテイメント(1994.10.30) [文庫本]
―『オズの魔法使い』の作者ライマン・フランク・ボームの描く
サンタ・クロースの生涯を描く、サンタさん誕生物語
(新訳版)『サンタクロース少年の冒険』ライマン・フランク・ボーム/著
矢部太郎/イラスト 畔柳和代/訳 新潮文庫 2019/11/28
クリスマス・ストーリーをあなたに~
『サンタクロースの冒険』ボーム
http://ameblo.jp/lefty-yasuo/entry-11713521094.html
http://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2013/11/post-2e56.html
4◆2014(平成26)年11月30日号(No.140)-141130-
「クリスマス・ストーリーをあなたに~
『ひいらぎ飾ろう@クリスマス』コニー・ウィリス」
「ひいらぎ飾ろう@クリスマス」収録短編集:
・『マーブル・アーチの風』コニー・ウィリス/著 大森望/編訳
早川書房・プラチナ・ファンタジイ(2008.9.25)
―もう一つのクリスマス・ストーリー「ニュースレター」も収録
クリスマス・ストーリーをあなたに~
『ひいらぎ飾ろう@クリスマス』コニー・ウィリス ―第140号
「古典から始める レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
http://ameblo.jp/lefty-yasuo/entry-11958011368.html
http://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2014/11/post-e7fb.html
5◆2015(平成27)年11月30日号(No.164)-151130-
「クリスマス・ストーリーをあなたに~
『まれびとこぞりて』コニー・ウィリス」
「まれびとこぞりて」収録短編集:
・『混沌【カオス】ホテル (ザ・ベスト・オブ・コニー・ウィリス)』
コニー・ウィリス/著 大森望/訳 ハヤカワ文庫SF1938 2014.1.25
クリスマス・ストーリーをあなたに―
「まれびとこぞりて」コニー・ウィリス ―第164号
「古典から始める レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
http://ameblo.jp/lefty-yasuo/entry-12101006584.html
http://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2015/11/post-108a.html
6◆2016(平成28)年11月30日号(No.188)-161130-
「クリスマス・ストーリーをあなたに~
ディケンズ『クリスマス・ブックス』から『鐘の音』」
・『クリスマス・ブックス』ディケンズ/著 ちくま文庫 1991/12
―落語調訳「クリスマス・キャロル」小池滋/訳、
「鐘の音」松村昌家/訳
・『クリスマス・ブックス』田辺洋子/訳 渓水社 2012
―前期(1843-48)のクリスマス中編5編を収録。「クリスマス・キャロル」
「鐘の音」「炉端のこおろぎ」「人生の戦い」「憑かれた男」
クリスマス・ストーリーをあなたに~
ディケンズ『クリスマス・ブックス』から『鐘の音』 ―第188号
「古典から始める レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
http://ameblo.jp/lefty-yasuo/entry-12224275324.html
http://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2016/11/post-2cc0.html
7◆2017(平成29)年11月30日号(No.212)-171130-
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(7)
「クリスマス・プレゼント」梶尾真治」
「クリスマス・プレゼント」収録短編集:
・『有機戦死バイオム』梶尾真治/著 ハヤカワ文庫JA 1989.10
クリスマス・ストーリーをあなたに~(7)
「クリスマス・プレゼント」梶尾真治
―第212号「レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
