時事解説「ディストピア」

ロシア、イラン、中国等の海外ニュースサイトの記事を紹介します。国内政治、メディア批判の記事もあります。

北朝鮮での粛清について

2015-05-15 00:35:44 | 北朝鮮
北朝鮮の情報を吟味する際に重要なのは情報源がどこかということである。

ほとんどの情報は韓国のメディアを経由して発信される。
その場合、国情院からの情報である場合は、十中八九ウソだと判断してよい。

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国情院は、元々は戦後韓国の独裁政権時に設立されたKCIAという機関が改称したもので、
反体制派の人間を北朝鮮のスパイにでっち上げ拷問、時には殺害すらする秘密警察だった。



先の大統領選挙の際には、国情院が2270個のツイッターアカウントを利用し、
2200万件ものコメントを書き込む事件が発生した。

そのほとんどが昨年末の大統領選挙や政治に関して、
朴槿恵候補(当時)を支持し対立候補を誹謗中傷する内容だったのである。



2013年にも脱北者の男性を北朝鮮のスパイとして逮捕したが、
証拠となった文書3件が全て偽造されたものが判明している。

同年、統合進歩党の李石基議員らを北朝鮮の手先と断定、「内乱陰謀」などの容疑で起訴したが、
重要証拠として提出された録音記録が272カ所も改ざんされていることが裁判中に確認された。


例えば、「具体的に準備しよう」という発言は「戦争を準備しよう」と、
「全面戦はだめだ」は「全面戦だ、全面戦」とすり替えられている。

(以上は4月20日に挙げた拙稿・書評『金正恩の正体』より抜粋)
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先月から北朝鮮で粛清が行われているという情報が韓国メディアを経由して発信されている。

ところが、この粛清の情報、よく読むと国情院が流したものなのだ。



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韓国の情報機関・国家情報院は29日、国会で開かれた情報委員会全体会議で、
北朝鮮で今年に入り4カ月間に15人の高官が処刑されたと報告した。


金正恩(キム・ジョンウン)第1書記は、自分と異なる意見には権威に対する挑戦と見なし、
見せしめのために処刑する統治スタイルを取っていると分析した。

同委員会与野党幹事が記者会見で伝えた。


国家情報院は次官級のイム・オムソン氏も山林緑化政策に不満を見せたという理由で
1月に見せしめのために処刑されたと説明。同じく次官級の国家計画委員会副委員長は、
大同江付近に建設中の「科学技術殿堂」の屋根の形をドーム形に設計したが、
金第1書記に花の形に変えるよう指示され、施工が難しく、工期も延びると
意見を述べたところ、処刑されたという。

わいせつ映像を制作したとのスキャンダルが浮上した
「銀河水管弦楽団」の総監督ら関係者4人も、スパイ容疑で銃殺されたとみられる。


国家情報院は、北朝鮮では公開処刑を通じて恐怖政治を行っているとした上で、
機関銃などで公開処刑することもあると説明した。

金第1書記が処刑した高官は2012年に17人、2013年に10人、昨年に41人と集計された。


そのほか、韓国海軍哨戒艦「天安」撃沈事件や、
米映画会社、ソニー・ピクチャーズエンタテインメントが
サイバー攻撃を受けた事件に関与していたとされる金英哲
(キム・ヨンチョル)軍偵察総局長は大将から上将に降格された。

国家情報院はまた、金第1書記が来月ロシアを訪問する可能性が大きいとの見方を示した。

http://japanese.yonhapnews.co.kr/northkorea/2015/04/29/0300000000AJP20150429003500882.HTML
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ご承知のように、5月の式典には、金正恩ではなく、代理の高官が出席した。
国情院の「可能性が高い」という発言がどの程度の信憑性なのかを如実に示すものだ。


また、北朝鮮サイバーテロ犯人説はアメリカが持っていると言い張る
(わりには米朝共同捜査の提案にも応じないし、公の場で提示したことが一度も無い)
証拠に基づいたものなのだが、なぜか上の記事では絶対の真実となっている。


極め付けがスプートニクの次の記事だ。

「聯合ニュースが情報委員会与野党幹事の情報として伝えたところによると、
 「銀河水管弦楽団」関係者は、スパイ容疑で銃殺されたという。

 金第1書記が「銀河水管弦楽団」の関係者を処刑するのは今回が初めてではない。

 2013年、わいせつ物を製造・販売したとして、第一書記が、
 同氏の元恋人といわれる玄松月(ヒョン・ソンウォル)さんを含む
「銀河水管弦楽団」のメンバー12人の銃殺を命じたと報じられた。


続きを読む http://jp.sputniknews.com/asia/20150501/279867.html#ixzz3a84AIN9z


当サイトで前に指摘したように、この銀河水管弦楽団の粛清は真っ赤なウソで、
その後、カメラの前で彼らが登場し、演奏を行った
のだが、この誤報が未だに修正されていない


逆を言えば、メディアの情報力はその程度であるということでもある。


一昨日(13日)のスプートニクには次のような記事も掲載された。

「朝鮮民主主義人民共和国の玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)人民武力相(66)が、
 軍の行事の際居眠りをし、また国の指導者金正恩(キム・ジョンウン)第一書記の命令を
 遂行できなかった事から、国家反逆罪に問われ銃殺された。
 韓国のレンハップ通信が、同国の諜報機関の情報を引用して伝えた。

「人民武力相は、ピョンヤンの総合軍官学校の射撃場で、
 数百人が見守る中、高射機関銃で銃殺された」との情報は、13日、
 韓国の国家情報院(国情院)スポークスマンが、
 首都ソウルにある本部でのブリーフィングで伝えたものだ。
 なお情報は、非公開の場で韓国議会の議員達に報告された。

続きを読む http://jp.sputniknews.com/asia/20150513/329641.html#ixzz3a85QcEpU



いつもどおりの韓国経由の記事なのだが、どういうわけか今回に限っては
14日、スプートニクが自国の専門家の意見を掲載し、その信憑性を疑っている。


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ロシア人専門家、北朝鮮国防相の処刑の噂に疑問

韓国の聯合ニュース(ヨンハプニュース)は同国の諜報機関の情報を引用し、
朝鮮民主主義人民共和国のヒョン・ヨンホリ国防相が、
軍事行事の最中に居眠りをしたことを咎められ、「国家反逆」罪で銃殺されたと報じた。


別の説ではヒョン氏は、4月末、金正恩氏の委任を受けてモスクワを訪問した際に、
ロシアの地対空ミサイルS300の北朝鮮供給に合意を取り付けられなかった責任をとって、
銃殺されたとされている。


韓国マスコミは、ヒョン氏はピョンヤンの軍事学校で高射砲を用いて銃殺されたと流しているが、
この情報は、韓国諜報機関の本部でのブリーフィングで流されたのが、
議員らの秘密会議の知るところとなったとされている。


有名なロシア人東洋学者で朝鮮問題を専門とするゲオルギー・トロラヤ氏は
ラジオ「スプートニク」からの特別インタビューに答え、
こうした韓国マスコミ報道の信憑性に疑問を抱いたとして、
次のように語っている。



「これは専門家らのあて推量で言うに及ばないものだと思う。

 仮に彼が居眠りしたことで処刑されたなら、
 処罰としてはあまり釣り合わない。

 S300の供給に関しては、
 モスクワでヒョン氏はこの問題を解決する人間らとは会っていない。

 このため北朝鮮向けのS300の問題をだすほうが不思議だ。
 なぜならロシアは北朝鮮への武器輸出禁止制裁に参加しているからだ

 この問題を定義すること事態が全く意味がない。
 つまり処刑することもなかった。

 私はこれはみな当て推量だと思う。」


スプートニク

-ではなぜ、こうした話が今浮上したのか? 
それに韓国の発表では、ヒョン氏の処刑の原因は事実上、ロシアにあるとしている。


「今はすべてロシアが悪いんだと責めることが流行っている。

 ついでにロシアと北朝鮮を仲たがいさせることもできる。

 まず、処刑の事実を確認しなくてはならない。

 北朝鮮で処刑されたかのように言われていた人間の多くが
 突如、不思議なことに生き返っていたという話も多くあるからだ。


ゲオルギー・トロラヤ氏は「スプートニク」からのインタビューに答え、
北朝鮮内に政権をめぐる戦いがあるとの兆候、または軍指導部と
金正恩氏の間に摩擦は認められるかとの問いに「そうしたものは見られない」と答えている。

