『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』第608号 別冊編集後記
第608号(No.608) 2021/12/4
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その24―
左利き本のために――左利きの人生を考える(10)
見えない差別(3)ケイパビリティ――生き方の幅」
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
※『週刊ヒッキイ』は、
・ 2014年7月より
月二回(第一・第三土曜日)の発行に変更しました。
・ 2019年10月より
第一・第三土曜日の発行は、新規配信
第二・第四土曜日の発行は、バックナンバーからの再配信
に変更しました。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
引き続き、再配信はしばらくお休みとします。
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◇◆◇◆◇◆ 左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii ◆◇◆◇◆◇
【左利きを考えるレフティやすおの左組通信】メールマガジン
右利きにも左利きにも優しい左右共存共生社会の実現をめざして
左利きおよび利き手についていっしょに考えてゆきましょう!
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第608号(No.608) 2021/12/4
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その24―
左利き本のために――左利きの人生を考える(10)
見えない差別(3)ケイパビリティ――生き方の幅」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その24―
左利き本のために――左利きの人生を考える(9)
見えない差別―個別事例(2)書写教科書」
の7月以来の10回目です。
日にちがたってしまい、何について書いてきたのか失念しています。
改めてバックナンバーを確認して、この稿を書き始めましたが……。
さて、どうなりますか。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その24―
(左利き本のために)――左利きの人生を考える(10)
◆ 「見えない差別/隠れた差別/意識されない差別」 ◆
~ (3) ケイパビリティ――生き方の幅 ~
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
●人間的に公平な「左利きという生き方」を考えるために
前々回、前回とここまでは、左利き差別の実態として、
「ハサミ」と「書字」という個別事例について見てきました。
今回は、個別事例について云々するまえに、
ちょっと思うところを書いてみたいと思います。
・・・
最近読んだ本(いつか読みたくなるだろうと思い、
すぐに買ってそのまま置いてあった本)、
神島裕子さんの
『正義とは何か 現代政治哲学の6つの視点』中公新書 2018/9/19
の中で、「ケイパビリティ」という言葉を知りました。
同書は、
ジョン・ロールズの『正義論』に始まる現代正義論の思想をたどり、
「公正な社会」とはどういうものか、どうすれば実現できるのか、
といった「正しい社会のあり方」についてだけでなく、
「社会における個人の幸福」について考えるための材料を提供する、
というものです。
社会における正義――公平な富の分配、権利の平等など、
基本的人権を維持するための方法を考える政治哲学関係の本です。
その本の中で気になったのが、「ケイパビリティ」という言葉でした。
●「ケイパビリティ」とは
1998年のノーベル経済学賞を受賞したインド出身の
アマルティア・セン(1933-)が、
1979年のスタンフォード大学の連続講義「何の平等か?」のなかで
論述した概念を著わす言葉のようです。
「ケイパビリティ(capability)」の英語としての意味は、
「能力、才能、性能、可能性」といったことです。
《センが持ち出した「ケイパビリティ(潜在能力)」とは、
ある人が何かを行ったり、何かになったりするための、
実質的な自由のことです。》p.56
といい、
《センは人間の多様性も考慮に入れています。
人びとはその外的な特性
(相続した資産や自然的・社会的な住環境など)や
