古典から始める レフティやすおの楽しい読書 別冊編集後記
2022(令和4)年1月31日号(No.311)「私の読書論153-
私の年間ベスト3・2021年フィクション系(後編)」
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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2022(令和4)年1月31日号(No.311)「私の読書論153-
私の年間ベスト3・2021年フィクション系(後編)」
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年末年始恒例の「私の年間ベスト3」――
昨2021年に私が読んだ本のなかから
オススメの「私の年間ベスト3」を選ぶという企画です。
今回は、フィクション系の後編です。
前回の全編では、フィクションへの候補作品と
「ベスト3」から(その1)を紹介しました。
2022(令和4)年1月15日号(No.310)「私の読書論152-
私の年間ベスト3・2021年フィクション系(前編)」
2022.1.15
私の読書論152-私の年間ベスト3・2021年フィクション系(前)
-楽しい読書310号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2022/01/post-96e3b9.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/c5c432318b110b539f37ca56d5cb67c8
●私の年間ベスト3・2021フィクション系(その1)
~ 私の年間ベスト3・2021フィクション系 ~
(その1)小森収編『短編ミステリの二百年』2~5巻
創元推理文庫2020,2021
今回は残りの二つの紹介です。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
- 時を超え、異界を超えて、人の思いは続く -
~ 私の年間ベスト3・2021フィクション系(後編) ~
(その2)梶尾真治『クロノス・ジョウンターの伝説』
ソノラマ文庫 2003
(その3)蒲松齢『聊斎志異』光文社古典新訳文庫 2021
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
●私の年間ベスト3・2021フィクション系(後編)
~ 私の年間ベスト3・2021フィクション系 ~
(その2)梶尾真治『クロノス・ジョウンターの伝説』
ソノラマ文庫 2003/6/1
(その3)蒲松齢『聊斎志異』黒田真美子/訳
光文社古典新訳文庫 2021/2/9
●(その2)梶尾真治『クロノス・ジョウンターの伝説』
(2)は、前回の全作紹介の時に書きましたように、
デビュー作以来、時間恋愛SFの名手、梶尾真治の同系列の作品で、
<クロノス・ジョウンター>というタイムマシンでの冒険譚4話収録。
時間の壁を超える冒険の成否が、よく考えられた展開で進行する、
恋愛青春物語が感動的です。
古本屋さんで見つけた、今は亡き「ソノラマ文庫」の一冊。
「吹原和彦の軌跡」
――最初のお話。通勤の途上の花屋でやっとこ見つけた恋人候補の女性。
しかしある朝、目撃した事故に巻き込まれて死んでしまう。
主人公の男性の勤め先では、過去に物質を移動させる装置
<クロノス・ジョウンター>を開発中。
ただし問題があり、一旦過去に戻れるものの
その“反動”で未来に飛ばされてしまうのです。
彼女を助けるために彼は極秘にこれを使用します。
しかし、彼女を説得できず、助けることができません。
それからも何度も試みるのですが、その度に失敗し、
次第次第に遠未来へと飛ばされ続けます。
そして56年後の4度目、遂に助けることができるのですが……。
最初の一編らしく、最も切ない恋物語でしょうか。
《「一人じゃ逃げられない。私、和彦さんを信じる。
和彦さんを待ってる。私を救ってくれる和彦さんを」》p.100
《四千年後の世界に跳ばされることになっても、
彼はあえて立ち向かうのだ。
愛するもののために、信じるもののために。》p.105
「布川輝良の軌跡」
――第二話。写真でしか知らない建築家の建物に強い憧憬を抱く彼は、
<クロノス・ジョウンター>の実験に志願する。
壊される前に憧れの建築家の最後の建築物を目にするために。
そこで出会ったのは憧れの建築物と一人の女性だった……。
《クロノス・ジョウンターを使ったといっても、
これは奇跡だと思った。輝良は圭の笑顔を見て、愛のためには、
まだ起こりうる奇跡が存在するのだと確信した。/
「愛する人のためには、どんな無茶なこともできるって、
わかったわ。ごめんなさい。驚いた?(略)」》p.217
「<外伝>朋恵の夢想時間」
