チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」
指揮:ジャン・マルティノン
管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
発売:1977年
LP:キングレコード GT 9099
ウィーン・フィルは、どうもチャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」の録音は、昔からあまりしていなかったようだが、今回のLPレコードは、この曲の録音の中でも最も優れたものとして、現在でも光彩を放っている一枚だ。ウィーン・フィルの年間の演奏曲目で、多分、チャイコフスキーの曲が取り上げられる回数は少ないのではないか。どことなくウィーンとチャイコフスキーとは相性がいいとは言えないように思う。チャイコフスキーの曲は、何処かにうら悲しさがあり、ロシアの土着の暗い雰囲気がついて回るのだ。一方、ウィーンと言えばウィンナーワルツを直ぐに連想するように、粋で陽気で貴族的雰囲気を漂わす。だから、チャイコフスキーの曲の指揮には、ムラヴィンスキーなどの雰囲気がぴたりと当て嵌まる。今回のLPレコードの指揮者のジャン・マルティノン(1910年―1975年)は、生粋のフランス人である。パリ音楽院で学び、ヴァイオリン科を1等で卒業し、シャルル・ミュンシュに就いて指揮法を学んだ。第2次世界大戦後、ラムルー管弦楽団常任指揮者、1962年シカゴ交響楽団常任指揮者に就くなど、ミュンシュ亡き後のフランスの名指揮者として世界にその名を轟かした。そんなマルティノンが、ウィーン・フィルを指揮してチャイコフスキーの「悲愴」を演奏するとどうなるのか。その答えはこのLPレコードにある。結論を言うと、これまで聴いたことが無いような、優雅であると同時に、隅々まで目の届いた、限りなくシンフォニックな色彩を帯びた「悲愴」を描き出すことにマルティノン指揮ウィーン・フィルは、ものの見事に成功したのである。それまではチャイコフスキーの「悲愴」が、こんなにも詩的で、色彩感溢れた交響曲であるということに、誰も気づいていなかったのではないかと思う。その意味から、マルティノン&ウィーン・フィルの遺したこのLPレコードは、チャイコフスキーの「悲愴」演奏史上、今後もその輝きを失うことはないであろう。チャイコフスキーは、周りの人々に「この曲は、私の全ての作品の中で最高の出来栄えだ」と語るほどの自信作だったという。1893年10月16日に作曲者自身の指揮によりサンクトペテルブルクで初演された。その9日後、チャイコフスキーはコレラが原因で急死しまう。同年11月18日に行われたチャイコフスキーの追悼演奏会では、作曲家の急逝を悼む聴衆の嗚咽で満たされたそうだ。 (LPC)