個人的な特性
(年齢、性別、病気に対する抵抗力、身体的・精神的な能力など)
において多様であり、同じ種類で同じ量の財が分配されたとしても、
同じケイパビリティ――生き方の幅――
を享受できるとは限りません。》
全員に同じ自転車を配っても、
足の不自由な人はその自転車を用いて移動したり、
サイクリングを楽しんだりはできない、
同じ生活保護費を支給しても、医療費がかさむ病弱な人は、
食費や他の費用に当てられる金額は少なくなる、
という例を挙げ、こう説明しています。
《基本的ケイパビリティの平等のためには、
財を不平等に分配しなければならないのです。》
●左利きに当てはめると
これを左利きに当てはめて考えますと、
人間個人としての潜在能力は同じ――右手が得意、左手が得意――でも、
社会環境が「右利き優位」、あるいは「右利き偏重」、
「左利きを無視・否定する」状況では、左利きは不平等であるため、
《同じケイパビリティ――生き方の幅――を享受できるとは限》らない、
ということになります。
例えば、ハサミというものは非常に便利なものですが、
ハサミには右手用と左手用の別があります。
右利きの人は右手で使う右手用が便利ですが、
左利きの人は左手で使う左手用が便利です。
ところが、右手用は色々なタイプのものが多数発売されていて、
自分の用途に合った製品を手軽に手に入れることができます。
しかし、左手用は種類も少なく、
お店によっては取り扱っていないこともあり、
自分の欲しいものが手軽に手に入るとは限りません。
時にはお値段が右手用よりも高い場合もあります。
自分の好みのものを手に入れるために手間がかかったり、
お金がかかったり、余計な負担が必要だったりするとしたら、
これは
《同じケイパビリティ――生き方の幅――を享受できるとは限》らない
といえるでしょう。
●「生き方の幅」
この「生き方の幅」という言葉が、
私には、グッとくるものがありました。
個人の生活や幸福は、
「個人的な特性」と「(社会という環境の)外的特性」に
影響を受けるため、
各人が真に公平な生き方ができるためには、
これらにおける負の要素を埋める何かが必要だ、ということです。
先のハサミの例でいえば、
お金であったり、探すための手間暇であったり、です。
現状では、右利き優位の社会であり、その分だけ左利きの人は、
右利きの人に比べると「生き方の幅」が狭くなっている、
ということになります。
「選択肢」といってもいいかもしれません。
例えば野球でいえば、
右利き右投げの選手は、守れるポジションが9つ、どこでも守れます。
一方、
左利き左投げの選手では、ピッチャーと一塁手と外野手ぐらいです。
その他のポジションは、特に一塁以外の内野のポジションは、
左投げの選手には守りにくいポジションになっています。
プロ野球の試合を見ていましても、
左投げの二塁手や三塁手、遊撃手などはいません。
守れるポジションの選択肢が少ないのです。
当然レギュラー選手になれる機会も減ります。
すなわち、
左利きの人は「野球選手としての(生き方の)幅」が狭い、
ということになります。
●「生き方の幅」から見た「利き手差別」
野球に限らず、世間を見ていきますと、
左利きの人にとって
「生き方の幅」に制限がありそうな仕事や職業などが
あれこれ見つかるのではないでしょうか。
「生き方の幅」を広げる、あるいは障害となる溝を埋める、
そういう方法なり方策なりが必要になってくるようです。
左利きの人の悩みとしての
単純な左利きであることの不便や困りごとの羅列だけでなく、
「生き方の幅」という観点からも、
「利き手差別」というものをもう一度確認し直したいものです。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
★600号までの道のり(8)第161号~第180号
第161号(No.161) 2009/1/3「2009年新春放談~左利きの楽園~」
◆2009年新春放談~左利きの楽園~◆(1)【左利きの楽園】
欄外 おまけ...【左利きの雑誌】『モノ・マガジン』09/2/2号
第162号(No.162) 2009/1/10「新春放談~左利きの楽園~(2)」
◆2009年新春放談~左利きの楽園~◆
(2)【左利きの人とはどんな人か?】
第163号(No.163) 2009/1/17「2009年新春放談~左利きの楽園~(3)」
◆2009年新春放談~左利きの楽園~◆
(3)【左利きの人だけの問題ではない】
第164号(No.164) 2009/1/24「<左利きプチ・アンケート>第59回」
第59回 左利きの問題は左利きの人だけのものか?