――<クロノス・ジョウンター>とは異なる
「心」だけが過去に戻れる機械
<C・C>(クロノス・コンディショナー)での冒険。
「鈴谷樹里の軌跡」
――少女時代好きだったヒー兄ちゃんを不治の病から救うため、
未来から薬を持って過去に飛ぶ。
一番ヒロイックでハッピーエンドなお話。
映画『この胸いっぱいの愛を』(2005年10月)の原作。
《奇跡とは、愛し合う者たちのまわりへ集まってくる……。
樹里は比呂志の腕の中で、
そんな真理があるのではないかと考えていた。
それを司るのは……時の神(クロノス)。》
現在は、これらソノラマ文庫版の4篇に、のちに書かれた3編を追加し、
全7編のシリーズ中・短篇を収録した決定版が徳間文庫から出ています。
『クロノス・ジョウンターの伝説』梶尾真治 徳間文庫 2015/2/6
・・・
デビュー作「美亜へ贈る真珠」他、
時間&恋愛SFの原点たる八篇を収録した新版の
『美亜へ贈る真珠 〔新版〕』 ハヤカワ文庫JA 2016/12/20
●(その3)蒲松齢『聊斎志異』
(3)は、中国の清代に書かれた怪異譚集。
短いストーリーの中に、人間の様々な感情などが、
怪異譚の中に散りばめられていて、読みどころがいっぱいです。
子供の頃に『雨月物語』のお子様版を読んで以来、
元々こういう怪異譚の類いを好む私です。
前回も書きましたように、
高校生時代に柴田天馬訳の角川文庫版を読んでいたように、
この作品集にはなじみがあります。
・・・
『聊斎志異』蒲松齢/著 黒田真美子/訳 光文社古典新訳文庫 2021/2/9
訳者が選び出し、〈怪〉〈妖〉〈恋〉〈夢〉〈仙〉〈幽〉の6部に
分類した43編収録の選集。
著者・蒲松齢は、かつては神童といわれながら、
役人登用試験である科挙に落第し続けたという。
そのコンプレックスから生み出された、
古来の民間伝承などを元にした
人間と異界・異能のものとの交わりを描いた物語。
巻頭の「聊斎自誌」に「好きこそ物が集まる」と書いていますように、
自分で集めるだけでなく、
同好の士から知らされたお話などを収めています。
《時には杯に酒を浮かべて筆を取り、
ようやくこの「孤憤」の書を書き上げたのである。
かようにわが胸の内を本書に託したが、あわれなことこの上ない。》
「聊斎自誌」p.14
・・・
〈怪〉の巻
――「瞳人語」「画壁」「偸桃」「野狗」「夜叉国」「小猟犬」「酒虫」
「周克昌」「阿英」「促織」
〈妖〉の巻
――「王成」「画皮」「嬰寧」「双灯」「醜狐」「阿繊」「黄英」
〈恋〉の巻
――「連城」「封三娘」「緑衣女」「瑞雲」「白秋練」「香玉」
〈夢〉の巻
――「鳳陽士人」「続黄粱」「蓮花公主」「江城」「夢狼」「竹青」
〈仙〉の巻
――「労山道士」「西湖主」「蕙芳」「青娥」「雲蘿公主」「丐仙」
〈幽〉の巻
――「王六郎」「陸判」「聶小倩」「連瑣」「李司鑑」「伍秋月」
「小謝」「席方平」
各篇の多くに末尾、著者の教訓のようなものが書かれており、
そこがまた興味深いものです。
この選集のなかでは、「〈幽〉の巻」の諸編が私の好みでしょうか。
●ベスト3以外の本
司馬遼太郎『項羽と劉邦(上中下)』は、没後も人気の歴史小説家の
秦帝国崩壊後、漢帝国のできるまでを描いた、
古代中国を舞台にしためずらしい一編。
戦略とか戦術とか、天下を取る人の資格なり人間的な魅力などが
リーダー論として、ストーリーの中に説かれています。
ギヨーム・ミュッソ『作家の秘められた人生』は、
別荘地の小島で起きた殺人事件と過去の事件の物語。
登場人物の作家志望の青年と筆を折った人気作家の対話を通して、
作家論や小説論・創作論が語られ、読みどころになっています。
●私の年間ベスト3・2021年〈フィクション系〉ベスト1――
今年のベスト1は、海外ミステリのオールド・ファン――
特に『ミステリマガジン』のオールド・ファンは必読――
の「思い出がいっぱい」詰まった作品集であり、長編評論である
『短編ミステリの二百年』を挙げましょう。
各巻の前半の各短編も新訳で紹介されています。
後半の小森収さんの「解説」も、ご自身の過去の読書歴とともに
紹介されているところが、
リアルタイムで当時を経験して知っている人には、共感できる部分も多く、
楽しいミステリ談になっていて、懐かしくも嬉しいところがあります。
☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡
(1)小森収編『短編ミステリの二百年』2~5巻
創元推理文庫2020,2021
★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡
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★創刊300号への道のり(11) 2018(平成30)年(11年目)
215.
