~ブレンデル・シューマン・アルバム~
シューマン:幻想曲
交響的練習曲
ピアノ:アルフレッド・ブレンデル
発売:1980年
LP:キングレコード(VANGUARD) SLL 1004
このLPレコードは、もう引退してしまったが、現役時代は名ピアニストの名をほしいままにしていた、チェコ出身のアルフレッド・ブレンデル(1931年生まれ)のシューマンの2曲のピアノ独奏曲を録音したものである。シューマンのピアノ独奏曲は、これまで数多くのピアニストが録音してきているが、真にシューマンの精神を表現し得た録音は意外と多くないことに気づく。それは、シューマン独特のもやがかかったようなロマンの雰囲気に加えて、一方では評論家精神に満ちたような客観性の発露が曲の奥底に隠され、この相反する2つの精神構造が一つに合わせられた時だけ、豊かなシューマンの世界が馥郁と香り出すということに他ならないからだ。ここでのアルフレッド・ブレンデルの演奏は、この難しい課題をいとも簡単にも実現させており、同時に奥深さも併せ持った、一つのシューマン像を鮮やかに描き切っていて、見事というほかない演奏に仕上げている。これほどシューマンに共感を持った演奏は、そう滅多に聴けない。ブレンデルのピアノ演奏は、中庸を得たもので、伸び伸びとして極めて健康的で、音色そのものに陰りがない。それでいてシューマン独特のロマンの世界を思う存分リスナーの前に繰り広げてくれる。幻想曲は、1836年―1838年の間に作曲された、シューマンのピアノ独奏曲の中でも傑作としてしられた曲。この曲は、ベートーヴェン没後10周年を記念して建てられることになった記念碑の建設資金のために、当初はソナタとして作曲されたという。一方、交響的練習曲は、1834年に作曲された。練習曲と変奏曲とを結び付けたような曲で、これもシューマンを代表するピアノ独奏曲として、今なお多くの人から愛されている曲。アルフレッド・ブレンデルは、チェコの北モラヴィア地方のヴィーゼンベルクの生まれ。1943年にオーストリアのグラーツに移り、グラーツ音楽院で学ぶ。1947年に音楽教員の資格を取得するためにウィーンへ行き、ウィーン音楽院で学ぶ。1970年にフィリップスと専属契約を結び、リリースしたレコードでその名声を決定づける。レパートリーは、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、シューマンなど、ドイツ・オーストリア系の作品を得意とし、中でもベートーヴェンとシューベルトのピアノソナタ全集を3回にわたって録音しているほど。2008年12月のコンサートをもって引退を表明。(LPC)