(はじめに)
日弁連の会誌「自由と正義」には、懲戒処分の公告が掲載されます。
弁護士の懲戒処分には、戒告、業務停止、退会命令、除名の4つがあります(弁護士法57条1項)。
2021年8月号掲載分の懲戒処分の公告の中から、気になったものを紹介します。
(除名となったケース)
8月号では、弁護士の懲戒処分の中で最も重い除名となったケースがありました。
経営コンサルタント会社と協力して、弁護士資格のない事務員らに債務整理業務を行わせたことが理由とされています。
これは、いわゆる非弁提携という類型にあたるものです。
弁護士は、非弁護士から事件の周旋を受けたり、自分の名義を利用させてはならないと弁護士法で規定されています。
弁護士という資格のない者が、法律事務を取り扱ってはならないことを規定しているのです。
非弁と提携して、弁護士業務を行わせることは、弁護士資格という制度自体の自殺行為のようなものです。
非弁提携は、刑事の罰則もありますので、懲戒処分でも一番重くとなるのもうなづけます。
(長期の業務停止となったケース)
弁護士が成年後見人や保佐人として、他人の財産を管理していたのに、そこから合計4100万円を業務上横領したという事案です。
横領した金額は全額返済されていることが考慮されて、業務停止1年10ヶ月の処分となっています。
業務停止期間は、2年が上限ですので、この上限に近い処分です。
(弁護士の質の低下は昭和初期にも)
このほか8月号では、多数の懲戒の公告が掲載されておりました。
現代の弁護士の質の低下は、度し難いものがあります。
このような弁護士の質の低下は現代だけの現象ではありません。
大正の終わりから昭和の初期にかけての経済不況に伴い、弁護士の経済的基盤にも大きな影響がでました。
このときにも非弁の問題や弁護士の質の低下が問題とされていました(大野正男「職業史としての弁護士および弁護士会の歴史」)。
この問題はいかに解決されたかを論じたものはみたことがありません。
弁護士の職務範囲が訴訟を中心とした裁判業務に限られており、経済的不況と戦時統制経済の影響により一層弁護士の窮乏化をもたらした。弁護士会は、個々の弁護士の窮乏化に対して無力であり、弁護士団体として有効な方法をとることができなかった(大野前掲論文)という総括にとどまっています。
戦後の弁護士法の改正により、弁護士が自治を勝ち取った指摘されているのですが、弁護士の経済的基盤がどのように回復されたのかについては検討されていません。現在の問題を解決するためにも、歴史に学ぶ必要があるかなと思っています。
追記 弁護士の困窮が非行に繋がった昭和初期については、2017年の過去記事でも書いていますので、ご興味のある方はご参照ください。