2018(平成30)年1月15日号(No.215)-180115-
「私の読書論101-私の年間ベスト2017(前編)リアル系」
~ 人生は実に旅である ~
『人生論ノート』三木清 新潮文庫 改版 1978/9
216.
2018(平成30)年1月31日号(No.216)-180131-
「私の読書論102-私の年間ベスト2017(後編)フィクション系」
~ 身分(階級)違いの恋愛と結婚 ~
『高慢と偏見(上下)』オースティン 小尾芙佐訳 光文社古典新訳文庫
217.
2018(平成30)年2月15日号(No.217)-180215-
「私の読書論103-産経新聞・朝刊コラム【明治の50冊】」
218.
2018(平成30)年2月28日号(No.218)「古代中国編―
中国の古代思想を読んでみよう(19) 『老子』後編」
219.
2018(平成30)年3月15日号(No.219)
「私の読書論104-大学生の読書時間0分のニュースについて」
220.
2018(平成30)年3月31日号(No.220)「古代中国編―
中国の古代思想を読んでみよう(20) 『荘子』前編」
221.
2018(平成30)年4月15日号(No.221)
「私の読書論105-私をつくった本・かえた本(4) 中3三学期編」
222.
2018(平成30)年4月30日号(No.222)「古代中国編―
中国の古代思想を読んでみよう(21)『荘子』後編」
223.
2018(平成30)年5月15日号(No.223)
「私の読書論106-私をつくった本・かえた本(5)
高校時代前半・冒険探検編」
224.
2018(平成30)年5月31日号(No.224)「古代中国編―
中国の古代思想を読んでみよう(22)『列子』前編」
225.
2018(平成30)年6月15日号(No.225)
「私の読書論107-私をつくった本・かえた本(6)
高校時代後半・ミステリマガジン編」
226.
2018(平成30)年6月30日号(No.226)「古代中国編―
中国の古代思想を読んでみよう(23)『列子』後編」
227.
2018(平成30)年7月15日号(No.227)
「私の読書論108-〈私の読書論〉ベスト集の試み」
228.
2018(平成30)年7月31日号(No.228)
「新潮社・角川書店・集英社―3社<夏の文庫>フェア2018から
川端康成『雪国』(新潮文庫)『山の音』(角川文庫)」
229.
2018(平成30)年8月15日号(No.229)
「私の読書論109-本好きと読書好き ~ものとしての本が好き~」
230.
2018(平成30)年8月31日号(No.230)「古代中国編―
中国の古代思想を読んでみよう(24)『列子』から 楊朱編」
231.
2018(平成30)年9月15日号(No.231)
「私の読書論110-紙の本と電子書籍について ふたたび」
232.
2018(平成30)年9月30日号(No.232)「古代中国編―
中国の古代思想を読んでみよう(25)『墨子』前編 兼愛・非攻」
233.
