子の日する野べに小松を引きつれて帰る山路に鶯ぞ鳴く 大中臣能宣
いのちあらばいかさまにせんよをしらぬむし
だにあきはなきにこそなけ
よのなかを、おもひすつまじきさまにし
て、ことなる事なきをとこのもとよりわれ
にすてよといひたるに
しらくものしらぬやまぢをたづぬれともたに
のそこにはすでじとぞおもふ
第十九段
鳥の声などもことの外に春めきて、のどやかなる日影に、かきねの草もえいづるころより、
やや春ふかく霞みわたりて、花もやうやうけしきだつほどこそあれ、
をりしも雨風うちつづきて、こころあわただしくちり過ぎぬ。
をりふしのうつりかはるこそ、ものごとにあわれなれ。もののあわれは秋こそまされと人ごとにいふめれど、
それもさるものにて、いま一きは心もうきたつものは 春のけしきにこそあめれ。
一の人の御有様はさらなり。ただ人も、舎人などたまはるきははゆゆしと見ゆ。
其の子うまごまでは、はふれたれど、なほなまめかし。
それよりしもつかたは、ほどにつけつつ、時にあひ、したりがおなるも、みずからはいみじと思ふらめど、いとくちをし。