続きを読む http://jp.sputniknews.com/asia/20150514/331954.html#ixzz3a86eePfS

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2014年に中国バブルは必ず崩壊すると断言した自称中国通の
近藤大介氏の北朝鮮論とはレベルそのものが違う発言かと思われる。



以上、国情院のデタラメぶりに言及してきたが、同機関のデマは想像を絶するものであり、
例えば、替え歌を歌っただけで粛清されたという凄すぎる情報がニュースになっていたりする。



「金正恩の恐怖政治は、幹部のみではなく一般市民へも及んでいるそうです。
 国家情報院によると、公開処刑は拡大され、韓国ドラマの視聴や聖書の所持、
 売春などの疑い、携帯電話を使用したという理由で処刑されたこともあるそうです。
 もともとあった政治犯の萬塔山収容所をソウルのマンハッタンとも
 いえる汝矣島の64倍の面積に拡大しているとのことです。」
(http://sign.jp/post-2867)


これまた、前の記事で指摘したことだが、
韓国ドラマは向こうでもよく見られているし、携帯電話だって都市部では普及している


そもそも、携帯電話を使うには通信設備がないといけない。
連中の言い分に従うと電波を交信する施設を反体制派が密かに建造していることになる。


張成沢の処刑は北朝鮮のメディアで発表されたもので、
これは疑いない事実だが、その際、罪状は国家転覆罪だった



冷静に考えれば、替え歌を歌ったり、つまらないミスをするだけで
それなりに実力のある役人がサクサク殺されるわけがない。


北朝鮮だって、腐っても法治国家。
粛清されるには、それなりの理由が必要なのである。



だいたい、そんなに簡単に殺されるなら
強制収容所など存在するわけがないではないか?

(政治犯の飯を食わせるだけでどれだけの費用がかかると思っているのか)



このようにちょっと考えれば、すぐにウソくさいとわかるニュースでも
100%の真実として信じられる背景として、北朝鮮は悪魔国家だから、
どんな酷いことをしていても、それはおかしなことではないという偏見がある。



先日、パククネはパク・チョンヒ政権の弾圧行為をぼかすように
教科書の内容を改めさせ、国内の歴史学者から抗議を受けているが、まこと
今の韓国メディアの情報改ざん報道は常軌を逸したものになってはいないか?


一応、パククネは歴史問題に関して歴代の政権と同じ立場を取っているが、
実際には日米韓三国軍事同盟を強化するために妥協してもよいと発言してもいる。


白を黒と言い張る韓国メディアの言い分は
国内の我田引水政権と歩調を同じくしているものとみなして良いだろう。

総連への日本政府の弾圧

2015-05-13 00:14:36 | 北朝鮮
私たちジャパニーズは日常的には、影響力の無いブログや日常生活で
ただ口をパクパク動かして文句を言うぐらいの権利が保障されている。


ところが、こと総連系の在日コリアンとなると事情が異なり、
口をパクパク動かすどころか、ただ生活しているだけで公安にマークされるらしい。


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日本の警察は12日、在日本朝鮮人総聯合会(朝鮮総連)の中央常任委員会議長の息子他、
日本の貿易会社の2人の社員をマツタケの密輸の疑いで逮捕。

捜査の結果、2010年9月、北朝鮮で栽培されたマツタケ、
1800キロが日本に違法に輸入されたものと見られている。

共同通信の報道では、マツタケは中国産として輸入され、およそ450万円で取引されていた。

3人は容疑を否認している。

2014年より日本の警察は朝鮮総連の中央常任委員会議長の家宅捜査を
数度にわたって実施しており、議長の息子にはマツタケ密輸の疑いがかけられていた。

朝鮮総連は、日本が外交関係を持たない北朝鮮の日本における唯一の代表組織となっている。
このほか、3月には日本の貿易会社の職員3人がマツタケ密輸に関与の疑いで逮捕されていた。

続きを読む http://jp.sputniknews.com/japan/20150512/324076.html#ixzz3Zw0lSF8S



在日北朝鮮市民団体・朝鮮総連は、その議長の息子が逮捕されたのは
ファッショ的行為であり、法的根拠を持たないことだ、と見なしている。NHKが報じた。


「この不正かつファッショ的な行為は法的根拠を持たず、絶対に許されない」と朝鮮総連代表。
問題の卸売り企業は確かに朝鮮総連の傘下にあるが、現在は稼動を停止している、とのこと。



日本の警察は昨年来たびたび、朝鮮総連議長とその息子の家宅を捜索している。
同団体は外交関係のない北朝鮮と日本を結ぶ、事実上唯一の組織である。
3月にはさらに同卸売り企業の3職員が逮捕されている。

続きを読む http://jp.sputniknews.com/japan/20150512/324574.html#ixzz3Zw0q9Q1D

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スプートニクも北朝鮮の記事となると、基本的に総合ニュースなど、
反北朝鮮に根ざしたメディアの報道をそのまま垂れ流してしまっている。



そのため、実際はどうなっているかを他のメディアでチェックしなければならない。



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マツタケの不正輸入というのは、日本政府が2006年10月以降、
朝鮮民主主義人民共和国からの輸入を全面禁止したのに、「東方」という貿易会社が
2010年9月24日、朝鮮産のマツタケ約1200キロ(輸入申告価格約300万円)を中国産と偽って輸入、
外為法52条に違反するというものだ。



自宅に対する捜索差押は、警察がやりたいと思ってできるものではない。

重大な人権侵害となるものであるから、日本国憲法35条は、
警察が自宅を捜索し、証拠物を差押するためには正当な理由に基づいて発せられ、
かつ捜索する場所及び押収物を明示する令状がなければいけないと規定している。


これを受けて、刑事訴訟法(222条、102条2項)は、
今回のように、マツタケを不正輸入したという被疑者とは別の人の自宅を捜索する場合には、
関連する証拠があると認められる状況がある場合に限ると定めている。



警察は今回、裁判所に対し、議長や副議長の自宅に
マツタケの不正輸入に関連する証拠が存在すると認められる状況があるので、
自宅の捜索差押を許可する令状を発して欲しいと請求した。


裁判所は、この警察の言い分を相当と認めて、
捜索差押令状を発布し、その結果、捜索差押が実行された。



本来、日本国憲法、刑事訴訟法は、
こうした手続きを要求することで警察の違法な捜索差押を許さないとしているが、
実際は裁判所がほぼ警察の言い分を鵜呑みにして許可状を乱発しているので、
今回のような警察の違法捜査がはびこる事態となっている。


周知のとおり、議長、副議長は「東方」とはまったく何の関係もなく、
議長、副議長の自宅にマツタケの不正輸入に関連する証拠が存在する可能性も皆無だった。
実際、警察が押収できた証拠物はなかった。

今回の捜索差押は、マツタケの不正輸入の捜査という名目で行われたが、
実際は総聯や議長、副議長が犯罪に関与しているという印象を作り上げるために
公安警察が行ったイベントに過ぎない。

これは公安警察による重大な人権侵害だ。

http://chosonsinbo.com/jp/2015/04/sk48/
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要するに、証拠も無いのに勝手に自宅に侵入し捜査をしたわけだ。
無関係の総連を、さも首謀者であるかのように仕立て上げるいつもの手段だと言えよう。