2018(平成30)年10月15日号(No.233)
「私の読書論111-古本市と古本のこと~四天王寺大古本祭から~」
234.
2018(平成30)年10月31日号(No.234)「古代中国編―
中国の古代思想を読んでみよう(26)『墨子』後編 墨守・墨経」
235.
2018(平成30)年11月15日号(No.235)
「私の読書論112-書物の多さ~『墨子』から~」
236.
2018(平成30)年11月30日号(No.236)
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(8)
『昔なつかしいクリスマス』ワシントン・アーヴィング」
237.
2018(平成30)年12月15日号(No.237)
「私の読書論113-言葉のちからの鍛え方」
238.
2018(平成30)年12月31日号(No.238)-181231-
「私の読書論114-私の年間ベスト2018(前編)リアル系」
- 好きじゃないけど、やっぱり凄い! -
『ツァラトゥストラ(上下)』ニーチェ 丘沢静也訳
光文社古典新訳文庫 2010.11、2011.1
・・・
この年の月末「古典紹介編」は、引き続き古代中国の思想・哲学編で、
諸子百家を読みし進めています。
なかでも『墨子』の「兼愛・非攻」の考えには惹かれました。
月半ばの発行号の「私の読書論」では、
「私をつくった本・かえた本」について高校時代まで書いています。
そこからのちのお話は、またいずれ書いてみたいものです。
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本誌では、「私の読書論153-私の年間ベスト3・2021年フィクション系(後編)」をお届けしています。
今回も、全編公開しました。
今回は「後編」で、「ベスト3」から(その2)(その3)を、および「ベスト1」を紹介しています。
・・・
〔梶尾真治さんの作品について〕
「ベスト3」の(その2)に選んだ『クロノス・ジョウンターの伝説』の作家・梶尾真治さんの他の作品について書いておこうと思います。
一番好きな作品はやはり<エマノン>シリーズですね。
最初の一冊『おもいでエマノン』収録の表題作でシリーズ第一作の「おもいでエマノン」は衝撃的でした。
地球に生命が誕生してからの30億年の記憶を持つという謎の少女エマノンがにまつわる様々なお話です。
基本短編で始まった作品群ですが、日本に来る前の新聞記者時代のラフカディオ・ハーン、画家のゴーギャンが登場する『うたかたエマノン』という長編もあります。
図書館で新作を見つけるとポツポツと借りて読んでいます。
私が今持っているのは、ずっと昔に古本屋さんで見つけた、徳間デュアル文庫版の『おもいでエマノン』『かりそめエマノン』のニ冊だけです。
他には、本文でも紹介している、デビュー作「美亜へ贈る真珠」他、時間&恋愛SFの原点たる八篇を収録した新版の『美亜へ贈る真珠 〔新版〕』ですね。
デビュー作はやはりまだ硬い感じがしますが、結構が『クロノス・ジョウンターの伝説』の第一作につながるような作品です。
他の作品に目を移しますと、長編では『サラマンダー殲滅』(日本SF大賞)、映画化された『黄泉がえり』があります。
短編も面白いですが、これらの長編もなかなかです。
*<エマノン>シリーズ
『おもいでエマノン』梶尾 真治 徳間文庫〈新装版〉 2013/12/6
『うたかたエマノン』梶尾 真治 徳間文庫 2016/11/2
短編で言いますと、弊誌
2017(平成29)年11月30日号(No.212)-171130-
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(7)
「クリスマス・プレゼント」梶尾真治」
クリスマス・ストーリーをあなたに~(7)
「クリスマス・プレゼント」梶尾真治
―第212号「レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
で紹介しました一編を含むショートショート集のような、
ユーモアSFの短篇集もあります。
*「クリスマス・プレゼント」収録
『有機戦士バイオム』梶尾真治 ハヤカワ文庫JA 1989.10
・・・
では、弊誌を面白いと思われた方は、購読のお申し込みを!
