ブラームス:「アルト・ラプソディー」
ワーグナー:「ヴェーゼンドンクの五つの詩」
天使
とまれ!
温室で
苦悩
夢
マーラー:「五つの歌」
わたしはこの世に忘れられて
真夜中に
うき世の暮らし
ほのかな香り
美しいトランペットの鳴り渡るところ
メゾ・ソプラノ:クリスタ・ルートヴィッヒ
指揮:オットー・クレンペラー
管弦楽:フィルハーモニア管弦楽団
合唱:フィルハーモニア合唱団(ブラームス)
録音:1962年3月21日、23日(ブラームス)
1962年3月22日、23日(ワーグナー)
1962年2月17日、18日(マーラー)
LP:東芝EMI EAC‐40118
ブラームスの通常言われる「アルト・ラプソディー」の正式な名称は「アルトと男声合唱とオーケストラのためのラプソディー」であり、ブラームス36歳の作品。テキストは、ゲーテの詩「冬のハルツの旅」から取った。この詩は全部で11節からなるが、この中からブラームスは第5節~第7節目を用いた。この詩は、全体が厭世観に満ちたものであり、その中でも悲歌とも言える部分を採用したのは、当時、ブラームス自身が失恋から来る、厭世観に打ちのめされていたからとも言われる。そのような曲であり、全体は暗く、陰鬱な気分で覆われている。この曲を歌い、その真価をリスナーに伝えるには、歌手自体に力がないと到底不可能なことになってしまう。この点、クリスタ・ルートヴィッヒ(1928年―2021年)は、メゾ・ソプラノの声の特質を存分に発揮し、深みのある、荒涼とした神経描写を的確に表現しており、見事な仕上がりを見せる。さらに、これを支える指揮者のオットー・クレンペラー(1885年―1973年)の棒捌きが誠に見事であり、曲全体の効果を何倍にも高めている。全体は3つの部分に分けられるが、第3部ではそれまでの陰鬱な気分を払い取るかのような、リスタ・ルートヴィッヒの滑らかで、力強い明るい歌唱力に、暫し聴き惚れてしまう。次のワーグナー:「ヴェーゼンドンクの五つの詩」は、マチルデ・ヴェーゼンドンクの詩を基にした作品で、1857年~58年に作曲された。この曲の第3曲と第5曲に“トリスタンとイゾルデのための習作”と書かれている通り、楽劇「トリスタンとイゾルデ」が書かれた時期と重なる。また、ワーグナーがマチルデ・ヴェーゼンドンク夫人との恋愛に溺れた時期でもあり、精神の異常な高ぶりが、この作品を生んだとも考えられる。そんな甘美な感情をクリスタ・ルートヴィッヒは、静かに、しかも押し殺したような表現で歌い挙げており、ワーグナーの官能的な世界を見事に表現し切っている。ここでもオットー・クレンペラー指揮フィルハーモニア管弦楽団は、抜群の演出効果を挙げている。最後のマーラー:「五つの歌」は、「リュッケルトによる五つの歌」と「子供のふしぎな角笛」からの抜粋された曲。この時期(1902年)には、同じくリュッケルトの詩による歌曲集「亡き子をしのぶ歌」がつくられている。ここでもクリスタ・ルートヴィッヒの歌声は、マーラー独特の甘美で夢幻的な世界へとリスナーを誘ってくれる。(LPC)