本の装丁は洛陽堂時代と変わらず。帆足は宗教(博士論文はキリスト教神学)学者としていまではすっかり忘れられた存在だが、大正14年にはモダンな新居を建築し婦人雑誌の取材を受けたり、よく大正15年には2人の娘がアサヒグラフ 1926年11月3日号の表紙のモデルとして起用されたりし、大正~昭和初年における時の人だった。
「帆足理一郎は明治14年11月5日,福岡県二日市に生れた。同地で中学校を終えたのち,明治35年にアメリカヘ渡った。ハイスクールを現地で卒業後,南カリフォルニア大学に進み,主として英文学を学び,明治45年に同大学を卒業した。のちさらにシカゴ大学の大学院,ディヴィニティ・スクール組織神学科に進んだ。その後の研鑽を経て,大正6年に前掲の論文(The Problem of Omnipotence in Current Theology,1918.A Dissertation
submitted to the Faculty of the Graduate School of Arts and Literature in Candidacy for the Degree of Doctor of Philosophy,Department of Systematic Theo1ogy in the Graduate Divinity School)を提出し,Ph.D.を獲得した。この論文は優れた内容のものであったので,その後同大学のテキストの一つとして用いられたといわれる。帆足はアメリカでの学業を終え,大正7年に帰国した。ちょうどその時,早稲田大学で宗教学を講じていた石原謙が海外留学におもむくことになったので,帆足には同志社大学への話もあったが,早稲田大学で石原の後任をつとめることになった。帆足はすでに大正5年ころから洛陽堂を通じて薯書を公にし始め,帰国後は毎年数冊を刊行するほど驚異的な著述を行なったが,いずれも400頁前後の大著であり,またそれらの中には数十版というように版を重ねるものも少なくなかった。そのほか,個人雑誌「人生」(新生堂刊)を編集・刊行し,読者や聴衆の中からかなりの信奉者を出し,その著書の一つをもって「是れ吾が聖書なり」と記す者さえあったほどである。その主張するところ(キリスト教的平和主義、戦時中の良心的非戦/反戦論)は時流におもねらなかったので,大正(昭和?)9年の筆禍事件となり,大正(昭和?)11年復職するまで2年ほど大学を離れていた。帆足は,他方,早稲田大学基督教青年会の学生寮である信愛学舎の舎監をつとめ,のち理事,理事長となった。また第二次世界大戦後は早稲田奉仕園理事長もつとめた。その立場は自由なキリスト者の立場であった。第二次世界大戦中,そのデモクラティックな主張や国家主義に対するの批判が因とたって,ふたたび2年ほど(昭和19-21年)大学を離れていたが,昭和21年に復職し,27年,定年退職まで早稲田大学で教えた。その後,国際短期犬学,文化学院,東京文化短期大学で教え,昭和37年に北里大学の創設とともに教授として招かれたが,教壇に立つこと8ヶ月ほどで,昭和38年1月1日,82歳で他界した。」(以上、峰島旭雄「大正期における倫理・宗教思想の展開(7)一帆足理一郎の初期論文をめぐって一」による)
関東大震災直後に河本哲夫が帆足の求めに応じて出版した本だ。以後帆足はキリスト教思想を踏まえた思想書を新生堂より立て続けに出していく。思想信条面で河本哲夫と帆足とは信頼関係で結ばれていたようだ。ともにアメリカ留学経験者であった。
大正12年11月刊。関東大震災直後の出版だ。
本文は国会図書館のデジタル化資料で閲覧可能だ。
目次
標題 / (0003.jp2)
目次 / (0008.jp2)
序 / (0004.jp2)
第一章 トルストイとガンディーの宗教思想 / 1 (0010.jp2)
トルスイトの傳統的宗教觀 / (0012.jp2)
眞の福音、眞のクリスト教 / (0019.jp2)
無抵抗と愛の生活 / (0027.jp2)
兩性關係の規律 / (0032.jp2)
「誓ふ勿れ」 / (0037.jp2)
「汝の敵を愛せよ」 / (0038.jp2)
イエスの福音と實行難 / (0042.jp2)
ガンディーとトルストイ / (0045.jp2)
「眞理の把持」と消極的反抗 / (0048.jp2)
アヒムサとスワデシの宗教的意義 / (0051.jp2)
ガンディーは政治家か宗教家か / (0055.jp2)
トルストイとガンディーの文化觀 / (0060.jp2)