*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』
『レフティやすおのお茶でっせ』
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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載
私の読書論153-私の年間ベスト3・2021年フィクション系(後)-楽しい読書311号
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2022(令和4)年1月31日号(No.311)「私の読書論153-
私の年間ベスト3・2021年フィクション系(後編)」
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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2022(令和4)年1月31日号(No.311)「私の読書論153-
私の年間ベスト3・2021年フィクション系(後編)」
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年末年始恒例の「私の年間ベスト3」――
昨2021年に私が読んだ本のなかから
オススメの「私の年間ベスト3」を選ぶという企画です。
今回は、フィクション系の後編です。
前回の全編では、フィクションへの候補作品と
「ベスト3」から(その1)を紹介しました。
2022(令和4)年1月15日号(No.310)「私の読書論152-
私の年間ベスト3・2021年フィクション系(前編)」
2022.1.15
私の読書論152-私の年間ベスト3・2021年フィクション系(前)
-楽しい読書310号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2022/01/post-96e3b9.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/c5c432318b110b539f37ca56d5cb67c8
●私の年間ベスト3・2021フィクション系(その1)
~ 私の年間ベスト3・2021フィクション系 ~
(その1)小森収編『短編ミステリの二百年』2~5巻
創元推理文庫2020,2021
今回は残りの二つの紹介です。
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- 時を超え、異界を超えて、人の思いは続く -
~ 私の年間ベスト3・2021フィクション系(後編) ~
(その2)梶尾真治『クロノス・ジョウンターの伝説』
ソノラマ文庫 2003
(その3)蒲松齢『聊斎志異』光文社古典新訳文庫 2021
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●私の年間ベスト3・2021フィクション系(後編)
~ 私の年間ベスト3・2021フィクション系 ~
(その2)梶尾真治『クロノス・ジョウンターの伝説』
ソノラマ文庫 2003/6/1
(その3)蒲松齢『聊斎志異』黒田真美子/訳
光文社古典新訳文庫 2021/2/9
●(その2)梶尾真治『クロノス・ジョウンターの伝説』
(2)は、前回の全作紹介の時に書きましたように、
デビュー作以来、時間恋愛SFの名手、梶尾真治の同系列の作品で、
<クロノス・ジョウンター>というタイムマシンでの冒険譚4話収録。
時間の壁を超える冒険の成否が、よく考えられた展開で進行する、
恋愛青春物語が感動的です。
古本屋さんで見つけた、今は亡き「ソノラマ文庫」の一冊。
「吹原和彦の軌跡」
――最初のお話。通勤の途上の花屋でやっとこ見つけた恋人候補の女性。
しかしある朝、目撃した事故に巻き込まれて死んでしまう。
主人公の男性の勤め先では、過去に物質を移動させる装置
<クロノス・ジョウンター>を開発中。
ただし問題があり、一旦過去に戻れるものの
その“反動”で未来に飛ばされてしまうのです。
彼女を助けるために彼は極秘にこれを使用します。
しかし、彼女を説得できず、助けることができません。
それからも何度も試みるのですが、その度に失敗し、
次第次第に遠未来へと飛ばされ続けます。
そして56年後の4度目、遂に助けることができるのですが……。
最初の一編らしく、最も切ない恋物語でしょうか。
《「一人じゃ逃げられない。私、和彦さんを信じる。
和彦さんを待ってる。私を救ってくれる和彦さんを」》p.100
《四千年後の世界に跳ばされることになっても、
彼はあえて立ち向かうのだ。
愛するもののために、信じるもののために。》p.105
「布川輝良の軌跡」
――第二話。写真でしか知らない建築家の建物に強い憧憬を抱く彼は、
<クロノス・ジョウンター>の実験に志願する。
壊される前に憧れの建築家の最後の建築物を目にするために。
そこで出会ったのは憧れの建築物と一人の女性だった……。
