モーツァルト:幻想曲 ハ短調 KV475
ロンド ニ長調 KV485
幻想曲 ニ短調 KV397
ロンド イ短調 KV511
ピアノ:マリア・ジョアオ・ピリス
録音:1974年1月11日~2月28日 東京イイノホール
発売:1978年9月
LP:日本コロムビア OX‐7132‐ND
マリア・ジョアオ・ピリス(マリア・ジョアン・ピレシュ、1944年生まれ)の弾くモーツァルトは、モーツァルトの音楽の真髄を、ありのままの姿で我々リスナーに送り届けてくれる、誠にもって貴重な存在のピアニストであった。2017年12月に、73歳にて現役の舞台からは退くこととし、以降は後進の育成に努める旨を表明した。モーツァルトの音楽、とりわけピアノソナタや今回のLPレコードに収録されている幻想曲、ロンドなどは、ピアニストの恣意的な解釈で演奏されたのでは、とてもではないが聴く気にはなれない。かといって楽譜通りに素直に弾けばそれで済むというわけでもない。現在のピアノは音量が大きいし、表現力も一昔前に比べれば大幅に進歩している。そんな現代のピアノを使ってモーツァルトの時代の音楽を再現するのは、ある意味では至難の業だ。それをピリスはいとも軽々とこなす。ピリスは、ポルトガル・リスボン出身の女性ピアニスト。1953年から1960年までリスボン大学で作曲・音楽理論・音楽史を学ぶ。その後、西ドイツに留学。1970年、ブリュッセルで開かれた「ベートーヴェン生誕200周年記念コンクール」で優勝を果たす。そして今回のLPレコードを含めて、1970年代にDENON(日本コロムビア)と契約してモーツァルトのソナタ全集を録音した。1986年ロンドン・デビューに続き、1989年ニューヨーク・デビューを果たし、世界的な名声を得ることになる。室内楽分野でも、1989年よりフランス人ヴァイオリニストのオーギュスタン・デュメイ(2011年に関西フィルの音楽監督に就任)と組んで演奏や録音を続けた。さらに1998年には、チェリストのジャン・ワンを加えたピアノ・トリオとしても活躍。また、モーツァルトのピアノ・ソナタ集の録音により、1990年「国際ディスク・グランプリ大賞」CD部門受賞。ソリストとして欧州や北米、日本、イスラエルで定期的に客演し、主要なオーケストラおよび音楽祭で演奏活動を行う。さらに、ブラジルを拠点に世界各地においてマスタークラスを主宰しているほか、ポルトガルの地方における芸術センターの振興についても取り組んでいる。このLPレコードは、ピリスが30歳の時に東京イイノホールで録音しものである。直線が一本ピーンと張ったような芯の強い演奏内容だ。透明感に溢れ、そして憂いを含んだ佇まいは、ピリス以外のピアニストには到底表現できないだろうとさえ感じられる。聴き終わった後に幸福感に浸れる1枚だ。(LPC)