現代的宗教より見たる二者及び「懴悔の生活」の批判 / (0062.jp2)
第二章 生の要求と宗教 / 123 (0071.jp2)
肉體と精神 / (0071.jp2)
發展の可能は何れにありや / (0073.jp2)
心的生活の三方面 / (0074.jp2)
生命の統一 / (0077.jp2)
理性と宗教 / (0077.jp2)
情性と宗教 / (0079.jp2)
意志と宗教 / (0081.jp2)
宗教の本領
第三章 昔の宗教と今の宗教 / 149 (0083.jp2)
過去に完全を認めし昔の宗教 / (0083.jp2)
眞理の專賣特許を僣稱せるカソリック教會 / (0084.jp2)
天啓と理性 / (0086.jp2)
教權と教理 / (0087.jp2)
十八世紀の理性萬能主義 / (0089.jp2)
十九世紀の進化論と宗教の歴史的研究 / (0090.jp2)
宇宙の創造的進化とクリスト教 / (0092.jp2)
現代的宗教 / (0093.jp2)
第四章 現代思潮とクリスト教 / 173 (0095.jp2)
ヘブライズムとヘレニズム / (0095.jp2)
中世思想と近代思想 / (0096.jp2)
カント以來の哲學 / (0098.jp2)
絶對論の打破と進化論 / (0100.jp2)
思辨と實驗 / (0101.jp2)
進化論とクリスト教 / (0103.jp2)
現代の進化論と神の人格 / (0104.jp2)
宇宙の神聖化とクリスト教 / (0106.jp2)
第五章 クリスト教の眞髓 / 200 (0109.jp2)
先づ迷信を打破せよ、イエス即神説の虚妄 / (0109.jp2)
家柄の誇と處女降誕、宇宙の進化と醜惡の善美化 / (0112.jp2)
イエスの時代とユデヤ教、彼の福音と現代の要求 / (0114.jp2)
福音の要諦 / (0118.jp2)
イエスの福音と解放の宗教 / (0121.jp2)
イエスの倫理觀 / (0124.jp2)
神人合一と自我の充實 / (0127.jp2)
家庭的愛の宗教 / (0130.jp2)
イエスの人格 / (0132.jp2)
十字架の意義 / (0136.jp2)
罪の贖ひと靈的生命の更改 / (0139.jp2)
第六章 救拯觀の今昔とクリスト論 / 268 (0143.jp2)
史上のイエスと信仰上のクリスト / (0143.jp2)
舊教時代の救拯觀 / (0144.jp2)
近代の救拯觀 / (0147.jp2)
クリスト觀の今昔 / (0151.jp2)
イエスの人格 / (0154.jp2)
第七章 神々の死 / 298 (0158.jp2)
緒言 / (0158.jp2)
形而上神の死 / (0160.jp2)
超然神の死 / (0162.jp2)
絶對神の死 / (0165.jp2)
創造神の死 / (0178.jp2)
結論 / (0181.jp2)
第八章 宗教の特質 / 349 (0183.jp2)
ヘエゲル派の神秘的宇宙觀 / (0183.jp2)
宗教的本能とは何ぞや / (0185.jp2)
生の欲求と冐險的要素 / (0186.jp2)
環境の觀念化 / (0188.jp2)
人格的態度 / (0191.jp2)
宗教の本質 / (0193.jp2)
結論 / (0195.jp2)
第九章 人本的宗教 / 375 (0196.jp2)
社會生活と宗教の改造 / (0196.jp2)
僧侶無用論 / (0198.jp2)
罪惡觀と救拯觀の改造 / (0200.jp2)
民本的宇宙觀と神の共働者たる人間 / (0203.jp2)
人本的宗教の適用 / (0204.jp2)
第十章 祖先崇拜の末路 / 394 (0206.jp2)
表面的日本 / (0206.jp2)
祖先崇拜の墮落 / (0207.jp2)
葬式の虚禮と廣告的行列 / (0209.jp2)
神社佛閣の墮落 / (0211.jp2)
第十一章 國民道徳と宗教 / 411 (0214.jp2)
軍國主義の破滅と國民道徳 / (0214.jp2)
國家主義的不一致と民本的共同 / (0216.jp2)
自律的道徳と民本政治及び教育 / (0218.jp2)
國民道徳の擴張と深化 / (0221.jp2)
個人道徳と社會道徳 / (0224.jp2)
現代的宗教 / (0226.jp2)
大正12年の2円40銭
帆足の薯書(類)....かなり誤りがあるので要注意!
