(本頁は「鳥海山の花図鑑/盛夏3・山頂部」の続きです。)
本頁では、概ね八月中旬(お盆)から九月中旬にかけて咲く花を扱ってみた。
秋めいてくると、キク科の仲間がすこぶる多くなるのは何処の山も同じだが、
鳥海山では他の山であまり見かけない種類が幾つか咲き出す。
地味な花だが、オクキタアザミやヒメクワガタを頑張って探してみよう。
また他の山では秋めいて来ると花がパタッと少なくなるが、鳥海山は少々様相が違う。
雪消えの遅い場所では、初夏から盛夏にかけて咲く面々、例えばヒナザクラやイワイチョウ、ハクサンボウフウ、
ウサギギク、チョウカイアザミ、モミジカラマツ、ベニバナイチゴなどが新たに咲き出したり、
ハクサンイチゲ、ミヤマキンバイの二度咲きや狂い咲きも見られる。
ヤマハハコ Anaphalis margaritacea
2008/08/12 滝の小屋ルート八丁坂にて。一緒に咲くのはハクサンシャジン、トウゲブキなど。
ミヤマアキノキリンソウ(コガネギク) Solidago virgaurea subsp. leiocarpa
お盆から初秋にかけての鳥海山お花畑の主役と言える花。下界に咲くアキノキリンソウとの識別は難しいが、
手持ち図鑑によると、総苞が広鐘形で外片は長く鋭頭、筒状花は一頭花あたり10個以上を目安とするとか。
この仲間は鳥海山では低山帯から山頂部まで連続的に分布しているので、どこで区切るか非常に難しい。
ヒトツバヨモギ Artemisia monophylla
花は地味だが、量はすこぶる多い。
ウゴアザミと並んで、鳥海山の亜高山帯から高山帯の広葉草原を形成する重要な植物。
ミヤマアキノキリンソウ 2020/08/18 御浜付近にて。
この場所では七月中はニッコウキスゲやトウゲブキが咲き、黄色い花のバトンリレーが続いている。
ミヤマアキノキリンソウ 2020/08/18 ヒトツバヨモギ 2020/08/18
ウゴアザミ Cirsium ugoense
鳥海山はアザミの仲間がとても多い山だが、特に多いのはウゴアザミだろう。
滝の小屋ルート・薊坂の名の由来はこの花と思われる。千蛇ヶ谷にも多く、この花で完全に埋まっている。
チクチク痛いので脛出し登山者には酷な花だ。
ウゴアザミの群生。2016/09/03 千蛇ヶ谷降り口付近にて。
ウゴアザミ 2019/09/21
上右はウゴアザミの棘の多いタイプか。2008/08/12
オクキタアザミ Saussurea riederi var. yezoensis f. japonica
こちらはアザミ属ではなく、トウヒレン属。棘は無いので痛くはない。
薊坂の上部や長坂道稜線、扇子森に比較的大きな群生が有る。
鳥海山の他には焼石、羽後朝日岳にしかないと言われる稀産種。
ウゴトウヒレン Saussurea ugoensis ?
長坂道稜線の草地で見かけた。採集できないので厳密な処は不明だが、
高山帯まで進出するトウヒレン属の種類は限られており、
鳥海山ではウゴトウヒレンが有ると聞いたのでそれではないかと思われる。
オクキタアザミに較べると、頭花は大きいが、色は白っぽく地味な印象で群生もしない。
オクキタアザミの群生。2014/08/24
オクキタアザミ 2020/08/18 ウゴトウヒレン? 2014/08/24
キンコウカ Narthecium asiaticum
従来ユリ科だったが、新分類ではヤマノイモ目のノギラン科となった。
高所の湿原に群生する。初秋の草紅葉は綺麗だ。
2020/08/18
イワショウブ Tofieldia glutinosa subsp. japonica
従来ユリ科で、キンコウカに近い種類かと思っていたが、
新分類ではオモダカ目のチシマゼキショウ科となった。
キンコウカ同様、高所の湿原に多い。
2020/08/18
チョウジギク Arnica mallotopus
水が浸み出すような湿地や渓流沿いで見かける。
黄色い頭花は小さく地味だが、柄には白い毛が密生し、よく目立つ。
高山に多いウサギギクと同属で種間雑種(ガッサンウサギギク)を形成すると聞くが、
鳥海山ではまだ見たことが無い。
コバギウシ Hosta sieboldii
低山から高山までの湿地に広く分布する。
チョウジギク 2020/08/18 コバギウシ 2020/08/18
エゾシオガマ Pedicularis yezoensis var. yezoensis
高所の湿原に多い。花冠は上から見ると巴状に並ぶ。
花色は黄白色。同じような花形でピンク色のトモエシオガマは鳥海山では見たことが無い。
2020/08/18
ウメバチソウ Parnassia palustris
以前はダイモンジソウなどと同じユキノシタ科だったが、現在は縁遠いニシキギ科に変更された。
鳥海山には花が小型のコウメバチソウも有るようだが、花の大きさだけでは識別が難しい。
ダイモンジソウ Saxifraga fortunei var. incisolobata
高山に生えるものをミヤマダイモンジソウと呼ぶようだが、低山帯から連続的に生えており、
識別困難なので、ひとまずダイモンジソウとした。
ウメバチソウ 2013/09/10 ダイモンジソウ 2014/08/24
ミソガワソウ Nepeta subsessilis
草丈は1m前後と大型のシソ科植物。
鳥海山では少なく、千畳ヶ原の一部で見られる。焼石や八幡平のものに較べると花色は淡い印象だ。
エゾオヤマリンドウ Gentiana triflora var. japonica subvar. montana
エゾリンドウの高山型で花は茎頂にだけ付くが、
稀に(エゾリンドウのように)葉腋に付くタイプが混生することも有る。
場所によっては十月にも咲き残る。なおよく似たオヤマリンドウは朝日連峰より南に分布し、
鳥海山には無いとされる。
ミソガワソウ 2020/08/18
ミソガワソウ 2020/08/18 エゾオヤマリンドウ 2020/09/07
ヒメクワガタ Veronica nipponica
新分類ではオオバコ科になった。同属にはミヤマクワガタやオオイヌノフグリなども含まれる。
1988年に祓川ルートで見たが、その後見たことが無かった。
もしかしたら絶滅したのかと心配したが、2020年9月7日、滝の小屋ルートを登ったところ、
雪渓の融けた後の裸地に多数群生していたので安心した。
2020/09/07
2020/09/07
シロバナトウウチソウ Sanguisorba albiflora
盛夏2の頁で白花タイプを報告しているが、こちらは紅花タイプ。
鳥海山ではあちこちで紅いタイプを見かけるが、開花時期は白花よりも遅いように感じる。
2019/09/21 大平ルート河原宿にて。
「秋の紅葉」に続く。
何時もながら、その機動性よ健脚に博学ぶりに感嘆します。
鳥海山には尾瀬ヶ原のような高層湿原(ミズゴケのマットが主体)はありませんが、
千畳ヶ原(↓url参照)のようなイネ科草原は豊富です。
場所によっては残雪由来の水が停滞し、湿原のような景観になっており、
そう言った場所では湿原性の植物も多数見られますね。
https://blog.goo.ne.jp/mouura2/c/0ef444f3b89ac89135e8b39fb332edc0