刺青

きょう銭湯で久しぶりに、全身に刺青をした人を見かけました。

絵柄は酒呑童子でしょうか、正直いって優れた絵とは思えませんでした。
しかしあまりじろじろ見た訳ではないので深くは言及できませんが、細かい筋彫りと色彩で、その費用と痛みに耐えたという意味では、全体的に見れば水準クラスといえるでしょう。

ご存知のとおり、刺青は医師免許がないと彫れません。
だからいわゆる「彫師」は、ほぼ全員が違法営業です。
しかし日本の彫師の技術とセンスは、やくざとは関係なく刺青を入れる世界諸国では高く評価されています。
刺青のためにわざわざ来日する外国人も少なくありません。

振り返れば江戸時代から、木場の職人や船大工などは刺青を入れるのが当たり前で、働く姿を岸や遠くから娘たちが見て胸をときめかせたそうです。
刺青も筋彫り（輪郭）で痛くて挫折したり金が続かなかったりすると、親方や先輩から半端者とからかわれたとか。

そういう風習もいつしか消えて、「刺青＝やくざ」という図式ができてしまったことは、残念でなりません。
日本の刺青は（罪人の証は別として）世界に誇れる美の極致です。

もう時効だから申し上げますが、私は隷に刺青を入れたことが数回あります。
下のヘアを剃って、そこに主の私と隷に私が与えた名前のイニシャルを彫るのです。

未婚の女性なら、またヘアを生やせば隠れて見えなくなります。人妻には彫れません。
また、ヘアが極端に薄い、あるいは面積の狭い人にも、やはり彫れません。

一生ものですから、間違いは許されません。
隷を大の字に縛って口紅と筆で下書きをし、硯に向かい墨をする間、とにかく精神を集中させます。
そして自作の針で墨を入れては滲み出す血を拭き取る。
これまで３回やりましたが、１回やるたびにくたくたになります。


きょうもどこかで、私の入れた墨を局部に入れた女性が、日々を送っています。
もう結婚して家庭を築いているのか、そもそもまだ生きているのか、私は知りません。
彼女たちと私が再び出会うことは、二度とないでしょう。
互いの人生の中で、そういう関係を持てた。

それが、大切なことなのです。