http://ameblo.jp/lefty-yasuo/entry-12332325526.html
http://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2017/11/7-eb88.html
8◆2018(平成30)年11月30日号(No.236)
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(8)
『昔なつかしいクリスマス』ワシントン・アーヴィング」
・『昔なつかしいクリスマス』ワシントン・アーヴィング/著
ランドルフ・コールデコット/挿絵 齊藤昇/訳 三元社 2016.12.1
―1920年刊『スケッチ・ブック』第5分冊(クリスマス編)を基に、
コールデコットの挿絵をつけて1876年に刊行された。
クリスマス・ストーリーをあなたに~(8)
『昔なつかしいクリスマス』ワシントン・アーヴィング
―第236号「レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
http://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2018/11/8-9bc1.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/3a5c8cbafc52eca791e8a99a100b9644
9◆2019(令和元)年11月30日号(No.260)
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(9)
『その雪と血を』ジョー・ネスボ」
・『その雪と血を』ジョー・ネスボ/著 鈴木恵/訳
ハヤカワ・ミステリ文庫 2018/11/20
―ノルウェーを代表するサスペンス作家が描くパルプ・ノワール。
第8回翻訳ミステリー大賞および第5回読者賞をダブル受賞した。
クリスマス・ストーリーをあなたに(9)『その雪と血を』ジョー・ネスボ
―第260号「レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2019/11/post-2d509d.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/e0b43669289d5be0dd6bc01509240c60
10◆2020(令和2)年11月30日号(No.283)
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(10)
「ファンダーハーフェン老人の遺言状」メアリー・E・ペン」
・メアリー・E・ペン「ファンダーハーフェン老人の遺言状」
Old Vanderhaven's Will(1880)小林晋/訳
(The Argosy誌1880年12月号掲載)
『ミステリマガジン』2020年1月号(738) 2019/11/25 掲載
クリスマス・ストーリーをあなたに~(10)
「ファンダーハーフェン老人の遺言状」ペン-楽しい読書283号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2020/11/post-b1f27c.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/32ad800de583f407aaa4dab7f8b3c849
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
一回毎、一年ごとに【古典編】と【現代編】を交互に紹介してきました。
【古典編】
チャールズ・ディケンズ『クリスマス・キャロル』『鐘の音』
ワシントン・アーヴィング『昔なつかしいクリスマス』
ライマン・フランク・ボーム『サンタクロースの冒険』
メアリー・E・ペン「ファンダーハーフェン老人の遺言状」
【現代編】
トルーマン・カポーティ「あるクリスマス」「クリスマスの思い出」
アガサ・クリスティー「水上バス」
コニー・ウィリス「ひいらぎ飾ろう@クリスマス」「まれびとこぞりて」
梶尾真治「クリスマス・プレゼント」、ジョー・ネスボ『その雪と血を』
今年は、【現代編】です。
●ドートマンダー・シリーズの一短編
今回紹介しますのは、
「パーティー族」ドナルド・E・ウェストレイク
Party Animal(Playboy 1993-12)
