いま机の上にCDが2枚あります。メゾソプラノの歌手・波多野睦美さんの「アルフォンシーナと海」と「美しい日本の歌」。波多野さんは古典歌曲から現代歌曲まで幅広く歌ってCDもたくさん出しているなかで、私にとって魅力的な1枚。つのだたかしさんのギター、リュートとともに美しくやさしく繊細に歌い上げ、心を癒やしてくれるようです。「アルフォンシーナと海」に収められた15曲の中に戦後日本を代表する作曲家・武満徹さんの曲が2曲あり、「ちいさな空」はその1曲です。武満さん自身の作詞。
「青空みたら/綿のような雲が/悲しみのせて飛んでいった/いたずらが過ぎて/叱られて泣いた/こどもの頃を憶(おも)いだした」
この曲が「ノヴェンバー・ステップ」を作曲したあの武満作品?と思わせるような、親しみやすく、温かで美しく、そして心に響きます。
「落葉松」は小林秀雄さん作曲。合唱コンサートで何回も聴く曲ですが、ソプラノなどソロで歌うこの曲をYouTubeなどで聴くうちに心から離れなくなりました。
「落葉松の秋の雨に/わたしの手が濡れる/落葉松の夜の雨に/わたしの心が濡れる」
野上彰さん作詞。YouTubeではいろいろな方が歌っていますが、ソロでは波多野さんや森麻季さん、川口聖加さん、珍しいところでは藤木大地さんの歌などが好きです。
波多野さんのCDのビアノは野平一郎さん。なんとやさしく美しく静かな曲なんでしょう。深さも感じます。日本の歌曲にこんなにもひかれ、癒やされるなんて自分自身で思ってもみなかったことでした。
音楽は私にとってとても大切な存在になっています。2曲とも詩はシンプルなようで奥が深く、素晴らしいという言葉では尽くせないような気がします。その心の基にあるのはシューベルトやブラームスの歌曲・室内楽にみる叙情にも通じると思っていますが、それをさらにそぎ落としたピュアな心のような気がします。汚れた心をリセットしてくれるようなこれらの曲と出会えて幸せを感じるし、なくてはならないものになっています。