モーツァルト:ピアノ協奏曲第25番
:レシタティーヴォ「どおしてあなたを忘れましょう」と
アリア「恐れずに、いとしいあなた」(歌劇「イドメネオ」から)K.505
ピアノ:アルフレッド・ブレンデル
ソプラノ:ジェッシー・ノーマン
指揮:ネヴィル・マリナー
管弦楽:アカデミー室内管弦楽団
録音:1978年1月27日、仏ストラスブール(ライヴ録音)
発売:1979年
LP:日本フォノグラフ(PHILIPS) X‐7931(9500 538)
1978年1月27日と28日の両日、モーツァルトの生誕222年を記念するコンサートがフランスのストラスブールで、国際音楽家互助財団(FIEM)の主催で行われた。これは、このときのライヴ録音をLPレコード化したものである。FIEMは、ヴァイオリニストのユーディ・メニューイン(1916年―1999年)を会長とし、若手演奏家の育成、音楽の国際交流、さらに伝統芸術の保護などを掲げた、ユネスコ傘下の財団であった。当時、資金源獲得のためFIEMは、しばしばコンサートを開催していたが、今回は、ピアノのアルフレッド・ブレンデル(1931年生まれ)、ソプラノのジェッシー・ノーマン(1945年―2019年)、指揮のネヴィル・マリナー(1924年―1916年)が馳せ参じて開催されたもの。その出来栄えはというと、このLPレコードの解説の大木正純氏が「歴史に残る名ライヴ盤」と記している通り、その演奏内容が最上の仕上がりを見せており、ライヴ盤独特の緊張感がひしひしと伝わってくる。しかもLPレコードなので、温かみのある音色で臨場感が存分に味わえるのである。このLPレコードでピアノの独奏をしているアルフレッド・ブレンデルは、チェコスロヴァキアの北モラヴィア生まれ。1943年にグラーツに移り、グラーツ音楽院で学ぶ。その後ウィーンへ行き、ウィーン音楽院でも学ぶ。国際的なコンクールの受賞歴はないものの、1960年代以降は、その中庸を行く知的で正統的な演奏で、次第に国際的な名声を得るようになる。ベートーヴェン、シューベルトをはじめとするドイツ・オーストリア系の作曲家の作品を得意としていた。一方では新ウィーン楽派の作品やジャズにも取り組むこともあった。ブレンデルは2008年に現役を引退したが、このLPレコードが録音された当時はまだ47歳の若さで、将来のホープとして大いに嘱望されていた時の演奏である。演奏内容は、繊細さに満ち溢れ、感性豊かな、万人を納得させるにあまりある秀演となっている。一方、ソプラノのジェシー・ノーマンは、アメリカを代表するオペラ歌手。1969年に「ミュンヘンARD国際音楽コンクール」の覇者となり、ベルリン国立歌劇場にてリヒャルト・ワーグナーの「タンホイザー」のエリザベート役により、オペラ歌手としてデビューを果たした。2006年「グラミー賞」、2015年「ウルフ賞」芸術部門を受賞。このLPレコードでのジェシー・ノーマンは、奥深く劇的な要素を多分に含んだ、見事な歌唱力を披露している。この時、ジェシー・ノーマン33歳、絶頂期の歌声がライヴ録音で聴ける貴重な記録だ。(LPC)