宗教と人生 洛陽堂→新生堂 大正5年2月 448p・(改版野口書店
昭和25年9月 276p.)
哲理と人生 洛 陽 堂 犬正7年3月 372p一(改版 野口書店
旦召禾口25毛三10月 251p。)
人生詩人ブラウニソグ 新生堂 犬正7年6月450p.(改版野口書店
昭和25年2月 296p.)
文化生活と人閥改造 博 文 館 犬正10年ユ月 460p.
哲学概論 洛陽堂 大正iO年3月393p。(改版新生堂
犬正12年8月 334p・改訂増補 春秋杜 昭和28年8月 297p.)
聖き愛の世界へ 博 文 館 犬正10年9月 486p.(改訂 犬正10年
ヱO月 476p・三訂増補 大正ユ5年4月 456p・新増訂版 野口書店
昭和23年7月 310pつ
杜会と新人 洛陽堂大正10年11月456p.
人間苦と人生の価値 博 文 館 犬正12年4月 420p.
精神生活の基調 新 生 堂 犬正12年1工月 439p.(改版 野口書店
昭和25年2月 290p。)
婦人聞題評論集 博 文 館 大正13年3月 470p.
杜会と人生 新 生 堂 大正ユ3年5月 452p.(改版 東方社
昭和22年12月 295p一)
哲学と人生 新生堂大正13年5月443p.
教育と人生 新 生 堂 大正ユ3年6月 4工2p、
死生と宗教 新生堂犬正13年8月430p.(改版野口書店
昭和23年8月 263p.)
婦人と新杜会の建設(共薯) 東京市編纂(三省堂発売) 犬正13年12月 1工8p.
(「婦人と新杜会の建設」pp・1-51.他に:大江スミ「婦人の責任」,下
田歌子r婦人の真自覚を要す」収載)
宗教哲学概論 博文館大正14年6月803p、
恋愛論 簿文館犬正15年6月348p.
優越の世界へ 新生堂昭和3年11月417p・(改版野口妻店
昭和25年2月 252p一)
人生随想 博文館昭和4年4月384p・
教育改造論 新生堂昭和4年9月243p.
西津哲掌史 早稲田大学出版都 昭和5年10月 520p・(改版 野
口書店 昭和25年11月
イエスの生活原理 新生堂
人生の目的(講演集) 新生堂
人 生 詩 集 新生堂
人 生 間 答 新生堂
448P一)
昭和8年1月
昭和9年3月
昭和10年9月
昭和11年6月
314P.
446p.
441p.
312P。
倫理学原論 新 生 堂 昭和11年6月 435p.
続人生間答 新生堂昭和13年10月336p・
デモクラシーの諸間題 日高書房 昭和21年11月 94p。
アメリカの宗教思想 野口書店昭和22年7月186p.
愛の倫理 東方杜昭和23年6月238p・
杜会文化と人間敏造 野口書店 昭和23年8月 231p。
ブラグマチズムの哲学 野口書店 昭和23年11月 157p.
デモクラシーの思想と宗教 東 方 杜 昭和24年1月 268p・
イエス伝 野口書店昭和25年2月432p.
人生読本 池田書店昭和29年6月466p.
〔訳書〕
ジョソ デュウィーr教育学概論 民本主義と教育」 洛陽堂 大正8年5月
603p・(改版「民主主義と教育」〔改題〕 審秋杜 昭和25年2月 393p・)
ミルトソ「失楽園」上 新生堂犬正15年3月476p.
ミルトソ「失楽園」下 新生堂昭和2年4月 566p.
ジョソ デュウィーr経験と自然」 審 秋 杜 昭和34年6月 377p一
デュウィー・タフツ「倫理学」 春 秋 杜 昭和37年1月 451p.
〔選集〕
帆足理一郎選集 潮 文 閣 昭和17年6月 362p・
(5)月刊のこの個人雑誌ば第1巻1号(昭和6年6月)から5巻7号(昭和10年7月)
まで続いたが