チャイコフスキー:「弦楽のためのセレナード」
「フローレンス(フィレンツェ)の思い出」
指揮:ネヴィル・マリナー
管弦楽:アカデミー室内管弦楽団(アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ)
発売:1981年
LP:キングレコード K16C‐9124
今回のLPレコードで指揮をしてるのは、2016年10月2日に92歳で亡くなったネヴィル・マリナー (1924年-2016年)である。マリナーは、英国イングランドのリンカン出身。王立音楽大学に学んだ後、パリ音楽院に留学。フィルハーモニア管弦楽団やロンドン交響楽団でヴァイオリニストを務めた後、米国に渡り、ピエール・モントゥーの音楽学校において指揮法を学んだ。そして1959年にはアカデミー室内管弦楽団 (アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ) を結成して、長年にわたりその指揮者を務めてきた。このほか1969年~1979年ロサンジェルス室内管弦楽団の指揮者を務めたのをはじめ、1979年~1986年ミネソタ管弦楽団の音楽監督、1983年~989年シュトゥットガルト放送交響楽団の音楽監督などを歴任している。長年の指揮者活動により、1985年にはナイトの称号を授与された。1972年アカデミー室内管弦楽団と初来日を果たしたが、以後しばしば日本を訪れているので、マリナーの指揮を直接聴いたリスナーの方も少なからずおられよう。NHK交響楽団をはじめとして、世界の有力なオーケストラを客演指揮し、そして多くの録音も遺している。また、モーツァルトの生涯を描いた映画「アマデウス」では、その音楽を担当し、そのサウンドトラックには、マリナー指揮のアカデミー室内管弦楽団による演奏が用いられるなど、演奏会以外にも幅広く活躍してきた。ネヴィル・マリナーの指揮ぶりは、端正な正統派ともいえるもので、それらは柔らかい造形美に彩られ、限りなく美しい。このLPレコードでもチャイコフスキーの「弦楽のためのセレナード」を、それは、それは上品にサロン的に演奏している。チャイコフスキーの持つロシア的土臭さとは一切関係なく、夢の中にいるような幻想的な世界が目の前に展開され、リスナーは一時の安息の時間を過ごすことが出来る。B面に収められた「フローレンス(フィレンツェ)の思い出」は、チャイコフスキーが大好きなイタリア旅行から帰り、作曲した弦楽六重奏曲のための曲。このLPレコードでは、室内管弦楽向けとして演奏されているが、なかなか奥行きのある演奏となっており、弦楽六重奏よりも一層聴き応えがあるような感じがする。ここでのネヴィル・マリナーとアカデミー室内管弦楽団の演奏は、基本的には「弦楽のためのセレナード」と変わりはないが、「フローレンス(フィレンツェ)の思い出」の方がより一層陰影感が明確に演奏されており、より印象の強い演奏となったようだ。(LPC)