《クロノス・ジョウンターを使ったといっても、
これは奇跡だと思った。輝良は圭の笑顔を見て、愛のためには、
まだ起こりうる奇跡が存在するのだと確信した。/
「愛する人のためには、どんな無茶なこともできるって、
わかったわ。ごめんなさい。驚いた?(略)」》p.217
「<外伝>朋恵の夢想時間」
――<クロノス・ジョウンター>とは異なる
「心」だけが過去に戻れる機械
<C・C>(クロノス・コンディショナー)での冒険。
「鈴谷樹里の軌跡」
――少女時代好きだったヒー兄ちゃんを不治の病から救うため、
未来から薬を持って過去に飛ぶ。
一番ヒロイックでハッピーエンドなお話。
映画『この胸いっぱいの愛を』(2005年10月)の原作。
《奇跡とは、愛し合う者たちのまわりへ集まってくる……。
樹里は比呂志の腕の中で、
そんな真理があるのではないかと考えていた。
それを司るのは……時の神(クロノス)。》
現在は、これらソノラマ文庫版の4篇に、のちに書かれた3編を追加し、
全7編のシリーズ中・短篇を収録した決定版が徳間文庫から出ています。
『クロノス・ジョウンターの伝説』梶尾真治 徳間文庫 2015/2/6
・・・
デビュー作「美亜へ贈る真珠」他、
時間&恋愛SFの原点たる八篇を収録した新版の
『美亜へ贈る真珠 〔新版〕』 ハヤカワ文庫JA 2016/12/20
●(その3)蒲松齢『聊斎志異』
(3)は、中国の清代に書かれた怪異譚集。
短いストーリーの中に、人間の様々な感情などが、
怪異譚の中に散りばめられていて、読みどころがいっぱいです。
子供の頃に『雨月物語』のお子様版を読んで以来、
元々こういう怪異譚の類いを好む私です。
前回も書きましたように、
高校生時代に柴田天馬訳の角川文庫版を読んでいたように、
この作品集にはなじみがあります。
・・・
『聊斎志異』蒲松齢/著 黒田真美子/訳 光文社古典新訳文庫 2021/2/9
訳者が選び出し、〈怪〉〈妖〉〈恋〉〈夢〉〈仙〉〈幽〉の6部に
分類した43編収録の選集。
著者・蒲松齢は、かつては神童といわれながら、
役人登用試験である科挙に落第し続けたという。
そのコンプレックスから生み出された、
古来の民間伝承などを元にした
人間と異界・異能のものとの交わりを描いた物語。
巻頭の「聊斎自誌」に「好きこそ物が集まる」と書いていますように、
自分で集めるだけでなく、
同好の士から知らされたお話などを収めています。
《時には杯に酒を浮かべて筆を取り、
ようやくこの「孤憤」の書を書き上げたのである。
かようにわが胸の内を本書に託したが、あわれなことこの上ない。》
「聊斎自誌」p.14
・・・
〈怪〉の巻
――「瞳人語」「画壁」「偸桃」「野狗」「夜叉国」「小猟犬」「酒虫」
「周克昌」「阿英」「促織」
〈妖〉の巻
――「王成」「画皮」「嬰寧」「双灯」「醜狐」「阿繊」「黄英」
〈恋〉の巻
――「連城」「封三娘」「緑衣女」「瑞雲」「白秋練」「香玉」
〈夢〉の巻
――「鳳陽士人」「続黄粱」「蓮花公主」「江城」「夢狼」「竹青」
〈仙〉の巻
――「労山道士」「西湖主」「蕙芳」「青娥」「雲蘿公主」「丐仙」
〈幽〉の巻
――「王六郎」「陸判」「聶小倩」「連瑣」「李司鑑」「伍秋月」
「小謝」「席方平」
各篇の多くに末尾、著者の教訓のようなものが書かれており、
そこがまた興味深いものです。
この選集のなかでは、「〈幽〉の巻」の諸編が私の好みでしょうか。
●ベスト3以外の本
司馬遼太郎『項羽と劉邦(上中下)』は、没後も人気の歴史小説家の
秦帝国崩壊後、漢帝国のできるまでを描いた、
古代中国を舞台にしためずらしい一編。
戦略とか戦術とか、天下を取る人の資格なり人間的な魅力などが
リーダー論として、ストーリーの中に説かれています。
ギヨーム・ミュッソ『作家の秘められた人生』は、
別荘地の小島で起きた殺人事件と過去の事件の物語。
登場人物の作家志望の青年と筆を折った人気作家の対話を通して、
作家論や小説論・創作論が語られ、読みどころになっています。
●私の年間ベスト3・2021年〈フィクション系〉ベスト1――
今年のベスト1は、海外ミステリのオールド・ファン――
特に『ミステリマガジン』のオールド・ファンは必読――
の「思い出がいっぱい」詰まった作品集であり、長編評論である
『短編ミステリの二百年』を挙げましょう。
各巻の前半の各短編も新訳で紹介されています。
後半の小森収さんの「解説」も、ご自身の過去の読書歴とともに
紹介されているところが、
リアルタイムで当時を経験して知っている人には、共感できる部分も多く、
楽しいミステリ談になっていて、懐かしくも嬉しいところがあります。
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(1)小森収編『短編ミステリの二百年』2~5巻
創元推理文庫2020,2021
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★創刊300号への道のり(11) 2018(平成30)年(11年目)
215.