この件については、同志社大学の浅野健一教授が
上手くまとめているので、少々、長くなるが、如何に紹介したいと思う。


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公安の総聯弾圧を批判しない日本メディア/浅野健一



5年前の朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)からのマツタケ輸入をめぐる事件で、
在日本朝鮮人総聯合会の許宗萬議長、南昇祐副議長の自宅が強制捜索されたことについて、
日本のマスメディアは一般刑事事件報道として公安情報を垂れ流した。


京都府警外事課と神奈川、島根、山口の3県警の合同捜査本部は3月26日、
朝鮮から10年9月24日にマツタケ約1200キロを上海経由で中国産と偽って輸入したとして、
外為法違反(無承認輸入)の疑いで、東京都台東区の貿易会社社長(61)と
社員(42)の二人を逮捕し、「関係先」として、許議長の東京都杉並区の自宅などを家宅捜索した。



許議長の自宅には早朝から「京都府警察」などと上着の背中に書いた捜査員が家宅捜索に入った。
全員マスクをして顔を隠している。報道ヘリが上空を飛び、各テレビ局のカメラが
捜査員の姿を撮影して、オンエアした。公安警察が捜索を事前にリークしていたのだ


安倍晋三政権は捜索の5日後の3月31日、対朝鮮制裁の2年間延長を閣議決定し
4月3日には首相が拉致被害者家族と1年ぶりに面会した。



京都地検は4月16日、議長宅捜索の元とされた事件の被疑者二人を処分保留とした。

証拠がなく起訴できなかったのだが、
捜査本部は同日、二人を外為法違反(無承認輸入)の疑いで再逮捕した。



再逮捕の嫌疑は10年9月27日(1回目の逮捕の3日後)、朝鮮産マツタケ約1800キロを不正輸入した疑い。
二人は処分保留になった時点で、釈放されなければならかったが、
捜査本部は類似事件で再逮捕し拘束を続けた。

この種の再逮捕は、「一事不再理」の原則に違反していると思う。


許議長の会見の模様はネットの動画でも見ることができる。
議長は「無法、異例的、奇襲的、非人道的で刑事訴訟法にも違反したファッショ的な政治弾圧」
と批判。許議長は記者に対し、「関係がないから押収品も全くない」と断言した。


記者たちが「何か運び出していたが」と聞くと、

議長は「中身は空っぽ。捜査官は、段ボール2箱に自分たちのカバンを入れて、
持って行った。みなさんに、あたかも押収品があったように見せるためだ。
警察はこういうことをやるのです」と答えた。




無法、不当な捜索を報じた日本の主要新聞を読んだ。
捜査本部と最も癒着しているのが京都新聞だ。

同紙は3月26日夕刊社会面の「北朝鮮マツタケ密輸 2人逮捕 
総聯議長宅捜索 容疑で府警など」という白抜き見出し3段記事の中で、
「捜査本部は昨年5月、東方の他、東京都内の輸出会社など十数カ所を家宅捜索し、
関係資料を押収。捜査関係者によると、押収資料を分析する中で、
許議長が署名したとみられる書類など朝鮮総聯の関与をうかがわせる資料が見つかったといい、
朝鮮総聯幹部の指示がなかったか慎重に捜査を進める」と書いた。



また、毎日新聞(大阪本社)は翌27日朝刊で
「マツタケ産地偽装:不正輸入、総聯議長の関与を示唆 会社捜索押収書類」の中で、
「押収した書類を調べたところ、許議長の関与をうかがわせる記述が見つかったという。
これを受け、総聯の関与を裏付ける目的で、26日に許議長宅に異例の家宅捜索に入った
とみられる」(岡崎英遠、村田拓也両記者の署名入り)と報じた。

この種の情報は、私が見た限りでは、他紙には載っていない。


京都新聞には「許議長が署名したとみられる書」に関する続報がない。
「慎重に捜査を進める」とあるが、許議長らの自宅の捜索など一連の強制捜査は
「慎重」な捜査と言えるだろうか。記事の情報源として書かれている《捜査関係者》とは
どういう人物か分からない。
記者会見、囲み取材、夜討ち朝駆け取材なのかも不明だ。


この情報について、当事者である許議長、
被疑者二人(どこに拘束されているか記事にはない)に取材しているとは思えない。



新聞各社の記事には、二人の逮捕状と総聯議長宅への捜索差押令状を
発付した裁判所名と裁判官の名前が全くない。逮捕状を執行した捜査責任者、
取り調べた検察官、勾留を認めた裁判官の役職、姓名もない。

被疑者は実名で、公権力を行使している公務員の役職、
姓名をなぜ報道しないのか。



毎日新聞の3月27日の記事には京都支局記者2人の署名があるが、他社の記事には署名がない。
「書かれる側」は実名で、「書く側」は名前を伏せるのは不公平だ。


京都新聞に4月19日、質問書を送ったところ、
4月21日にファクスで回答があった。回答者の氏名はなかった。


許議長らの自宅の家宅捜索など一連の強制捜査は「慎重」な捜査と言えるかという問いには、
「記事は、捜査当局が慎重に捜査をしている、という意味です。
 家宅捜索という手続きそのものが慎重さを欠くか、欠かないかを評価する記事ではありません」
 と回答した。


《捜査関係者》とはどういう人物か、 取材方法は会見、夜討ち朝駆けなのかという質問には、
「取材源の秘匿のため、お答えできないことはご理解いただけると存じます」と答えた。


当事者である許議長、被疑者二人に取材しているのかという問いには、
「許宗萬議長の捜索終了後の談話を紙面に掲載し、被疑者2人の認否を報じています」と回答。



京都地検が二人を処分保留としたことについてとの質問には、
「4月16日付の処分保留については報じていません。再逮捕の被疑事実が
『一事不再理』に違反するかどうかに関してはお答えできません」と回答。

二人の逮捕状、捜索差押令状を発付した
裁判所名と裁判官の名前をなぜ報道しないのかとの問いには
「公権力を行使している公務員の役職・姓名を報じるかどうかは、その都度、判断しています」
と答えた。



毎日の記事には記者の署名があるが京都新聞にはないのはなぜかとの問いには、
「掲載した記事の責任は京都新聞社にあります」と回答した。


公務員が地元紙に語ったことがなぜ情報源の秘匿に当たるのか。

会見か、個別取材かなどを聞いているのであり、取材源の秘匿対象ではない。
書かれた議長にとっては名誉棄損に当たる報道だ


被疑者二人(弁護人含め)へ直接取材したかを聞いているのに答えていない。

二人の「認否」も警察官を通じての認否で真実は分からない。

議長の署名がある書類があったという記事に関して、
議長に取材しているかどうかを聞いているのに答えていない。


今回、許議長の捜索終了後の記者への会見で、付き添った弁護士が記者団に
「捜索差押状を発付した裁判官も問題だ」と言っているのに、
なぜ裁判官を顕名報道しないのか。これでよく権力チェックと言えると思う。



記事の責任がどこにあるかを問うているのではなく、
誰が記事を書いたのかもニュースの基本ではないかと聞いた。


京都新聞社は、「許議長が署名したとみられる書類など朝鮮総聯の関与をうかがわせる資料」
が見つかったという記述の責任をとってもらいたい。


読売新聞は4月1日の「対『北』制裁延長 拉致問題進展へ手段を尽くせ」と題した社説で、
「京都府警などは、制裁の禁輸対象である北朝鮮産マツタケの不正輸入を摘発した。
関連先として在日本朝鮮人総聯合会(朝鮮総聯)議長の自宅も捜索した。
捜査当局が違法行為の解明を適正な手続きで進めるのは当然と言える」と書いた。


安倍自公政権の広報紙らしい決め付けだ。

http://chosonsinbo.com/jp/2015/05/0501ib-3/
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このように、単なる疑い、それも証拠の無い疑いにすぎなかったものが、
絶対の事実として新聞もテレビも報じているのである。



一昨日の報道ステーションで、パク・チョンヒ時代の韓国と北朝鮮との
間のいざこざであったはずの青瓦台襲撃未遂事件が、どういうわけだか
北朝鮮が日本を攻撃する計画だと説明されていたのを見て仰天した。