初出『ミステリ・マガジン』2009年6月号
・ドナルド・E・ウェストレイク
『<現代短篇の名手たち3> 泥棒が1ダース』
木村二郎/訳 ハヤカワ・ミステリ文庫 2009/8/21 収録
です。
(画像:ドナルド・E・ウェストレイクのクリスマス・ストーリー「パーティー族」収録のドナルド・E・ウェストレイクの<泥棒ジョン・ドートマンダー>シリーズの短編集<現代短篇の名手たち3>『泥棒が1ダース』(木村二郎/訳 ハヤカワ・ミステリ文庫 2009/8/21))
この小説の主人公ドートマンダーについて、紹介しておきましょう。
《天才的犯罪プランナーにして職業的窃盗の第一人者
ジョン・ドートマンダー。彼こそ、難攻不落のターゲットを狙い、
だれも考えつかないような奇想天外の作戦計画を樹立する
不世出の大泥棒……のはずなのだ。
だが、どういうわけかその計画が予定通りに運ぶことはまずない。
うまく運んでいると思っても、
必ずや不幸の連鎖が襲いかかってくるのだ。
泥棒稼業はつらいよ! 世界一不幸な男、
哀愁の中年泥棒ドートマンダー奮闘記。》
↑の出版社の紹介文にありますように、
主人公は、泥棒を稼業とする中年男性。
第一級の犯罪プランナーでプロフェッショナルの窃盗犯
……のはずなのですが、なぜか予想外の出来事が起こり、
そのためあれやこれやと想定外の奮闘を要求される
という運命を背負っています。
まあ、たいていの場合、最後はなんとか切り抜けるのですが、
肝心の獲物は……、といった哀愁に満ちた人物です。
角川文庫で『ホットロック』で初登場し、その後相次いで
『強盗プロフェッショナル』『ジミー・ザ・キッド』
『悪党たちのジャムセッション』と紹介され、
(ここまでは私もリアルタイムで追いかけて読みました。
仮設銀行を襲う『強盗プロフェッショナル』が一番面白かった。)
(画像:初期4長編で一番のお気に入りで、今も手元に残っているドナルド・E・ウェストレイクの<泥棒ジョン・ドートマンダー>シリーズの一冊『強盗プロフェッショナル』(渡辺栄一郎/訳 角川文庫 1975))
その後少し合間をおいて、ハヤカワ文庫に版元を移して、
木村二郎(木村仁良)訳で5作が紹介されました。
(これらはすべて長編小説。)
どれもドートマンダーが仲間たちと計画を立て犯行に及ぶ、
という犯罪物語です。
ところが、予想外の出来事に巻き込まれたりして……、
というコメディに仕上がっています。
で、今回紹介しますのは、
そのドートマンダーの短編シリーズの一編です。
●ジョン・ドートマンダー・シリーズの短編「パーティー族」
お話は、
クリスマスの日、宝石を泥棒して逃げる途中、
警察に追われ、非常階段の途中で絶体絶命のピンチに陥り、
逃げ場をなくしたドートマンダーが、
10年から25年の刑務所入りを覚悟した時――
《なんというクリスマス・プレゼントなんだ。》p.159
左の肘に、二インチほど開いた窓に出くわします。
窓の向こうには、人気のない部屋の反対側にあるドアから
明るい光が差し込んでいます。
まさに希望の光か。
ダブルベッドの上に山積みになったコートの中に自分のコートを置き、
パーティー出席者の話し声がする部屋に入っていきます。
仕出し屋の仏頂面の女性がいます。
予定していたメンバーが来ていないのです。
彼はその助手の代わりになりすまします。
服装がちょうど給仕人ぽかったので、
タオルをエプロン代わりに使い、“変装”します。
女性はきりきり舞いしていたので、
大助かりとばかり彼を受け入れます。
この辺のやりとりは本編でお楽しみください。
そこへ、警察官が踏み込んできます。
ここでも警察官とのあれこれがあります。
彼女も“救世主”を手放したくなかったのか、
彼のことを告発しません。
で、なんとか無事に切り抜けます。
いってみれば、
チェスタトンのブラウン神父シリーズの推理小説の
「見えない男」や「奇妙な足音」のトリックのようなもので、
給仕人には、余り注意を持たれないというのでしょうか。
しばらくするうちに言い争う声が聞こえてきます。
ドートマンダーは“戦利品”の一部を
パーティー出席者の一人の持ち物に隠しておいたのですが、
それが見つかったようです。
この隙に、彼は逃げ出すことにします。
その前に一つ、
仕出し屋の女性が一人でソーセージを並べているところに立寄り、
一つ残してあった“宝物”
(《羽根の形をしたきわめて素敵な黄金のブローチだ》)
を取り出し、女の背後にまわり、女の束髪のなかに隠します。
《「何? 何? 何なの?」
女は何が起こっているのかわからなかったが、