◎お知らせ◎
『モノ・マガジン』2009年2月2日号左利きグッズ大図鑑 続報
第165号(No.165) 2009/1/31冬季臨時増刊号「既刊号一覧2008年後期」
◆ 既刊号一覧 ◆ 左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii
バックナンバーの案内 2008年後期発行分(No.140-160)
第166号(No.166) 2009/2/7
「<LYPG>2009発表&<左利きQ&A>(24)」
◎お知らせ◎「第3回<LYグランプリ>2009」発表
★左利き講座<左利きQ&A>★
(24)左利き・利き手について勉強する本(その3)
第167号(No.167) 2009/2/14「生活技術(6)ネジの回転」
▲左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ▲
―その16― 初めての生活技術(6)ネジの回転
第168号(No.168) 2009/2/21「左手書字の研究―実技編(10)」
≪左利き学入門≫「左手書字の研究―実技編」
(10)横書き(その1)縦書きと横書きの違い
第169号(No.169) 2009/2/28
「<左利きプチ・アンケート>第58/59回現在の結果と感想」
第58/59回アンケートの現在の結果と感想
第170号(No.170) 2009/3/7「<左利きQ&A>(25)左利き..本(4)」
★左利き講座<左利きQ&A>★
(24)左利き・利き手について勉強する本(その3)
斎藤茂太/著『左ききの人はなぜ才能があるのか』
第171号(No.171) 2009/3/14
「生活技術(7)右手用しかないものは左手で扱う...」
▲左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ▲
―その16― 初めての生活技術
(7)右手用しかないものは左手で扱う方法を教えよう
第172号(No.165) 2009/3/21「左手書字の研究―実技編(11)横書き(2)」
≪左利き学入門≫「左手書字の研究―実技編」
(11)横書き(その2)横書きの難点と簡易対策
第173号(No.173) 2009/3/28「<左利きプチ・アンケート>第60回」
第60回 将来どんな社会になればよいと思いますか?
第174号(No.174) 2009/4/4「<左利きムーヴメント>始めます!」
◎お知らせ◎ <左利きムーヴメント>始めます!
◎リニューアルのお知らせ◎
第175号(No.175) 2009/4/11
「親御さんへ速報!『左利きの子』教育・保育ガイド本」
▲左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ▲
<特別編>左利きの子 右手社会で暮らしやすくするために
ローレン・ミルソム/著 笹山裕子/訳 東京書籍(2009年4月)
第176号(No.176) 2009/4/18
「名作の中の左利き(1)『カラマーゾフの兄弟』」
新コーナー
≪左利き学入門≫ ■名作の中の左利き■
―その1― ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』
第177(No.177) 2009/4/25
「<左利きプチ・アンケート>第59回その後」
第59回 左利きの問題は左利きの人だけのものか?
その後の経過は?
第178(No.178) 2009/5/2
「<左利きムーヴメント>宣言!(1)お役立ち情報..」
━<左利きムーヴメント>宣言!━
~その1~左利きのお役立ち情報リスト&リンク集を作る
(1)左利きを知るための本
第179(No.179) 2009/5/9「<特別編>『左利きの子』続報」
▲左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ▲
<特別編>左利きの子 右手社会で暮らしやすくするために
ローレン・ミルソム/著 笹山裕子/訳 東京書籍(2009年4月)
第180(No.180) 2009/5/16「名作の中の左利き(2)『黄金虫』ポー」
新コーナー
≪左利き学入門≫ ■名作の中の左利き■
―その2―『黄金虫』エドガー・アラン・ポー
――引き続き、毎週異なるテーマで書いていました。
第一土曜は、左利き講座<左利きQ&A>、
<左利きムーヴメント>宣言!
第二土曜は、<左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ>
左利き子育て相談の疑問
第三土曜は、≪左利き学入門≫「左手書字の研究―実技編」、
≪左利き学入門≫ 名作の中の左利き
第四土曜は、<左利きプチ・アンケート>
第五土曜があるときは、臨時増刊で、バックナンバーの紹介
2009年は、一部リニューアルを敢行。
第一土曜では、<左利きムーヴメント>宣言! で、
左利き啓蒙活動を!