2018(平成30)年1月15日号(No.215)-180115-
「私の読書論101-私の年間ベスト2017(前編)リアル系」
~ 人生は実に旅である ~
『人生論ノート』三木清 新潮文庫 改版 1978/9
216.
2018(平成30)年1月31日号(No.216)-180131-
「私の読書論102-私の年間ベスト2017(後編)フィクション系」
~ 身分(階級)違いの恋愛と結婚 ~
『高慢と偏見(上下)』オースティン 小尾芙佐訳 光文社古典新訳文庫
217.
2018(平成30)年2月15日号(No.217)-180215-
「私の読書論103-産経新聞・朝刊コラム【明治の50冊】」
218.
2018(平成30)年2月28日号(No.218)「古代中国編―
中国の古代思想を読んでみよう(19) 『老子』後編」
219.
2018(平成30)年3月15日号(No.219)
「私の読書論104-大学生の読書時間0分のニュースについて」
220.
2018(平成30)年3月31日号(No.220)「古代中国編―
中国の古代思想を読んでみよう(20) 『荘子』前編」
221.
2018(平成30)年4月15日号(No.221)
「私の読書論105-私をつくった本・かえた本(4) 中3三学期編」
222.
2018(平成30)年4月30日号(No.222)「古代中国編―
中国の古代思想を読んでみよう(21)『荘子』後編」
223.
2018(平成30)年5月15日号(No.223)
「私の読書論106-私をつくった本・かえた本(5)
高校時代前半・冒険探検編」
224.
2018(平成30)年5月31日号(No.224)「古代中国編―
中国の古代思想を読んでみよう(22)『列子』前編」
225.
2018(平成30)年6月15日号(No.225)
「私の読書論107-私をつくった本・かえた本(6)
高校時代後半・ミステリマガジン編」
226.
2018(平成30)年6月30日号(No.226)「古代中国編―
中国の古代思想を読んでみよう(23)『列子』後編」
227.
2018(平成30)年7月15日号(No.227)
「私の読書論108-〈私の読書論〉ベスト集の試み」
228.
2018(平成30)年7月31日号(No.228)
「新潮社・角川書店・集英社―3社<夏の文庫>フェア2018から
川端康成『雪国』(新潮文庫)『山の音』(角川文庫)」
229.
2018(平成30)年8月15日号(No.229)
「私の読書論109-本好きと読書好き ~ものとしての本が好き~」
230.
2018(平成30)年8月31日号(No.230)「古代中国編―
中国の古代思想を読んでみよう(24)『列子』から 楊朱編」
231.
2018(平成30)年9月15日号(No.231)
「私の読書論110-紙の本と電子書籍について ふたたび」
232.
2018(平成30)年9月30日号(No.232)「古代中国編―
中国の古代思想を読んでみよう(25)『墨子』前編 兼愛・非攻」
233.