ここまでウソデタラメを平然とニュース番組で流してよいのだろうか?
最近のテレビは視聴率が下がる一方だと言われているが、内容がこうでは当然の結果だろう。


ところで、この評論を投稿した浅野健一氏は、元々は共同通信の記者であり、
いわばアマチュア出身の教授である。純粋な政治学者・社会学者とは言いがたい。


ところが、浅野氏がこのような戦闘的な批判を行っている一方で、
慶応義塾のお偉方は、あの池上彰と一緒にメディアの将来を危惧する対談を開いている。


これは「中国人にかけているのはモラルだ」とか
「慰安婦問題が解決されないのは韓国人のせいだ」とか言っている人間と一緒になって
「おお、なぜジャーナリズムは衰退したのだ!」と嘆いている対談で、
どこからツッコミを入れていいのか途方にくれる代物である。


一応、本で購入できる。
ジャーナリズムは甦るか


ジャーナリズムは蘇るか・・・
いや~、こんな連中が闊歩している状況じゃ蘇らんでしょう。

肝心な事実をごまかす大阪改革

2015-05-12 22:55:56 | 日本政治
大阪都構想は、何のことは無い、新自由主義に則った経済改革にすぎないことを以前指摘した。


この改革は基本的に行き当たりばったりのものであり、博打のようなものである。

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橋下と松井一郎府知事は当初、「都構想」の行革効果は
最低でも年間4000億円」と何の根拠もなくぶち上げていた。


それが特別区設置協定書案では、976億~736億円に減少。
ところが、これも橋下が府市の事務方に「もっとしっかり効果額を積み上げてほしい」
「数字は見せ方次第でなんとでもなる」と指示して、市営地下鉄やゴミ収集の民営化、
市民サービスの廃止を含む市政改革プランなど、「都構想」には何の関係もないものを
盛り込んだ粉飾だったことが指摘され、最終的には「年間1億円」に落ち着いている。


最初の4000分の1だ。

http://lite-ra.com/2015/05/post-1091_2.html

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これだけでもいかに大阪維新の会がウソデタラメの詐欺集団であるかが推し量れるが、
大阪人権博物館、大阪平和センターといった学術機関への攻撃を踏まえればよりよく理解できよう。




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大阪平和センターで、長期の改装終了後、
第2次大戦中の軍国日本の蛮行を示す展示が除去されたことを受け、
ここ数日間で数十人の日本人市民が抗議行動を起こしている。新華社通信が伝えた。



大阪平和センターは半年にわたる改装工事を経てオープンした。
平和を推進することを目的とした同センターでは様々な戦争の歴史が紹介されている。


改装前には1945年の米軍による大阪空爆の写真、古文書から、第2次大戦中の中国、
東南アジアを初めとする諸国における日本の侵略を表す資料が展示されていた。


ところが改装後、1937年の南京大虐殺など
日本軍の蛮行を示した資料、写真は展示からはずされたほか、
中国以外の諸国への日本の侵略を示す資料もほぼ消え、
かわりに1945年の大阪市民の苦悩に焦点が置かれた展示に変わっていた。


こうした展示入れ替えについて、30日に行われた抗議で市民の一人は
センターが立ち上げられた本来の目的は歴史の忘れず、
日本の侵略が他国民に与えた苦しみを記憶するというものだが、
これはそれに真っ向から反するものと語っている。

大阪平和センターは1991年創設。毎年7万5千人の来館者がいる。

続きを読む http://jp.sputniknews.com/japan/20150502/285197.html#ixzz3Zvv94Knt

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大阪人権博物館に対しても展示内容について攻撃がされ、
補助金の打ち切りや地代の請求など、経済的に圧迫をかけ閉館に追い込もうとしている。


こういうヤクザのような恐喝が橋下の本来のやり口であるわけで、
それを踏まえた上で、冒頭のデタラメだらけの大阪改革を見ると、さもありなんだと思われる。


ところで、すでに3年前に大阪都構想についての漫画が相川俊英の監修で描かれていたりする。

マンガでわかる大阪都構想と橋下維新


この相川俊英という人物は何者なのかと言うと、
早稲田大学法学部卒の元放送記者orフリージャーナリストで
1997年から週刊ダイヤモンドの専属記者になっている男である。

彼は1999年からテレビ朝日系の報道番組「サンデープロジェクト」の番組ブレーンを務め、
日本一首長に直接取材している記者と言われているらしい


早稲田を出ようがテレビ番組に出ようが、
レベルの低い男は低いのだということを彼ほど如実に示す者もいまい。


橋下は本人もアレだが、その取り巻きも面白い連中が揃っていて、
ある意味、嘘発見器になっている。そういう意味では便利な連中である。


ウクライナの炭鉱戦争

2015-05-12 01:09:27 | ロシア・ウクライナ
ウクライナの内戦は炭鉱を巡る戦争でもあると指摘したが、
その後、キエフが占有している鉱山においても鉱夫たちが給与支払いを求めて橋を閉鎖した。



ヴォリネツ会長によると、
「ノヴォヴォリンスカヤ鉱山第10番」の作業員たちは、
滞納している給与の支払いと、しかるべき資金を提供するまでストライキを行う意向。


4月末、ウクライナの首都キエフの中心部で、給与の支払いや石炭産業の改革、
ウクライナのデムチシン・エネルギー相の退陣を求める鉱山作業員たちの大規模な集会が開かれた。


デムチシン氏は、集会に関連して米訪問を中断して、ウクライナへ戻った。


ウクライナは、ドンバスでの紛争によって大部分の鉱山を失った。
これらの企業の大多数は採算がとれず、政府には企業を支援する資金がないため、
段階的に閉鎖される見込み。


続きを読む http://jp.sputniknews.com/life/20150507/305290.html#ixzz3ZqaRksmm



古市憲寿は学者ではない。

2015-05-10 00:06:58 | マスコミ批判
私は前々から古市氏の言い分と振る舞いがおかしいことを指摘していたが、
とうとう、あのリテラから古市氏の批判記事が登場した。

「ブサイクは怠惰の象徴」古市憲寿のブス差別がヒドい! 容姿差別は合法だと開き直り


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格差社会に伴う若年層の不幸な状況が問題視されるなかで
あえて「若者は幸福」と語り、とりわけ2010年代、ニュースや討論番組に頻繁に出演するようになった。

しかし、その言動をつぶさに見て行くと首をかしげたくなることも多い。

事の発端は昨年10月13日、古市くんがTwitterで
「テレビで中学生くらいの子たちが合唱してるんだけど、
 顔の造形がありありとわかって辛いから、子どもたちももっとみんなメイクしたり、
 髪型や髪の色をばらばらにしたほうがよいと思う」とツイートしたことだった。

~中略~

「日本には、人を容姿で差別することを禁じる法律はない。」

~中略~

彼は「人は結局、見た目を含めて選ばれるのだ。
それならば、『見た目』を良くする努力がもっと認められてもよさそうだ」と完全に開き直る。

そのための代表的な手法がメイクや美容整形だ。
科学による身体加工という発想の浸透する現代社会で
「美容整形に対する風当たりが消えるのも時間の問題」と続ける。


「整形が一般的になってしまった場合、『ブス』や『ブサイク』は怠惰の象徴として、
 今以上に差別を受けるようになるかもしれない。よく『ブスだからモテない』
 という悩みがあるが、実は自己責任でどうしようもない何かのせいにできるというのは、
 とても幸せなことである」

 オイオイ、ちょっと待て。ここまで来ると釈明の域を越え、
 容姿に悩む人々へのセカンドレイプと言っていいレベルの暴言ではないか。

 古市くんの議論にすっぽり抜け落ちているもの。それは、同じく
 社会学の一分野として大きな存在感を持つフェミニズムの、今日に至るまでの格闘の軌跡だ。
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詳しい内容は本文を読んで頂きたいが、気になる点としては、
古市氏が自説を正当化させるために、差別主義者と同じ理屈を用いていることだ。



