(本頁は「スプリング・エフェメラルの花筵・前編」の続きである。)
(本記事は自ホームページの旧記事をブログ用にリメイクしたものである。)
『キクザキ&カタクリ』以外のスプエフェ・アレンジメントも愉しんでみよう。
キクザキイチゲとフクジュソウ
キクザキイチゲとフクジュソウの組み合わせはよくあるようでいて、実はあまり見たことが無い。
どちらも秋田では豊富に生育しており、同じ場所で咲くのだが、
開花時期にずれがあり、通常はフクジュソウが早く咲いてしまう。
写真の場所は豪雪地帯なので、雪消えが遅く、両方が同じ開花となったようだ。
二枚目はアズマイチゲ(白)も混じっている。以上、二枚は東成瀬村にて。
アズマイチゲとカタクリの混生も珍しいと思う。
アズマイチゲとカタクリ。仙北市にて。
アズマイチゲとキクザキイチゲの混生(右下の二輪がキクザキ)。
アズマイチゲの単品アップ。
アズマイチゲとフクジュソウの群生。
アズマイチゲはキクザキイチゲと姿かたちがそっくりなので、よく間違えられるが、
総苞葉(花のすぐ下にある葉っぱ)の小葉が長楕円形で切れ込みが少ない点や柔らかい質感、
白い花弁のように見える萼の裏側が仄かに紅色を帯びている点などで区別する。
秋田ではキクザキの方が圧倒的に多く、アズマの方はやや稀のように思われているが、有るところには有る。
それこそ山ひとつがアズマだったというケースもあった。
そこにはフクジュソウやカタクリもほどよく群れて咲いていた。
フクジュソウとカタクリ(蕾)。両側の白いイチゲは左がアズマ、右がキクザキ。仙北市にて。
フクジュソウと青紫のキクザキ。カタクリも少し。鳥海山麓にて。
北海道では、
ブルーの絨毯を敷き詰めたようなみごとなお花畑があると聞くが、
その正体、主役はエゾエンゴサク?だ。
(?を入れたのは、北東北に見られるこの種類をオトメエンゴサクと呼ぶ人も多いから)
男鹿のエゾエンゴサク?。
エゾエンゴサク?とカタクリの混生。西和賀町。
ミチノクエンゴサク。東成瀬村。
秋田や岩手ではエゾエンゴサク?の数はそれほど多くないので、どちらかと言えば、脇役に廻ることが多い。
ミチノクエンゴサクは積雪の多い日本海側の本州限定のようだ。
花も葉もか細いその姿は、数多あるスプリング・エフェメラルの中でも最もはかない印象を与える。
チューリップは日本には原産しないが、それに割と近縁なのが、キバナノアマナ。
キバナノアマナとエゾエンゴサク?の混生。男鹿。
キバナノアマナとカタクリ。横手市にて。
キバナノアマナ単独群生。秋田市にて。
(´π`; ここで少し、スプエフェの勉強を。
スプエフェという言葉は、
スプリング・エフェメラル Spring Ephemeral (『春の妖精』または『春のかげろう』)
の私製略称で、『春植物』と呼ぶこともある。
カタクリやイチゲの仲間、フクジュソウ、エンゴサク、アマナ、コバイモの仲間などのように
春の限られた期間(雑木林の林床が明るいうち)に
パッと現れ、パッと咲いて、パッと実を結び、パッと消える
特異なライフスタイルをもつ小型の植物群を指す。
だからと言って一年草ではない。
地上部が枯れた後も地下部分(地下茎や球根)は生き残り、翌年の早春に地上部を再生する。
したがって、その生涯はけっして『はかない』というものではない。
例えばカタクリに至っては、
タネから花が咲くようになるまでには十年近い歳月を要するとも聞くし、
更にはその後、何十年にもわたって咲き続けるということだから、
へたをしたら他の草木以上に長命と言えるかもしれない。
国内原産に限って、もう少し詳しく種名をあげると
【キンポウゲ科】
イチリンソウ属 Anemone
キクザキイチリンソウ(キクザキイチゲ)、アズマイチゲ、エゾイチゲ、
ユキワリイチゲ、イチリンソウ、ニリンソウなど
フクジュソウ属 Adonis
フクジュソウ、ミチノクフクジュソウ、キタミフクジュソウ
セツブンソウ属 Shibateranthis セツブンソウ
【ケシ科】
キケマン属 Corydalis
エゾエンゴサク、ヤマエンゴサク、ジロボウエンゴサク、ミチノクエンゴサク、
