僕はレジの前を何度も行ったり来たりしていた。まるでゴリラの様に。中学生。神戸市鈴蘭台の本屋の中だった。
汗ばんだ手には、「中3トリオ」の1人、「桜田淳子」の写真集。部活のバスケの試合の帰り。自由解散になったので、その本屋に立ち寄ったのだ。
当時、「桜田淳子」は飛ぶ鳥を落とす勢いの「アイドル(偶像)」。僕にとって、憧れの対象であっても、決して手の届かない所にいる存在でしか無かった。
家の近くの本屋で写真集を買う勇気の無い僕。意を決して、レジに向かった。顔が熱くなり、赤らんでいるのが自分でも分かった。
Amazonなど無い時代の話。
会社に入って、「生」で「アイドル」を見られる様になった。
松田聖子、河合奈保子、早見優、岡田有希子などなど。
しかし、入社した1983年になっても「アイドル」は僕らから遠い存在、「偶像」だった。
「アイドル」の概念を変えたのは、秋元康である。
「オールナイトフジ」の「おニャン子クラブ」、そして「AKB48」。
「クラスに1人はいる可愛い女の子」。彼女たちは「偶像」では無かった。男性視聴者が「手が届く」と思ってくれる存在だった。
彼女たちは「歌番組」以外でも「バラエティー番組」や「クイズ番組」にも出演した。「より視聴者との距離感」を縮める為に。
昨年秋、フジテレビの連続ドラマ「silent」が大ヒット。川口春奈とSnowManの目黒蓮との究極の恋愛ドラマに女性たちは胸をキュンキュンさせた。
その目黒蓮が、その目黒蓮がである。TBSの「冒険少年」の「無人島脱出」コーナーに出て、自力で無人島脱出を行なっている。
そんな事をすれば、ドラマ「silent」で作り上げたイメージが壊れてしまうとお思いの方も多いかも知れない。
実は女性視聴者、「silent」の目黒蓮の「素」が見たいのである。だから、彼は「無人島」に行く。その事で、ファン層が更に広がるのである。
何かの番組でダウンタウンの松本人志が言っていた。
「僕は意図的に『自分自身が笑われる』という事をやっているんです」
「笑われて『素の部分』を見せる事」で、「笑わした時、より大きな笑いを取る事」が可能になるとの事。
そういう意味でも、「素」という、より視聴者に近いシチュエーションが大切な時代になって来ているのかも知れない。
SNSが発達し、テレビに出ている人の「素」が拡散しやすくなっている現代。
やはり、「無人島」に行ってくれ、というオファーが来たら、それを積極的に受ける事が良いのでは無いだろうか?