ショパン:夜想曲第1番~第10番
ピアノ:サンソン・フランソワ
LP:東芝EMI EAC‐70034
フランスの名ピアニストであったサンソン・フランソワ(1924年―1970年)は、両親はフランス人ではあるが、生まれはドイツ。そのフランソワが録音したショパンの夜想曲全集から、第1番―第10番を収録したのが今回のLPレコード。サンソン・フランソワは、アルフレッド・コルトーに見い出されて1936年にエコールノルマル音楽院に入学。その後、1938年にパリ音楽院に入学し、マルグリット・ロン、イヴォンヌ・ルフェビュールに師事。フランソワは、ロンの最後の生徒の一人で、1940年に同音楽院を首席で卒業した。1943年に第1回「ロン=ティボー国際コンクール」で優勝し、一躍その名が世界に知れ渡る。心臓発作のため急逝した時は、まだ46歳という若さだった。しかし、比較的多くの録音を残してくれたお蔭で、現在、我々はその演奏を聴くことができる。ショパンやドビュッシー、ラヴェルの演奏を得意とし、ドイツの作曲家の作品は、ほとんどの演奏しなかった。しかし、例外的にベートーヴェンのピアノソナタの録音を遺している。これを聴いてみるとその名演ぶりには驚かされる。サンソン・フランソワは、1956年、67年、69年と3度来日している。1969年の来日の時、私は上野の東京文化会館でのリサイタルを聴きに行った。もともと私はサンソン・フランソワの大ファンで、当時、ショパンの作品について、フランソワの演奏以外はあまり聴かなかったほど、フランソワに傾倒していた。何故かというとフランソワが弾くショパンは、曲の本質をずばりと表現し、上っ面の表現とは一切関係がない演奏内容であったからである。要するに、フランソワの演奏は、ショパンの心を的確に捉え、その本質をリスナーに向かって存分に聴かせてくれるのだ。ショパンの持つ激情的な要素を演奏させたら、今もってフランソワに立ち向かえるピアニストは、ほとんどいないと私は思っている。ショパンがどんな思いで作曲したのかの謎解きのような問題の解答を、フランソワのピアノ演奏は、的確にリスナー教えてくれるのである。このLPレコードではショパンの抒情の極みである夜想曲を、フランソワの幻想的な名演奏で堪能することができる。しかも、LPレコードの特徴である温かみを持った、深みのある音質で聴くフランソワのショパンには、格別な味わいがある。フランソワの演奏は、現在CDで聴くことができるが、残念ながらCDで聴くフランソワの音質は、どうもいまいち冴えない。それに対し、LPレコードで聴くフランソワの音質は、筆舌に尽くせないほど素晴らしい。(LPC)