人種差別にせよ性差別にせよ、差別主義者は
「差別する俺が悪いのではない。差別させるような相手が悪い」と述べる。


典型的なのが、在日コリアンは差別されたくなければ、親日になれ、帰化しろというものだ。
(ここでの親日とは「日本の戦争は正しかった」「日本が韓国を救った」という
 アホなデタラメを受け入れ、自分たち差別主義者に対して尻尾を振れという意味である)


強姦事件の被害者に対して「お前が不注意だったのが悪いのだ」と語るアレと同じものだ。


自分たちは悪くない、差別されないよう努力しないお前たちが悪いという勝手な理屈。
そのくせ、いざ自分たちの意見が批判されると、批判されるような真似をした自分たちが悪い
とは言わずに、「は、反日だぁああ!!!」と馬鹿騒ぎする救いようがない連中がいる。


古市の意見はそれと全く同じものだ。

「ブス」や「ブサイク」と言うほうが駄目だというのではなく、
「ブス」や「ブサイク」と言われない努力をしないほうが悪いのだと語る。

典型的な差別主義者の発言である。




こういう弟子のあんまりな言動を見て、指導教授?の小熊英二が最近、苦言を呈しているらしい。


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そんな古市くんと小熊の誌上座談会が、最近になって再度行われた。
その名もズバリ「古市くん、社会学を学び直しなさい!!
自称社会学徒が日本を代表する社会学者をたずねる」(「小説宝石」2015年4月号/光文社)。

冒頭、小熊は今日の日本で社会学者は「評論家」として流通していると語る。

本来、社会学はインタビューやフィールドワーク、ないし
データの統計的分析などに支えられた「実証的学問」である。


しかしマスコミが便利屋を必要とする結果、
「社会学という学問とは切り離されて『評論=社会学』
 というイメージが定着していった」のではないかと小熊は指摘する。

……これ、まんま弟子のことを指しているとしか思えない。
古市くんはつまるところ「社会学者」ではなく「薄口社会評論家」なのだ。

そう考えればその言動の浅さにも納得がいく。

こういう「薄口評論」が曲がりなりにも「論考」として
流通してしまう今の言論界って、本当に大丈夫なんだろうか。
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そもそも、古市が学者として何か貢献しているという話を私は聞いたことが無い。



古市は週刊誌や新書には顔を出すが、きちんとした学会で発表を行っていたり、
学術雑誌に論文が掲載されているかといえば、そんなことはない
(少なくとも老舗の学会においては)。


いわゆる右翼の論客と共著することはあっても、
同じ社会学者と一緒に、本格的な論文集を著述したことも無い。



純粋にやってることだけを見れば、彼は現時点で学者というよりは評論家である。
現役大学院生(もう卒業したのか?)の評論家()であり、それ以上でもそれ以下でもない。



古市の研究が学問的に評価を得たものといえば、右翼的な賞を頂くことになった
たった1本の論文ぐらいのもので、受賞した理由も、恐らくは若者論を語る際に、対象である
若者の主体性に着目し、社会の変化にしたたかに適応する姿を描いたからだと思われる。


ただ、右翼的な賞を頂いた点からお分かりのように、
彼の新自由主義的な現状認識(格差でも人間は幸せになれる。なれない奴は努力不足)は、
当初から存在し、この辺が審査員たちの印象を良くしたような気がしなくも無い。


一応、古市の名誉のために書かせていただくと、
イギリスの著名な社会学者であるアンソニー・ギデンズがブレア政権のブレーンとなり、
資本主義でも社会主義でもない第3の道を示すといきまいた所、実際には侵略主義的な
ろくでもない外交や内政が展開されたという苦い思い出が社会学者にはある。


彼が唱えた第3の道というものが名前を変えた侵略主義、新自由主義だったことは
さまざまな人間から指摘され、批判されている。


つまり、古市だけでなく社会学そのものが、権力側に追従した言説が闊歩し、
御用学者が大学だけでなく業界内で一定の権威を持つことを許しているわけで、
古市個人の問題というよりは、社会学全体の問題として受け止めるべきだと思う。


実際、彼を表面的には批判した小熊氏もまた、その発言内容が
一部のマイノリティ民族に批判されていたりするわけで、それほど偉いわけでもない。


一応、左翼であるはずの小熊氏の弟子が右翼というのもまた、
日本の右傾化は左翼の右傾化を想起させずにはいられないものだが、
社会学もまた、政治学や経済学と同様、目的論を排したために、
逆に目的論(政府や企業に都合の良い学説が採用されてしまう)的なものになっている
のではないだろうか。古市がでしゃばった背景には社会学の問題点にも繋がっている。



少々、難しい話をしてしまったが、古市自身はもう30歳になったし、
今後は自称若者を名乗りづらくなるのではないかと思う。



まぁ、右翼雑誌の手にかかれば、
この曽野綾子が「美人評論家」になってしまうので、
もしかして40歳を超えても若者を名乗り続けるかもしれないが、
少なくとも彼のセールスポイントであり、マスコミが認める利用価値は、
社会の被害者である若者の口から右翼的言説を語らせることにあるわけで、
おっさんになったら、他の論客のようにガツガツと精力的に活動しないと、
浅田彰や宮台某のように、誰だあいつ状態になるのではないだろうか?

キューバの有機農業⑤

2015-05-08 00:34:40 | キューバ・ベネズエラ
教育も駄目!医療も駄目!農業も駄目!
自分たちが悪いのにアメリカの経済制裁のせいにする!国民は金の亡者!

これが新藤氏の見解なのだが、これだけを読むと、氏は
さぞかしガチガチの反共の右翼学者なのだろうなと思うに違いない。

否。彼は赤旗にも書評を載せるぐらい、わりと左翼的な研究者なのである。
その証拠にキューバ研究室ではベネズエラへのアメリカの制裁を非難する記事もある。


私は2年ほど前から、日本の右傾化は左翼が右傾化しているのだと主張してきた。
意外かも知れないが、日本の右翼は中立派にも支持されるように近年左傾化すらしているのである。

キューバを絶賛する本が、あの新潮社から発売されているのも、その証左の一つだ。
(同社は、新書から在日コリアンや日本共産党を攻撃する本を売りだしている)


遠藤氏をはじめとして、今の左翼・リベラルの東側へ対する態度は、
かつてのフルシチョフやゴルバチョフ、エリツィンに向けたそれと同じものだと思う。


スターリン時代は最悪だった、でもこれからはフルシチョフをはじめとする
国内の改革者が良い方向へと導いてくれるだろうし、導いていかなければならない。


これがスターリン批判直後のほとんどの左翼の態度だったが、
それが次第にブレジネフ政権までソ連は最悪だった、しかし~から
共産主義時代のロシアは最悪だった、しかし~へと変化したのである。


ソ連が自発的に改革を行うことを望む連中が今では、どういう態度を示しているのか。
これは言うまでもあるまい。ウクライナ問題しかり、ばっちりロシアの敵になっている。


こういう連中が東欧やソ連が欧米化した(新自由主義の餌食となった)ことによる
甚大なる人的・経済的被害について真剣に語っているかどうかはすこぶる怪しいものだ。


この種の国内の改革派による自発的な民主化を望む連中が
アラブの春やウクライナのクーデターを支持・絶賛したのは何ら不思議なことではない。

イスラム国が問題視されるまで、シリアを徹底的に攻撃していたのも当然の反応だ。
それだけに、彼ら研究者の意見は批判的に読まなければならないのだろう。


欧米による中東・アフリカのモンスター化(蔑視)をいち早く指摘したのが、
政治学者でも歴史学者でもなく、悲しいことに文学者だったというのはあまりにも皮肉だ。
(エドワード・サイードの『オリエンタリズム』)


真っ先に先進諸国の欺瞞を告発しなければならないはずの地域研究者が、
逆に先進諸国が喜ぶであろう言説を声高に叫ぶという凄まじい現象はよくある。

悪い点も知っているだけに、余計にそうなるのかもしれない。
だからこそ、サイードしかりチョムスキーしかり、そして藤永茂しかり、
研究者ではなく、評論家がこの問題に対処する必要性が生じてくるのだろう。