第三土曜では、≪左利き学入門≫ 名作の中の左利き で、
左利きの人物が登場する世界的な名作を紹介。
また、第二土曜は、
私が巻末資料の作成に協力した左利きの子育てガイド本、
『左利きの子 右手社会で暮らしやすくするために』の紹介を!
絶版にはなっていますが、日本では出版されていない種類の本です。
有名なイギリスの通販の左利き用品店のオーナーでもある、左利きで、
左利きの子の母でもある著者の手になる本です。
*各号のタイトルを見て、「これ気になるなあ、読んでみたいなあ」
というものがございましたら、リクエストをお願いいたします。
再配信なり、現時点での加筆・修正を行っての配信など、
改めてお届けすることも考えています。
リクエストは、本誌に返信してください。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
本誌では、「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その24― 左利き本のために――左利きの人生を考える(10) 見えない差別(3)ケイパビリティ――生き方の幅」と題して、今回も全紹介です。
今回は、久しぶりのこのテーマということで、最近気になった言葉「ケイパビリティ――生き方の幅」に関して思うところを書いてみました。
左利きの人は、左利きであるということで、その生き方の幅が狭くなっているのではないか、ということです。
ネットでの活動を始めた当時、面接試験で左利きの人と判明すれば落とす(雇わない)、というある加工業の社長さんがいました。
特殊な加工をする会社で、その道具や機械が特殊で、右手用しかないので左利きの人は使いにくいから、というような理由でした。
私には差別ではないかと思えたものでしたが……。
(その後どうなったのでしょうか。)
「生き方の幅」を「選択肢」という言葉に置き換えてもいいかもしれません。
マイノリティーといわれる人はみな、それなりに「生き方の幅」が狭められている?
やはりこの世の中を生きていく上で、主流派の人は「生きやすい」のではないでしょうか――という疑問です。
・・・
では、弊誌を面白い、興味深い、これからも読んでみたいと思われた方は、購読のお申し込みを!
*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』
『レフティやすおのお茶でっせ』〈左利きメルマガ〉カテゴリ
--
『レフティやすおのお茶でっせ』より転載
左利きの人生を考える(10)見えない差別(3)生き方の幅-週刊ヒッキイ第608号
--
第608号(No.608) 2021/12/4
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その24―
左利き本のために――左利きの人生を考える(10)
見えない差別(3)ケイパビリティ――生き方の幅」
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※『週刊ヒッキイ』は、
・ 2014年7月より
月二回(第一・第三土曜日)の発行に変更しました。
・ 2019年10月より
第一・第三土曜日の発行は、新規配信
第二・第四土曜日の発行は、バックナンバーからの再配信
に変更しました。
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右利きにも左利きにも優しい左右共存共生社会の実現をめざして
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第608号(No.608) 2021/12/4
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その24―
左利き本のために――左利きの人生を考える(10)
見えない差別(3)ケイパビリティ――生き方の幅」
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「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その24―
左利き本のために――左利きの人生を考える(9)
見えない差別―個別事例(2)書写教科書」
の7月以来の10回目です。
日にちがたってしまい、何について書いてきたのか失念しています。
改めてバックナンバーを確認して、この稿を書き始めましたが……。
さて、どうなりますか。
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左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その24―
