★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ワルター・ギーゼキングのシューベルト:即興曲集第1集 第1~4番(op.90)/第2集 第1~4番(op.142)

2022-01-20 09:41:54 | 器楽曲(ピアノ)


シューベルト:即興曲集第1集 第1~4番(op.90)
           第2集 第1~4番(op.142)

ピアノ:ワルター・ギーゼキング

発売:1968年11月

LP:東芝音楽工業 AB‐8067

 ワルター・ギーゼキング(1895年―1956年)は、ドイツが誇る名ピアニストであった。その現役時代は、”新即物主義”ピアニストの旗手として圧倒的な存在感を持ち、その後のピアニストにも大きな影響力を与えた。新即物主義とは、当時の芸術活動全体に広がっていた潮流で、作曲の原点に返り、楽譜の忠実な再現を目指すことに重きを置いた芸術活動のこと。ギーゼキング以前のピアニストの主流は、高度の技巧を駆使したヴィルトオーゾと呼ばれる、いささか古臭いスタイルや、極度のロマン的雰囲気に覆われたスタイルが主流となっていた。そんな中、ギーゼキングは作曲者が楽譜に書いた譜面に忠実に演奏するという当時としては、革新的なピアニストであったのだ。これは、ギーゼキングが驚異的暗譜力を持っていたことにより可能になったとも言われている。シューベルトの即興曲集は、第1集(op.90)の4曲、第2集(op.142)の4曲からなる。第1集は、シューベルトの死の前年である1827年の秋に、第2集は、同年12月に書かれたと見られている。それらは、ピアノ小品というスタイルをとり、三部形式、あるいは変奏曲形式で、平易に演奏できる作品である。シューベルトでしか書けないような、一度聴くと忘れられないほど美しい旋律が印象的な作品に仕上がった。シューベルトは、数多くのピアノソナタを書いているが、ピアノの小品はというと、この即興曲と楽興の時ぐらいで数は少ないが、特に、これらの即興曲においては、叙情性と歌謡性とを兼ね備えた不朽の名曲が生まれた。これは、シューベルトが演奏会用に作曲したというより、個人で演奏を楽しむことを想定して作曲したために、親しみ深い作品に仕上がったということであろう。このLPレコードでのギーゼキングの演奏は、新即物主義のピアニストの旗手として忠実にシューベルトの音楽を再現すると同時に、適度なテンポルバートを加えることによって、シューベルト的なロマンの世界を、より明確にリスナーに提示することに成功している。現在至るまで、このシューベルトの全8曲からなる即興曲集は、多くのピアニストによって録音されてきたが、このギーゼキングの録音は、それらの中においても一際光彩を放つ名盤だ。単に甘く流れるだけでなく、一本の強い支柱によって貫かれているような、力強い演奏と同時に、極限まで掘り下げた結果生まれた、純粋なピアノの音が強くリスナーの耳に響く。この結果、少々音質が古めかしくなってしまったが、現在においても高い評価を得ている録音なのである。(LPC)


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