ヴァブラームス:ヴァイオリンソナタ第1番「雨の歌」
ヴァイオリンソナタ第3番
ヴァイオリン:堀米ゆず子
ピアノ:ジャン=クロード・ヴァンデン・エインデン
録音:1980年11月14日~15日
LP:ポリドール SE 8108
通常、LPレコードというと演奏家については、欧米人の名が直ぐに思い浮かぶが、一方で、日本人の演奏家も数多くの貴重な録音を我々リスナーに遺して置いてくれている。その中の1枚が、今回の堀米ゆず子(1957年生まれ)が弾く、ブラームスのヴァイオリンソナタ第1番と第3番を収めたLPレコードである。現在、国際的に活発な演奏活動を展開している堀米ゆず子は、今から36年前の1980年(昭和55年)、ベルギーのブリュッセルで行われた”世界三大音楽コンクール”の一つ、「エリザベート王妃国際音楽コンクール」に参加し、見事第1位の栄冠を勝ち取った。このLPレコードはその直後に録音されたものであり、当時の堀米ゆず子の演奏スタイルを伝える貴重なものだ。演奏内容は、実に瑞々しさ溢れており、若々しくも伸びやかなヴァイオリンの音色は、従来のブラームスのヴァイオリンソナタの演奏の歴史に新風を吹き込んだような印象を受ける。第1番は力強く、しかも瞑想的な優れた演奏だが、第3番の陰影を持った演奏内容についも聴いていて感動を受ける。堀米は、「エリザベート王妃国際音楽コンクール」に出場する前は、一切海外の経験がなかったそうで、当時の日本のクラシック音楽界の教育レベルの高さには驚かされる。「エリザベート王妃国際音楽コンクール」では、第一次予選の時から堀米ゆず子は、大いに注目を集め、ベルギーの新聞に「ここに希有の天才が現れた」と書かれたほどであったという。本選では、シベリウスのヴァイオリン協奏曲とコンクールのために作曲された新曲であるフデリック・ヴァン・ロッスムのヴァイオリン協奏曲、それにブラームスのヴァイオリンソナタ第1番を堀米ゆず子は弾き、その結果、優勝を勝ち取ったののである。この時、ベルギーの新聞は「ブラームスのソナタヴァイオリンソナタ第1番は、いわば地味であり、内的なきびしさを伴っているが、彼女の力強い音色は、ブラームスの音楽にもよく適合している。第2楽章は誠実な表現で、それが感動的、瞑想的で、まれにみる精神の集中力によって敬虔な思いに耽るようである。終楽章も素晴らしく、旋律のすべての起伏を注意深く表現し、それを彼女の鋭い感受性で内面化している。会場の人々は完全に沈黙し、息をのんで聴き惚れていた」と絶賛した。日本人として初めて「エリザベート王妃国際コンクール」で優勝後、堀米ゆず子は、ベルギーを拠点として国際的な活動を行っている。現在は、ブリュッセル王立音楽院客員教授を務め、後進の指導にも当たっている。(LPC)