以上、5回にわけて語ってきたが、少なくとも一部の研究者は
アレイダ・ゲバラと一緒になり、キューバの味方として戦えはしないと思う。
次のような記事を読めば、「アレイダは体制派の人間だから信じるな」とでも言うだろう。

http://www.jca.apc.org/stopUSwar/latin_america/viva_cuba_osaka.htm
http://www.liveinpeace925.com/latin_america/aleida101018.htm


そういう国内の反体制派を支持して先進諸国に都合の良い政府が民主的に樹立されるのを望むのは、
アメリカの考えと全く同じなのだが、それに気づかない限り、研究者は評論家にはなれない気がする。

最後に、キューバの有機農業に関する最近の英語記事を紹介したい。
機会があれば、翻訳なり要約文を書くなりするが、とりあえず今回はここで筆を置きたいと思う。

The Paradox of Cuban Agriculture

Cuban Urban Agriculture as a Strategy for Food Sovereignty

キューバの有機農業④

2015-05-07 23:24:06 | キューバ・ベネズエラ
今まで、キューバ研究所の新藤氏のおかしな部分について指摘してきたが、
簡潔に述べれば、無知か故意かは知らないが事実とは異なる指摘があり、
また、その引用する情報も恣意的だということが言えよう。


特にキューバの有機農業を高く評価するものを
有機農業への幻想的な願望によるキューバ訪問とその報告記」とみなすのは如何なものか。


大変申し訳ないが、都合の悪いエピソードは「体制派の人間の言葉だ」
「上手くいっているところにしか案内されないのだ」と延べ、都合の悪い統計は「捏造だ」で
すます一方で、自分にとって都合の良いエピソードは逐一紹介するのは学者としてどうよと思う。


もちろん、キューバ社会は問題が山積みされており、そういう負の部分はあまり語られないので、
その点では氏の様な批判的意見は貴重であり、傾聴に値する。有機農業もしかりだ。


有機農業はキューバの食糧事情を解決する万能薬ではない。
しかし、キューバの食糧事情(特に都市部における)に貢献するものである。


この点から、ハバナ農業大学をはじめとして、国内でも農業研究が行われている。

氏のように何でもかんでも否定的に捉えるスタンスは、
結果としてアメリカのキューバ制裁を正当化させてしまうのではないか?



新藤氏の言葉を読むと、我が国の中国や北朝鮮に対するそれと似たものを感じる。

例えば、北朝鮮では食糧事情を解決するために国が総力を挙げており、
結果的にここ数年で少しずつ生産量がアップし、かつ市場の部分的導入により、
余った収穫物は各農家が好きに売っても良いという風に変化した。

ところが、ほとんどの論者はこの点に全く触れずに、やれ飢餓だ、やれ餓死だと囃し立てている。


新藤氏はこれとよく似ており、農業のほかにも医療や教育についても、
ここも悪い、ここも腐敗している、これも問題だと一生懸命だ。


それも、どちらかというと、手放しの礼賛者と同様に、一部分を極端に強調している。
これは悪い点を知るにはある程度参考になる(誇張されている面も否定できない)


だが、大変申し訳ないが、私は90年代の冷戦終結以降、
キューバ人が金を求めることしか考えない連中になったと主張する彼の主張は受け入れられない。


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80年代のキューバでは、普通、家族は3,000~4,000ペソ貯蓄がありました。
それぞれが、職場を定時に終わり、友人や家族と談笑したり、映画や音楽会に行ったり、
ゆっくりと生活を楽しみました。バケーションは年間1カ月とって、海水浴場に行き、
リフレッシュしました。ないものは融通し合い、助け合い、市民の間に連帯感がありました。
「黄金の時代」と言われるゆえんです。

しかし、ソ連・東欧の経済が急激に悪化し、これらの国々からの資材の輸入が激減し始め
たキューバでは、1990年8月「平和時の非常時」が宣言されました。各種の生産が低下し、
食糧生産が減少するとともに、インフレが急上昇し、20年間で実質賃金は、
かつての5分の1に低下しました。つまり、普通の賃金だけでは、生活できなくなったのです。

あるものは、海外からの家族送金に頼り、あるものは観光関係の職業で得られるチップでカバーし、
あるものは、外国企業に勤めて正規以外の賃金を取得し、あるものは、特技を生かして
家庭教師や修繕サービスで副収入を得たり、あるものは、勤め先でモノを横流しする、
レジで売り上げをごまかす、賄賂を得たり、便宜を供与してもらったりして対処しています。

横流ししたり、国のものを盗んで手に入れたりすることを、
「解決する」という言い方で表現するようになりました。

一方、政府は、こうした社会現象を見て、1993年から自営業を大幅に認める政策を打ち出し、
現在、自営業者は、20年で20倍増加して42万人に達し、
経済活動人口510万人の10%近くになろうとしています。

実際、ハバナ市では、各地にパラダール(民間のレストラン)、
露天商、各種修理店が目につくようになりました。

外国人観光客は、1990年の30万人から10倍の300万に達し、
観光客向けのいろいろな商売が目につきます。
観光客のもっている日用品をキューバ人も見て、羨望心がかきたてられます。

自営農は、この5年間で5万人から22万人に増え、未利用地の使用権を取得した
新たな農民の中にニューリッチ層が生まれつつあります。

こうして、キューバは、残念ながら、それぞれが、
カネ、カネ、カネとより多くの収入を追い求める時代になってしまいました。
思いやり、連帯が忘れられ、何よりも自分と家族の問題を解決することが最優先の社会となりました。

(ラウル議長も嘆くキューバ社会の実態より)
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重要なのは、前回の記事で紹介したように、この増えつつあるニューリッチな自営農が
実は新藤氏が批判している都市の有機農業者である
という点である。

こういう都合の悪い部分をサラッと流すのは絶賛者と大差ない態度だろう。


今のキューバ社会は徐々にだが市場化されている社会であり、
自由経済の中で淘汰された人間に対するケアが不十分だという意見なら納得できる。
(それも、この不十分さは長年の経済制裁と金融制裁、国際政治からの迫害に大きく起因する)

だが、「キューバは、残念ながら、それぞれが、カネ、カネ、カネと
より多くの収入を追い求める時代になってしまいました。思いやり、連帯が忘れられ、
何よりも自分と家族の問題を解決することが最優先の社会となりました。」と断言するのはおかしい。


例えば、日本でイジメを黙認したり、時には率先してイジメる教師がいたからといって、
日本の教育は最悪なレベルにまで堕落したと結論付けられるだろうか?

新藤氏の言葉は、それと同じで極端なのである。

(そういう無茶な主張をするため、氏はキューバの市場の導入が社会の悪化を招いたと
 主張する一方で、さらなる市場化を望むという矛盾した態度を取っている)


教育も駄目!医療も駄目!農業も駄目!
自分たちが悪いのにアメリカの経済制裁のせいにする!国民は金の亡者!


