モアノー探偵事務所 ケンちゃんの友達がいじめに 第7話
純平の母は純平にハルさんの岡本との経験を話した。
純平はため息をついた。 そして言った。 どうしたらいいのだろう?
僕が話しかけてきっかけをつかめるかな?
嫉妬ってとんでもない事態を起こすことがあるから慎重にね。
まだ転校する気にならない?
僕、ケンちゃんと一緒にいたいんだ。
純平は父の絶対命令で中学校向けの塾の通信講座はパソコンで受けていたが、時間に余裕があると
学校が授業中で誰にも会わない時間帯に外出することがあった。
その日は平日で絶対誰にも会わないし、すぐに戻るからと駅前の本屋にでかけた。本屋の隣はCDやDVDの店があった。
通り過ぎてから戻ると「ちょっとだけ」と店内に入った。
純平は帰国してからJ-popにも興味を持ったのだ。
その日はとくに何もなく、隣のDVDの棚に移った時だった。
や・ま・だ という純平を呼ぶ声が聞こえた。
振り返ることもなく、純平はそれが岡本だとわかった。
ゆっくり振り返ると純平のすぐ後ろに岡本と二人の男子がいた。
「これがスイス帰りの山田君だよ。」と二人に言い、純平には「学校を休んでショッピングですか?」と
小馬鹿にした口調で言った。
「君も学校も学校を休んでショッピングじゃないの?」
と言うとさっと店を出て行った。
岡本は後を追った。
「岡本、ほっておけよ。 それよりあれを早く出せよ」という声が店を出た純平の耳に聞こえた。
純平はなぜか後を振り返った。
岡本が財布から1万円札を出して一人に渡すところが目に入った。
1万円!! どうして??
純平は悪いものでも見てしまったように慌ててその場を去った。
純平は帰宅すると自分の部屋に駆けあがた。
家には誰もいなかった。
純平は部屋の中で座るでもなく、グルグル歩き回った。
あれはハルさんが見た二人に違いない。
岡本は金をとられているのかしら?
純平は誰かに言いたかった、相談したかった。
でも誰に言えばいいのだろう?
岡本を助けたかった。
夕食のテーブルで純平の母は純平の行為に注目していた。
純平はハンバーグを崩しては時々小さい塊を口に入れ、いつまでも噛んでいる。
完全に上の空だった。
そのうち、ごちそうさまでもなく途中で部屋に行ってしまった。
純子(すみこ)、純平は夕食の前に何か食べたかしら?
純平は何かおかしいのよ。チョコレートをあげたのに食べなかったのよ。チョコレートを食べなかったのよ、あの子が!
純平の母は後で部屋に行ってみようと思った。
9時ごろ部屋のドアを開けてみると部屋の中は真っ暗だった。
そして純平はすでにベッドの中だった。
純平、寝たの?
返事はなかった。
同じ夜、岡本隆は兄弟とともにテレビの前にいた。
隆の兄は小さいころから将来は祖父の会社を継ぐのだと聞かされていた。
そのためか祖父母からも兄は大切にされているように隆の目には見えた。
2歳下の弟はもって生まれた開放的な性格に何も責任のない三男坊ということで祖父母からも親からもあまやかされているように隆には感じられた。
隆自身は中途半端な立場だった。
学校の成績は3人の中で一番よかったのに、特別な評価はされなかったと隆は思っていた。
裕福な家庭だったので、三人とも気ままに習いごともさせてもらえた。
隆だけが賞を取ったり、発表会に出られる能力を発揮したのだけど、両親も祖父母も格別に隆のことを誇りに感じているようには隆には見えなかった。
隆の心の中には「もっと頑張らないと」という焦りと「何をしたら認めてもらえるのだろう」という気持ちがはるか昔からモヤモヤしていたのだ。
続