(左利き本のために)――左利きの人生を考える(10)
◆ 「見えない差別/隠れた差別/意識されない差別」 ◆
~ (3) ケイパビリティ――生き方の幅 ~
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●人間的に公平な「左利きという生き方」を考えるために
前々回、前回とここまでは、左利き差別の実態として、
「ハサミ」と「書字」という個別事例について見てきました。
今回は、個別事例について云々するまえに、
ちょっと思うところを書いてみたいと思います。
・・・
最近読んだ本(いつか読みたくなるだろうと思い、
すぐに買ってそのまま置いてあった本)、
神島裕子さんの
『正義とは何か 現代政治哲学の6つの視点』中公新書 2018/9/19
の中で、「ケイパビリティ」という言葉を知りました。
同書は、
ジョン・ロールズの『正義論』に始まる現代正義論の思想をたどり、
「公正な社会」とはどういうものか、どうすれば実現できるのか、
といった「正しい社会のあり方」についてだけでなく、
「社会における個人の幸福」について考えるための材料を提供する、
というものです。
社会における正義――公平な富の分配、権利の平等など、
基本的人権を維持するための方法を考える政治哲学関係の本です。
その本の中で気になったのが、「ケイパビリティ」という言葉でした。
●「ケイパビリティ」とは
1998年のノーベル経済学賞を受賞したインド出身の
アマルティア・セン(1933-)が、
1979年のスタンフォード大学の連続講義「何の平等か?」のなかで
論述した概念を著わす言葉のようです。
「ケイパビリティ(capability)」の英語としての意味は、
「能力、才能、性能、可能性」といったことです。
《センが持ち出した「ケイパビリティ(潜在能力)」とは、
ある人が何かを行ったり、何かになったりするための、
実質的な自由のことです。》p.56
といい、
《センは人間の多様性も考慮に入れています。
人びとはその外的な特性
(相続した資産や自然的・社会的な住環境など)や
個人的な特性
(年齢、性別、病気に対する抵抗力、身体的・精神的な能力など)
において多様であり、同じ種類で同じ量の財が分配されたとしても、
同じケイパビリティ――生き方の幅――
を享受できるとは限りません。》
全員に同じ自転車を配っても、
足の不自由な人はその自転車を用いて移動したり、
サイクリングを楽しんだりはできない、
同じ生活保護費を支給しても、医療費がかさむ病弱な人は、
食費や他の費用に当てられる金額は少なくなる、
という例を挙げ、こう説明しています。
《基本的ケイパビリティの平等のためには、
財を不平等に分配しなければならないのです。》
●左利きに当てはめると
これを左利きに当てはめて考えますと、
人間個人としての潜在能力は同じ――右手が得意、左手が得意――でも、
社会環境が「右利き優位」、あるいは「右利き偏重」、
「左利きを無視・否定する」状況では、左利きは不平等であるため、
《同じケイパビリティ――生き方の幅――を享受できるとは限》らない、
ということになります。
例えば、ハサミというものは非常に便利なものですが、
ハサミには右手用と左手用の別があります。
右利きの人は右手で使う右手用が便利ですが、
左利きの人は左手で使う左手用が便利です。
ところが、右手用は色々なタイプのものが多数発売されていて、
自分の用途に合った製品を手軽に手に入れることができます。
しかし、左手用は種類も少なく、
お店によっては取り扱っていないこともあり、
自分の欲しいものが手軽に手に入るとは限りません。
時にはお値段が右手用よりも高い場合もあります。
自分の好みのものを手に入れるために手間がかかったり、
お金がかかったり、余計な負担が必要だったりするとしたら、
これは
《同じケイパビリティ――生き方の幅――を享受できるとは限》らない
といえるでしょう。
●「生き方の幅」
この「生き方の幅」という言葉が、
私には、グッとくるものがありました。
個人の生活や幸福は、
「個人的な特性」と「(社会という環境の)外的特性」に
影響を受けるため、
各人が真に公平な生き方ができるためには、
これらにおける負の要素を埋める何かが必要だ、ということです。
先のハサミの例でいえば、
お金であったり、探すための手間暇であったり、です。
現状では、右利き優位の社会であり、その分だけ左利きの人は、
右利きの人に比べると「生き方の幅」が狭くなっている、
ということになります。
「選択肢」といってもいいかもしれません。
例えば野球でいえば、
右利き右投げの選手は、守れるポジションが9つ、どこでも守れます。