こういう主張を聞いて喜ぶのはどこの国だろうか?
問うまでもない。


次回、キューバ批判者の致命的な問題点について語ろうと思う。

キューバの有機農業③

2015-05-07 23:15:21 | キューバ・ベネズエラ
キューバ研究者の新藤通弘氏いわく、日本人しか注目していないキューバの有機農業。


今回は、アメリカの農業NPO、ロデール研究所からの記事を紹介したい。


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キューバ革命から約30年後の1991年、ソ連が崩壊し、
キューバはほぼ一夜にして絶望的な食糧危機に陥りました

~(中略)~

この危機を緩和する主要な戦略の一つとして、都市に住む人たちが、都市農業を実施しました

――人々は裏庭を耕したり、放棄された土地や、閉鎖された製糖工場の敷地を、
持続可能な野菜生産や林業などの用途に解放することによって新しい命を吹き込んだのです。


政府が危機的な状況への対応策として自由市場を刺激したために、
今ではハバナ市内で十分な量のオーガニック農産物が育てられ、
250万人の市民一人ひとりに、毎日最低300グラムの果物と野菜が供給されています


私たちが会った都市農家の中には、
とても安定した職を離れ、初めて農業に従事することになった人もいました。

例えば、私たちは「チュチョ」という人に会いました。チュチョは、以前は獣医だったのです。
彼は、当初、自分の子供たちを食べさせるために農業に転向しました。

彼が言うには「1日に卵1個しかとれなくて、それを子供2人で分け合うという状況に気づいた時、
手遅れになる前に何かを変えようと決意したのです。」とのことです。

彼と以前化学者だった彼の奥さんは、今では2つの農場を経営していて、
前の職業で得ていたよりもずっと多くの収入を得ています。



もう一つの戦略というのは、大規模国営農場を小規模の協同組合に分割してきたことです。
それは協同生産基礎単位(UBPC)と呼ばれているものです。


私たちは55軒の農家を雇っているUBPCの一つを訪ねました。

彼らは合計約3.2ヘクタールの土地を耕作していて、
それぞれの農家の収入は、国民の平均月収の約4倍です。

彼らは食物を一般の市場で販売する前に、社会義務の一端としてまず地域の学校、
病院、老人ホームに供給しなければならないという事情があるにもかかわらず、
こういった成果をあげているのです。


キューバにおける都市農業成功の鍵は、農場が生産物を買う顧客の家の近所にあるということです。

例えば、私たちが会ったもう一人の「アメリカ」という名前の農家は、
自宅近くの土地を隣人の助けを得て耕作しています。
彼女は社会義務を果たしたあとで、改装した鉄道車両で農産物を売っています。
かつての鉄道車輌も、今や道沿いで、野菜直売所として活躍しているのです。

ハバナ内外のあちこちにあるこのような野菜の販売所が、
毎日、数百、数千というお客さんを引き寄せているのです。



都市農業成功のもう一つの鍵として、この国が大学の学外教育活動の改革と活性化に取り組み、
現在にまで至ったことがあげられます。この国のいたる所で、学外教育者と呼ばれる人たちが、
本来は「解放」と称される「民間教育」のモデルを厳格に守っているのです。

このモデルでは、教師が生徒より重要だと考えられることは決してなく、
教師も生徒もその過程で共に学び、経験を共有するのです。


キューバにおける学外教育の本質的な目標は、
伝統的な生産体系に新たな技術を織り込んでいくことです。

農家というのは何をどのように生産すべきかについて一番正しく判断できる人だと考えられています。
ある学外教育者が言ったように、「農家は自分が食べないようなものは育てるべきではない」のです。

キューバの持続可能な畜産生産の達成率は、野菜と果物のそれに比べると遅れています。
もっとも、豚肉と鶏肉の生産が、今では小規模農家のより多様化した農業体系で実施され始めていて、
キューバ危機以前の水準に達しているというのは目を見張ることです。

その頃はすべての家畜が従来通りの柵で囲われた施設で育てられていました。
キューバで実施された大学の調査によると、牛20頭で行う酪農が
最大の効率を上げると結論づけられました(なお、この調査は
彼らが開発した持続可能性指標を用いて行われたものです)。

http://newfarm.rodaleinstitute.org/japan/features/200304/200304052Cuba/SJ_cuba.shtml
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前回、新藤氏の主張におかしな点がいくつかあると述べ、
その1つとして「キューバの有機農業に注目しているのは日本だけ!」を挙げた。


氏の奇妙な主張は他にもあり、例えば、上にもあるように
キューバ農業を支持する人間は、都市での自給が可能であることに触れているのに、
新藤氏は国全体の自給率に言及して、自給率100%など神話に過ぎないと述べている。



他にも、キューバを実際に視察して高い評価を下した人間には
上手くできている所だけ案内してもらっているのだ」と述べ、
キューバの食糧自給率が上昇したという統計結果については
捏造されたデータだ」と述べている。


その一方で、自分と話した学者や農家や議員の話を持ち出して、
「キューバの農業は上手く言ってないと現地の人も言っている」と主張する。


こういう都合の悪い証言や統計を嘘だの捏造だのと言って無視をし、
他方、自分に都合の良い意見は事細かに取り上げる態度は、
中国政府の批判者の声をピックアップして
「ほらね、中国の人も自分の国がおかしいって思ってるんだよ」と語る右翼によく似ている。



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筆者(新藤)は、キューバ現代史研究を専門としていますが、結論からいいますと、
「世界の視線が熱くキューバ(の有機農業)に集まっている」という実情はありません。


ここ5年間キューバ国内も含めて発行された研究書(英語・スペイン語)の中で、
キューバの有機農業を専門的に論じた本も、論文も見たことはありません。

http://estudio-cuba.cocolog-nifty.com/blog/2011/07/post-c21a.html
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ところが、この記事が書かれた2011年の12月に
フロリダ大学から研究書が出ちゃったのだ。



もちろん、「記事が書かれたのは7月だろ」と反論することも可能だが、
研究書がないから注目されていないというのは論理が飛躍しているだろう。


キューバの有機農業が日本に紹介され始めたのは2003年ごろだが、
この時期には英語論文でもキューバの有機農業に着目したものが多く執筆されている。
(Googleスカラーで検索をかければ、容易に気がつくことだ。)

新藤氏が批判している吉田太郎氏の著作はちょうどこの時期に執筆されたもので、
「キューバの有機農業が世界で注目されている」という主張はこの意味において正しい。


新藤氏の反論は吉田氏の発言された当時の状況を無視したものだ。


さて、件のフロリダ大学からの研究書(Sustainable Urban Agriculture in Cuba)だが、
この本は、著者のSinan Koont氏が数年をかけて
キューバの都市農業をフィールドワークした研究結果をまとめたもので、
新藤氏が語る「有機農業への幻想的な願望によるキューバ訪問とその報告記」とは
レベルそのものが違うものである。

次のサイトでPDF形式で入手できる。英語に自身がある人はイントロダクションだけでも読んで欲しい。
(http://muse.jhu.edu/books/9780813040431/)


この学術書は、新藤氏がキューバの農業事情を知るための
参考文献リストに書かれていない
ものなので、その意味でも読む意義はあるだろう。
意図的にリストからはずしたかどうかは不明。本人のみぞ知る)

学者だけでなく、アメリカのジャーナリストたちも有機農業に注目している(2013年時点)
http://pulitzercenter.org/projects/cuba-agricultural-sustainability-government-economy-organoponico-vivero-alamar

アメリカという国は実に不思議な国で、
政府は侵略主義丸出しのくせに、個人は参考になる意見を提言する人がそれなりにいる。
実際、サイードやチョムスキーもアメリカの知識人だ(問題は彼らの意見が無視されていることだ)


ちなみに、新藤氏はハバナ大学のリカルド・トレス教授の話を取り上げて、
自説の正しさを主張している
が、ハバナ農業大学の持続農業研究センターのルイス・ガルシア教授の
話は載せていない。同じハバナ市内に大学があるのだから、足を運んで話を聞けば良いのに。


ガルシア教授は「キューバ式持続農業」と題し、次の提案を行っている。

・総合的病害虫管理(IPM)・有機肥料およびバイオ肥料
・土壌の保全および回復 ・馬や牛など動物を耕耘に活用
・間作および輪作 ・作物生産と牧畜とを組み合わせた混合農業
・代替となる機械化 ・都市農業、および地域の参加
・地域の事情に合った代替の獣医学 ・土地の協同利用の促進
・農業研究の改善 ・農業教育の改革


新藤氏の最もおかしな点は、キューバの農業学者……というか、
キューバ政府が予算を下ろして持続可能な農業研究をわざわざしているにも関わらず、
まるでキューバ政府が有機農業を軽視しているかのような論調を示していることだ。