※ミヤマキケマン、※エゾキケマンなど(※は私が勝手にスプエフェと思い込んでいるもの)
【セリ科】
セントウソウ属 Chamaele セントウソウ
【ナス科】
ハシリドコロ属 Scopolia ハシリドコロ
【レンプクソウ科】
レンプクソウ属 Adoxa レンプクソウ
【旧ユリ科】
カタクリ属 Erythroniun カタクリ
アマナ属 Tulipa
アマナ、ヒロハノアマナ(いずれも秋田には無い)
キバナノアマナ属 Gagea キバナノアマナ
バイモ属 Fritillaria
コシノコバイモ、カイコバイモ、ミノコバイモ、ホソバナコバイモ、
イズモコバイモ、アワコバイモなど(いずれも秋田には無い)
ネギ属 Allium ヒメニラ
なお春の山野を歩くと、スプエフェと同じ場所に他にもいろんな草花が咲いている。
秋田ならば、エンレイソウの仲間やスミレサイシン、オオバキスミレなどのスミレ類、
ミヤマカタバミ、少し遅れてキバナイカリソウ、シラネアオイ、
もっと早い時期なら、ミスミソウ(園芸名「雪割草」)やオウレン、ショウジョウバカマなど。
これらの植物は、花が終わってもしばらくの間、地上部分(葉や茎、実)
が残る(秋まで、或いは越冬するものもある)。
従って、その地上部生涯はけっしてはかないものではないが、
スプエフェと同じ時期に一緒に咲き、可憐な姿で我々の眼を愉しませてくれるので、
スプリング・エフェメラルと一緒くたに扱われることもある。
ライフサイクル上ではスプエフェとは言いがたいが、
同時期に隣近所に咲く花たちも少し紹介してみる。
西和賀町にて。
林の中に黄色い花の咲くとても小さな木を見つけた。
低木の名はナニワズだ。
ナニワズ Daphne pseudo-mezereum subsp. jezoensis はジンチョウゲ科の落葉低木。
西日本に多いオニシバリ(ナツボウズ) Daphne pseudo-mezereum に近縁で、
夏に落葉する性質がある。花はナニワズの方がより鮮やかで目立つ。
次いでスミレの仲間。
オオバキスミレは豪雪地帯の雪崩斜面などに単品で大群生する。
かと思うとカタクリやシラネアオイとパラパラ混生することもある。
スミレサイシンは国内原産スミレとしては最大級の花を咲かせる。
サイシンとは、ウスバサイシンに葉の形が似ているためと聞く。
スミレサイシン。西和賀町にて。
下手前がウスバサイシン 。西和賀町にて。
なおウスバサイシンは、ウマノスズクサ科。現在はトウゴクサイシンとされる。
早春、地面すれすれに地味なつぼ型の花を咲かせ、ヒメギフチョウの食草にもなっている。
次は、地味な花なので、見つけられかどうか。
キクザキやカタクリの間にエンレイソウが咲いているのだが、お分かりかな。
西和賀町にて。
エンレイソウは花の終わった後もなかなか枯れないのでスプエフェとは言い難い。
エンレイソウ
ニリンソウ
ニリンソウの開花時期はやや遅め。
他のスプエフェとはあまり混じらず、林地や渓流沿いに単一群落を作りたがる。
意外かもしれないが、猛毒植物のハシリドコロもスプエフェだ。
ハシリドコロとニリンソウ。能代市にて。
(´π`;)なんか綺麗なお花畑というテーマからはだいぶ乖離して来た。
そろそろ中締めとしよう。
スプエフェを育んだ雑木林も(低地では)
ゴールデンウィークあたりを境に新緑が展葉し、林床は薄暗くなってくる。
他の下草たちも負けずと生育してくる。
そうなるとスプエフェ達は急速に店じまいする
(急いで実をつけ、わずか一ニヶ月後には葉も茎も地下に収納してしまう)。
以上。
実は私もスプリングエフェメラルはずっと儚いものと思い込んでおりました。
今回、この記事を書くにあたり、いろいろ調べていたら、
カタクリの件でけっして儚いものではないと気づいたような次第です。
いつも楽しみに拝見致しております。
キクザキイチゲやフクジュソウの組み合わせなど,
色々な組み合わせが興味深く、学ばせて頂きました。
こちらこそ、みなみさんの奇麗な頁、いつも愉しませて頂いております。
スプリングエフェメラルは単品でも美しいですが、違う種類との組み合わせもいいものですね。