一方、
左利き左投げの選手では、ピッチャーと一塁手と外野手ぐらいです。
その他のポジションは、特に一塁以外の内野のポジションは、
左投げの選手には守りにくいポジションになっています。
プロ野球の試合を見ていましても、
左投げの二塁手や三塁手、遊撃手などはいません。
守れるポジションの選択肢が少ないのです。
当然レギュラー選手になれる機会も減ります。
すなわち、
左利きの人は「野球選手としての(生き方の)幅」が狭い、
ということになります。
●「生き方の幅」から見た「利き手差別」
野球に限らず、世間を見ていきますと、
左利きの人にとって
「生き方の幅」に制限がありそうな仕事や職業などが
あれこれ見つかるのではないでしょうか。
「生き方の幅」を広げる、あるいは障害となる溝を埋める、
そういう方法なり方策なりが必要になってくるようです。
左利きの人の悩みとしての
単純な左利きであることの不便や困りごとの羅列だけでなく、
「生き方の幅」という観点からも、
「利き手差別」というものをもう一度確認し直したいものです。
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★600号までの道のり(8)第161号~第180号
第161号(No.161) 2009/1/3「2009年新春放談~左利きの楽園~」
◆2009年新春放談~左利きの楽園~◆(1)【左利きの楽園】
欄外 おまけ...【左利きの雑誌】『モノ・マガジン』09/2/2号
第162号(No.162) 2009/1/10「新春放談~左利きの楽園~(2)」
◆2009年新春放談~左利きの楽園~◆
(2)【左利きの人とはどんな人か?】
第163号(No.163) 2009/1/17「2009年新春放談~左利きの楽園~(3)」
◆2009年新春放談~左利きの楽園~◆
(3)【左利きの人だけの問題ではない】
第164号(No.164) 2009/1/24「<左利きプチ・アンケート>第59回」
第59回 左利きの問題は左利きの人だけのものか?
◎お知らせ◎
『モノ・マガジン』2009年2月2日号左利きグッズ大図鑑 続報
第165号(No.165) 2009/1/31冬季臨時増刊号「既刊号一覧2008年後期」
◆ 既刊号一覧 ◆ 左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii
バックナンバーの案内 2008年後期発行分(No.140-160)
第166号(No.166) 2009/2/7
「<LYPG>2009発表&<左利きQ&A>(24)」
◎お知らせ◎「第3回<LYグランプリ>2009」発表
★左利き講座<左利きQ&A>★
(24)左利き・利き手について勉強する本(その3)
第167号(No.167) 2009/2/14「生活技術(6)ネジの回転」
▲左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ▲
―その16― 初めての生活技術(6)ネジの回転
第168号(No.168) 2009/2/21「左手書字の研究―実技編(10)」
≪左利き学入門≫「左手書字の研究―実技編」
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第169号(No.169) 2009/2/28
「<左利きプチ・アンケート>第58/59回現在の結果と感想」
第58/59回アンケートの現在の結果と感想
第170号(No.170) 2009/3/7「<左利きQ&A>(25)左利き..本(4)」
★左利き講座<左利きQ&A>★
(24)左利き・利き手について勉強する本(その3)
斎藤茂太/著『左ききの人はなぜ才能があるのか』
第171号(No.171) 2009/3/14
「生活技術(7)右手用しかないものは左手で扱う...」
▲左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ▲
―その16― 初めての生活技術
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第172号(No.165) 2009/3/21「左手書字の研究―実技編(11)横書き(2)」
≪左利き学入門≫「左手書字の研究―実技編」
(11)横書き(その2)横書きの難点と簡易対策
第173号(No.173) 2009/3/28「<左利きプチ・アンケート>第60回」
第60回 将来どんな社会になればよいと思いますか?
第174号(No.174) 2009/4/4「<左利きムーヴメント>始めます!」
◎お知らせ◎ <左利きムーヴメント>始めます!