2018(平成30)年10月15日号(No.233)
「私の読書論111-古本市と古本のこと~四天王寺大古本祭から~」
234.
2018(平成30)年10月31日号(No.234)「古代中国編―
中国の古代思想を読んでみよう(26)『墨子』後編 墨守・墨経」
235.
2018(平成30)年11月15日号(No.235)
「私の読書論112-書物の多さ~『墨子』から~」
236.
2018(平成30)年11月30日号(No.236)
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(8)
『昔なつかしいクリスマス』ワシントン・アーヴィング」
237.
2018(平成30)年12月15日号(No.237)
「私の読書論113-言葉のちからの鍛え方」
238.
2018(平成30)年12月31日号(No.238)-181231-
「私の読書論114-私の年間ベスト2018(前編)リアル系」
- 好きじゃないけど、やっぱり凄い! -
『ツァラトゥストラ(上下)』ニーチェ 丘沢静也訳
光文社古典新訳文庫 2010.11、2011.1
・・・
この年の月末「古典紹介編」は、引き続き古代中国の思想・哲学編で、
諸子百家を読みし進めています。
なかでも『墨子』の「兼愛・非攻」の考えには惹かれました。
月半ばの発行号の「私の読書論」では、
「私をつくった本・かえた本」について高校時代まで書いています。
そこからのちのお話は、またいずれ書いてみたいものです。
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本誌では、「私の読書論153-私の年間ベスト3・2021年フィクション系(後編)」をお届けしています。
今回も、全編公開しました。
今回は「後編」で、「ベスト3」から(その2)(その3)を、および「ベスト1」を紹介しています。
・・・
〔梶尾真治さんの作品について〕
「ベスト3」の(その2)に選んだ『クロノス・ジョウンターの伝説』の作家・梶尾真治さんの他の作品について書いておこうと思います。
一番好きな作品はやはり<エマノン>シリーズですね。
最初の一冊『おもいでエマノン』収録の表題作でシリーズ第一作の「おもいでエマノン」は衝撃的でした。
地球に生命が誕生してからの30億年の記憶を持つという謎の少女エマノンがにまつわる様々なお話です。
基本短編で始まった作品群ですが、日本に来る前の新聞記者時代のラフカディオ・ハーン、画家のゴーギャンが登場する『うたかたエマノン』という長編もあります。
図書館で新作を見つけるとポツポツと借りて読んでいます。
私が今持っているのは、ずっと昔に古本屋さんで見つけた、徳間デュアル文庫版の『おもいでエマノン』『かりそめエマノン』のニ冊だけです。
他には、本文でも紹介している、デビュー作「美亜へ贈る真珠」他、時間&恋愛SFの原点たる八篇を収録した新版の『美亜へ贈る真珠 〔新版〕』ですね。
デビュー作はやはりまだ硬い感じがしますが、結構が『クロノス・ジョウンターの伝説』の第一作につながるような作品です。
他の作品に目を移しますと、長編では『サラマンダー殲滅』(日本SF大賞)、映画化された『黄泉がえり』があります。
短編も面白いですが、これらの長編もなかなかです。
*<エマノン>シリーズ
『おもいでエマノン』梶尾 真治 徳間文庫〈新装版〉 2013/12/6
『うたかたエマノン』梶尾 真治 徳間文庫 2016/11/2
短編で言いますと、弊誌
2017(平成29)年11月30日号(No.212)-171130-
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(7)
「クリスマス・プレゼント」梶尾真治」
クリスマス・ストーリーをあなたに~(7)
「クリスマス・プレゼント」梶尾真治
―第212号「レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
で紹介しました一編を含むショートショート集のような、
ユーモアSFの短篇集もあります。
*「クリスマス・プレゼント」収録
『有機戦士バイオム』梶尾真治 ハヤカワ文庫JA 1989.10
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『レフティやすおのお茶でっせ』
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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載
私の読書論153-私の年間ベスト3・2021年フィクション系(後)-楽しい読書311号
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