うしろを向くのが怖かった。/
「家に着いたら」ドートマンダーが忠告した。
「きみのボーイフレンドにそれをだしてもらうんだ。
家に着いてからだぞ」/
「でも、何なの?」/
「羽根だよ」彼は的確に言ってから、
変装に使った皿拭きタオルを外した。
例のジャケットがなくて残念だ。
「さてと、煙突から出ていくかな」/
女は笑った。二人が出会ったときよりも
ずっと楽しそうな人間になっていた。
そして、ソーセージをのせたトレイをつかみあげた。
「トナカイさんたちによろしくね」/
「言っておくよ」》 pp.187-188
ドートマンダーは、ベッドルームには入り、
コートの山から自分のコートを取り、
商売道具と今夜の収穫をポケットに入れ、
ベッドサイドの電話で家で待つ同居人に電話します。
《「おれは少し遅くなるぞ、メイ」/
「確かに遅いわね」メイが同意した。「警察署?」/
「いや、パーティー会場にいるんだが」ドートマンダーが言った。
「これから出るところだ」
厳密に言うと、非常階段をおりていくのだ。
「問題が起きたんだが」と説明した。/「もう大丈夫だ」/
「素敵なパーティーなの?」/
「食べ物がうまい」ドートマンダーが言った。
「じゃあ、あとで会おう」》 pp.188-189(おしまい)
●天の助けか、クリスマスプレゼントか
「クリスマス・プレゼントに欲しいものは何ですか?」
と尋ねられたら、人はどう答えるでしょうか。
仕出し屋の女性の行動から思うのは、
給仕作業の手助けをしてくれたドートマンダーという存在は、
素敵なクリスマス・プレゼントだったということでしょうか。
そして、逃げ場として現れた開いた窓は、
ドートマンダーにとってのクリスマス・プレゼントであり、
そこで現れた女性が彼を受け入れてくれたことは、
こちらもまた天の助けであり、
その返礼が金のブローチとなったのでしょう。
では、この女性にとってはどちらが嬉しかったのでしょうか。
たぶん、○○ですよね、って。
●お楽しみの小説
ディケンズ『クリスマス・キャロル』に見られるように、
クリスマス・ストーリーにはつきものとされるのが、
精霊や幽霊といった存在、
スーパーナチュラル、超自然現象が見られるものです。
現代編では、そういうものが必ずしも出てこない、
ストレートな小説も多く見られます。
今回の作品もそういう一編です。
超常現象は現れませんが、仕出し屋の女性にとっては、
ドートマンダーの登場はまさに天の助け、
というところだったのでしょう。
そして、ドートマンダーにとっても、
彼女は天使のような存在に思えたことでしょう。
クリスマス・シーズンといえば、善意の季節というのが、相場です。
泥棒稼業とは相容れない関係かもしれませんが、
小説の中のお話ということで、ご勘弁願いましょう。
四角四面、杓子定規な善悪判断ではなく、融通無礙な受け止め方で、
大らかにお楽しみとしての読書があってもいいでしょう。
こういうお話があってもいいですよね。
重いテーマに裏打ちされた、
人の生き方や社会のあり方を考えさせる小説ばかりが芸術ではない、
と思います。
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★創刊300号への道のり(7) 2014(平成26)年(7年目)
120.
2014(平成26)年1月15日号(No.120)-140115-
私の読書論-53- 年末年始の本屋さんの思い出から
121.
2014(平成26)年1月31日号(No.121)-140131-
“今年(2013年)読んだ本・買った本”から (2)娯楽編『時の地図』
号外
2014(平成26)年2月15日号-140215-号外「体調不良のためお休み」
122.
2014(平成26)年2月28日号(No.122)-140228-
-古代インドの哲学-「ウパニシャッド」
123.
2014(平成26)年3月15日号(No.123)-140315-
私の読書論-54-「私のおススメの古典から」(1)
-古代の古典から- 古代英雄叙事詩
124.
2014(平成26)年3月31日号(No.124)-140331-
-古代インドの大叙事詩-『マハーバーラタ』
125.
2014(平成26)年4月15日号(No.125)-140415-
私の読書論-55-「私のおススメの古典から」(2)著作のない四聖
126.
2014(平成26)年4月30日号(No.126)-140430-「生き方の秘訣
-古代インドの宗教詩編-『バガヴァッド・ギーター』」
127.
