「片耳の大シカ」「マヤの一生」「大造じいさんとガン」など多くの作品を残し、児童文学、動物文学の第一線で活躍した椋鳩十さん(1905~1987年)は、長野県に生まれましたが、人生の多くを鹿児島県で過ごしました。動物文学を書き始めた地といわれる加治木町には「椋鳩十文学記念館」があり、毎年多くの人たちが訪れ親しまれています。
そして、湧水町も椋鳩十さんのゆかりの地として知られています。特に教科書にも採録された「大造じいさんとガン」や、大イノシシの物語「栗野岳の主」の舞台が湧水町なのです。
いずれも大きな自然の中でたくましく生きる動物たちを通して、いのちの大切さ、いつくしみを伝えてくれる物語です。
「栗野岳の主」は、栗野岳の原始林の中で、狩人たちに「栗野岳の主」と呼ばれているオスの大イノシシの物語。知恵と勇気で家族を守りながらたくましく生き抜きますが、あるとき絶体絶命の窮地におちいります。鉄砲を構えた狩人に自らぶつかっていき、深い谷に落ちてしまいます。しかしどっこい、かなりの傷を負いながらも家族の待つ巣に帰ってきました―。イノシシの生態が、いきいきとして描かれたすぐれた作品になっています。
栗野岳の中腹、入り口に草間彌生さんの大きな作品「シャングリラの華」が置かれた「霧島アートの森」の向かい側にある「栗野岳レクリエーション村」。そこの道路から100メートルほど落ち葉を踏みしめながら上っていくと、背の低い林の中に「栗野岳の主 文学碑」がありました。
そこには、いかにも動物に愛情を注いだ椋鳩十さんらしい動物童話集第4巻「はじめに」の文章が彫られていました。木漏れ日が射して文字が読みづらい感じはしましたが、レクリエーション村で遊ぶ子供たちの声が風に乗って聞こえてきてくる静かな環境の中、椋さんの文学碑にふさわしい場所だと思いました。
近くには栗野岳の深い手つかずの原生林があり、そこには「栗野岳の主」の系譜につながる多くのイノシシたちが棲息しているはずです。
「大造じいさんとガン」の舞台となった三日月池の碑については次回に書くことにします。
栗野岳レクリエーション村にある椋鳩十「栗野岳の主」文学碑