もちろん、立場によって取り上げたい人物は自ずと選択されるので、それ自体はおかしくないのだが、
できるだけ客観的な資料にもとづいてキューバの真実をお届けしたいというサイトの説明は
一体どこに行ってしまったのかなと思わなくも無かったりする。

キューバの有機農業②

2015-05-07 21:50:25 | キューバ・ベネズエラ
恐らく、日本語で読める最も「バランスの良い」キューバ情報サイトは、
「キューバ研究室」だろう(http://estudio-cuba.cocolog-nifty.com/blog/)。


このサイトは現役のキューバ研究者が何人かで運営しているブログで、
キューバに関する最新情報を読むことができる。講演会の情報も掲載されている。


しかし、このサイトは参考になる情報も多い一方で、首を傾げたくなる主張も散見される。
例えば、キューバの有機農業に関する説明は、一面的というか極端に感じた。


キューバの有機農業は「世界的に」有名で、
日本でもキューバといえば有機農業として紹介されることが多い。


この場合、キューバの農業政策を褒める意味合いで語られるのだが、
同サイト執筆者の新藤氏によると、キューバの有機農業が凄いというイメージはゲバラに憧れ、
社会主義政権に夢を見たい左翼の願望から来たもので、実際には惨憺たる状況であるらしい


実際、キューバの有機農業はソ連崩壊後に同国からの支援が得られなくなり、
同時にアメリカからの経済制裁によりキューバの貿易能力が極端に制限されたために、
やむを得ず始めたものであり、悪く言えばその場しのぎのものでしかない。

有機農業といえば聞こえは良いが、大量生産するにはコストがかかり、
品質も劣るので商品作物としては不十分だし、作物の種類も限られているので、
これだけで国内の食糧事情を万事解決できるかといえば、そんなことはない。


その意味では、新藤氏の説明はその通りなのだが、言葉の端々に違和感を覚える。

例えば、同氏によると、実際にキューバ農業を視察して高い評価を下している人物は、
キューバのイメージアップのために良く出来ている農場だけを案内されていることになり、
キューバの農業に注目しているのは日本ぐらいなもので、世界的に有名なわけではなく、
キューバの学者は、自国の農業が最悪のものだと告白しているということになる。



ところが、実際には、キューバの農業は国連にも評価されている。
http://www.unep.org/greeneconomy/SuccessStories/OrganicAgricultureinCuba/tabid/29890/Default.aspx

それどころか、食糧保障運動に携わるアメリカ人たちにも理想視されている。
http://civileats.com/2010/04/21/the-exceptional-nature-of-cuban-urban-agriculture/

もちろん、この礼賛はキューバとアメリカのシステムの違いを無視したものであるのだが、
少なくとも「キューバの有機農業をベタ褒めするのは日本だけ!」という主張は間違っている。


そればかりでなく、新藤氏はアメリカの経済制裁を軽視しており、
それは政府によるプロパガンダの一種として無視を決め込んでいる。


実際にはどうか?

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しかし、キューバ革命から約30年後の1991年、ソ連が崩壊し、
キューバはほぼ一夜にして絶望的な食糧危機に陥りました

――が、それは、農業改革の速度を劇的に加速しました。

アメリカは、東欧、ソ連に続き、キューバでも
新たに資本主義反革命を引き起こす絶好の機会だと察知し、
1992年にトリチェリ法を、さらには1996年にヘルムズ・バートン法を成立させました。

アメリカがこれらの法規制によって、キューバの輸出入禁止を強化したので、
キューバ国民にとって事態はさらに悪化したのです。


今回の視察旅行を通じて我々はたくさんの人たちに出会いました。
行く先々で皆、口々にかなりの感情をこめて対ソ貿易の消滅と
アメリカの法規制という歴史的なワンツーパンチの衝撃について話していました。

ところが、どういうわけか誰もがそれぞれふりかえって
恨みがましい言い方にならないようにしようとしていました。

それどころか、押しつぶされそうな状況に直面しながらも、
自分たちが成し遂げてきたことについて誇りをもって語っていました。

それまで輸入によってもたらされていた濃縮飼料、肥料、殺虫剤や
その他の農薬が不足したために、この社会に暮らす人々は政府や大学の援助を得て
オーガニック農業が広範囲で多様でよく普及することを実現するようにと、
キャンペーンを大々的に展開したのです。まだ完全ではないまでも、
その成果は驚くべきもので、キューバ文化に依然として現存する、
革命の精神がもつ不朽の力というものを証明しています。

http://newfarm.rodaleinstitute.org/japan/features/200304/200304052Cuba/SJ_cuba.shtml
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このヘルムズ・バートン法というのは全4章で構成されており、

①キューバへの投資の禁止とキューバの国際金融機関への加盟反対
②暫定政権の樹立とその後の選挙による民主政権の樹立の支援
③国内の亡命者の資産を取引に使っている他国の法人、個人に対し訴訟を起こす権利を認める
④上記に該当する第三国企業の幹部社員と株主、その家族の入国拒否を認可

というもので、要はキューバに資金が入らないように圧力をかけたのである。


社会主義国であっても、資金は必要だ。資金がなければ輸入ができない。
輸入ができなければ原料がない。原料がなければ商品が作れない。

この法律の効果は絶大で90年代のキューバは他の共産主義国同様、甚大な被害を受けた。

ところが、キューバ研究室には、この制裁の詳細に関する記事がない。
1つぐらいはあるのかもしれないが、キューバを考える上で重要な問題が軽く扱われている。


次回、新藤氏いわく、日本人しか注目していないはずのキューバの有機農業について、
アメリカのNGOであるロデール研究所(ペンシルヴァニア州)の翻訳記事を紹介しよう。

キューバの有機農業①

2015-05-07 21:31:52 | キューバ・ベネズエラ
先月から藤永茂氏のサイト「私の闇の奥」でキューバについての記事がアップされている。


キューバ、小さな大国
キューバに対する経済戦争
キューバの医療改革(1)

氏の感心する(などと言っては失礼だが)ところは、反対派の意見も載せるところで、
1番下の「キューバの医療改革」には、キューバについて否定的な日本人の意見も紹介されている。

2番目の「キューバに対する経済戦争」は、現在のキューバ経済を知る上でも必読だろう。
ラムラニの『アメリカのキューバ経済戦争』を紹介した点でも同記事の意義は高い。
(Salim Lamrani,THE ECONOMIC WAR AGAINST CUBA, A Historical and Legal Perspective on the U. S. Blockade

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「保健衛生の領域も決して免れない。この分野での損失は3000万ドルになると評価されている。
 こうして、キューバ眼科研究所「Ramón Pando Ferrer」は
 ハンフリー・ツァイスによって商品化されている網膜検査機器の取得を拒否されただけでなく、
 多国籍企業ノヴァルティスによって供給されている医薬品Visudyne
(ビスダイン、加齢黄斑変性症の光化学療法に使用される薬)の取得も拒否された。

 同じ方法で、アボット研究所は小児向け麻酔薬Sevorane
(セボフルレン、日本での商品名はセボフレン)の販売を拒否した。

 アメリカ財務省はまた、特に心臓不整脈(訳注:不整脈ではなく、心臓弁膜症と思われる)
 に冒された小児向けの人工心臓弁の販売を禁止した。」

キューバに対する経済戦争より
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アメリカの経済制裁の影響を具体的に示した良い文章だと思う。

アメリカのキューバの交渉を好意的に受け止める人間が実に多いが、
それは、時にはカストロの暗殺計画すら実行するアメリカの干渉政策に言及した上ですべきだろう。


さて、藤永氏は元来、理系の先生で、
チョムスキーやサイード同様、政治学や歴史学とは別の畑からアプローチしている論客だ。

本来なら、彼の評論は素人のたわ言として読み流してよかろう存在である。

だが、中東研究者と同様に、キューバの研究者にも
微妙な発言をする者が少なからずいるため、相対的に傾聴に値するものとなっている。


この点について、次回、詳しく語って生きたいと思う。