2014(平成26)年5月15日号(No.127)-140515-
私の読書論-56-「私のおススメの古典から」(3)
-人生の教科書-『ミステリ・マガジン』
128.
2014(平成26)年5月31日号(No.128)-140531-
「古代英雄叙事詩『ラーマーヤナ』」
129.
2014(平成26)年6月15日号(No.129)-140615-
「私の読書論-57-「私のおススメの古典から」(4)
-人生の教科書-『ミステリ・マガジン』(2)コラム編」
130.
2014(平成26)年6月30日号(No.130)-140630-
「幸福な生のための“性”典『カーマ・スートラ』」
131.
2014(平成26)年7月15日号(No.131)-140715-
「私の読書論-58-「私のおススメの古典から」(5)
-古典を考える- 岩波文庫フェア 小冊子から」
132.
2014(平成26)年7月31日号(No.132)-140731-
「“もう一度 あの頃の…”思い出の名作
―3社<夏の文庫>フェア2014から」
134.
2014(平成26)年8月31日号(No.134)-140831-
「原始仏教:ブッダの教え、ブッダになる教え(1)」
135.
2014(平成26)年9月15日号(No.135)-140915-
「私の読書論-60- -古典を考える-
岩波文庫フェア 小冊子から(3) 外岡秀俊」
136.
2014(平成26)年9月30日号(No.136)-140930-
「原始仏教(2)原始仏典(1)スッタニパータ(前編)」
137.
2014(平成26)年10月15日号(No.137)-141015-
「私の読書論-61- -古典を考える-
岩波文庫フェア 小冊子から(4) その他あれこれ」
138.
2014(平成26)年10月31日号(No.138)-141031-
「原始仏教(3)原始仏典(1)スッタニパータ(後編)」
139.
2014(平成26)年11月15日号(No.139)-141115-
「私の読書論-62- -古典を考える-
入門書としての少年少女名作全集(前編)」
140.
2014(平成26)年11月30日号(No.140)-141130-
「クリスマス・ストーリーをあなたに~
『ひいらぎ飾ろう@クリスマス』コニー・ウィリス」
141.
2014(平成26)年12月15日号(No.141)-141215-
「私の読書論-63- -古典を考える-
入門書としての少年少女名作全集(後編)」
142.
2014(平成26)年12月31日号(No.142)-141231-
「2014年に読んだ本から(前編)
フィクション編『マハーバーラタ』」
・・・
この年は、月末の「古典紹介編」では、
古代インド編を。神話から原始仏教まで。
月半ばの発行号の「私の読書論」では、
年の前半では「私のおススメの古典から」で、
私の個人的なオススメの古典を紹介していました。
また後半では、「-古典を考える- 岩波文庫フェア 小冊子から」で、
各氏の古典読書についてのご意見を紹介しました。
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本誌では、「クリスマス・ストーリーをあなたに~(11)-2021-「パーティー族」ドナルド・E・ウェストレイク」をお届けしています。
今回は、全編公開しました。
本文中でも紹介していますように、過去10編のクリスマスストーリーを紹介してきました。
古典編と現代編をそれぞれ交互に。
で、今年は、現代編として、犯罪コメディの短編を紹介しています。
ドートマンダーさんは、私の好きなキャラクターでもあります。
こういう話も楽しいですよね。
エンタメのお手本の一つではないでしょうか。
コロナ禍の時代に、こういうコメディで現実を忘れるのも、気分転換になりますし、精神安定剤としての役目もあるでしょう。
眉間にしわを寄せて生きるのも一つの生き方ですが、私のように気が弱くて怖がりの人間には、こういうふうにお気楽に過ごすのもありでしょう。
・・・
では、弊誌を面白いと思われた方は、購読のお申し込みを!
*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』
『レフティやすおのお茶でっせ』
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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載
クリスマス・ストーリーをあなたに~(11)-2021-「パーティー族」-楽しい読書307号
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