◎リニューアルのお知らせ◎
第175号(No.175) 2009/4/11
「親御さんへ速報!『左利きの子』教育・保育ガイド本」
▲左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ▲
<特別編>左利きの子 右手社会で暮らしやすくするために
ローレン・ミルソム/著 笹山裕子/訳 東京書籍(2009年4月)
第176号(No.176) 2009/4/18
「名作の中の左利き(1)『カラマーゾフの兄弟』」
新コーナー
≪左利き学入門≫ ■名作の中の左利き■
―その1― ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』
第177(No.177) 2009/4/25
「<左利きプチ・アンケート>第59回その後」
第59回 左利きの問題は左利きの人だけのものか?
その後の経過は?
第178(No.178) 2009/5/2
「<左利きムーヴメント>宣言!(1)お役立ち情報..」
━<左利きムーヴメント>宣言!━
~その1~左利きのお役立ち情報リスト&リンク集を作る
(1)左利きを知るための本
第179(No.179) 2009/5/9「<特別編>『左利きの子』続報」
▲左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ▲
<特別編>左利きの子 右手社会で暮らしやすくするために
ローレン・ミルソム/著 笹山裕子/訳 東京書籍(2009年4月)
第180(No.180) 2009/5/16「名作の中の左利き(2)『黄金虫』ポー」
新コーナー
≪左利き学入門≫ ■名作の中の左利き■
―その2―『黄金虫』エドガー・アラン・ポー
――引き続き、毎週異なるテーマで書いていました。
第一土曜は、左利き講座<左利きQ&A>、
<左利きムーヴメント>宣言!
第二土曜は、<左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ>
左利き子育て相談の疑問
第三土曜は、≪左利き学入門≫「左手書字の研究―実技編」、
≪左利き学入門≫ 名作の中の左利き
第四土曜は、<左利きプチ・アンケート>
第五土曜があるときは、臨時増刊で、バックナンバーの紹介
2009年は、一部リニューアルを敢行。
第一土曜では、<左利きムーヴメント>宣言! で、
左利き啓蒙活動を!
第三土曜では、≪左利き学入門≫ 名作の中の左利き で、
左利きの人物が登場する世界的な名作を紹介。
また、第二土曜は、
私が巻末資料の作成に協力した左利きの子育てガイド本、
『左利きの子 右手社会で暮らしやすくするために』の紹介を!
絶版にはなっていますが、日本では出版されていない種類の本です。
有名なイギリスの通販の左利き用品店のオーナーでもある、左利きで、
左利きの子の母でもある著者の手になる本です。
*各号のタイトルを見て、「これ気になるなあ、読んでみたいなあ」
というものがございましたら、リクエストをお願いいたします。
再配信なり、現時点での加筆・修正を行っての配信など、
改めてお届けすることも考えています。
リクエストは、本誌に返信してください。
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本誌では、「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その24― 左利き本のために――左利きの人生を考える(10) 見えない差別(3)ケイパビリティ――生き方の幅」と題して、今回も全紹介です。
今回は、久しぶりのこのテーマということで、最近気になった言葉「ケイパビリティ――生き方の幅」に関して思うところを書いてみました。
左利きの人は、左利きであるということで、その生き方の幅が狭くなっているのではないか、ということです。
ネットでの活動を始めた当時、面接試験で左利きの人と判明すれば落とす(雇わない)、というある加工業の社長さんがいました。
特殊な加工をする会社で、その道具や機械が特殊で、右手用しかないので左利きの人は使いにくいから、というような理由でした。
私には差別ではないかと思えたものでしたが……。
(その後どうなったのでしょうか。)
「生き方の幅」を「選択肢」という言葉に置き換えてもいいかもしれません。
マイノリティーといわれる人はみな、それなりに「生き方の幅」が狭められている?
やはりこの世の中を生きていく上で、主流派の人は「生きやすい」のではないでしょうか――という疑問です。
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(まぐまぐ!)『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』
『レフティやすおのお茶でっせ』〈左利きメルマガ〉カテゴリ
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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載
左利きの人生を考える(10)見えない差別(3)生き方の幅-週刊ヒッキイ第608号
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