「1行ワープロ」というのをご存知だろうか?「ワープロの本当に初期」、CASIOから発売されたもの。
表示部分が「1行」しか無くて、印刷してみないとどんな文章になっているか、全体が分からない。
大阪で「朝の連続ドラマ」をやっていた40年近く前、4万円近くした「1行ワープロ」を僕は購入した。
「朝ドラ」では「助監督」を8ヶ月だけやったが、常に撮影現場にいなくてはならない「助監督」に僕は向いていなかった。
先輩ディレクターの「芝居の付け方」「映像の切り取り方」を身近に見て、ドラマの監督ではやっていけないとつくづく思っていた。
それゆえ、脚本やキャスティング等の作業をするプロデューサーを目指す事にし、長いAP生活が始まった。
APと言えども、なかなか撮影現場から離れる事は出来ない。
そこから、僕の「新しい電化製品が出たら購入する」という癖が始まったのだ。
「こんなもの、ホンマに使うんかいな」と悩みに悩んだ末、自分が納得する理由を何とか見つけて、買ったのが「1行ワープロ」。
今まで手書きして、俳優さんの事務所に送っていた台本の宛先をワープロで打ち、それをコピーして使う様になった。使用方法が見つかって良かったと思った。
「Windows 85」も売り出されてすぐ買った。いろいろ説明書を見て、試してみたが使い方が分からない。こんな時、僕は粘れないのである。すぐ放ったままにしてしまう。
東京に異動になり、実家に「Windows 85」を置いていったら、父が使い始めた。
ある年の3月、そんな父から僕に一通のメールが来た。
「メールを書いてみました。もし届いている様だったら、連絡下さい」と。イラスト入りの素敵なメールだった。
これが父から来た「ファーストメール」で「ラストメール」になった。父が3月末、脳梗塞で緊急搬送され、数回微かに意識を戻したが、1年半後に亡くなったからだ。
このメールは今でも僕のパソコンに大切に取ってある。父からの遺言。
東京でドラマのプロデューサーをしていた時代、まず買ったのが、SHARPの「ザウルス」という「手持ちのインターネット接続機器」。
インターネット黎明期の電化製品だ。
「メールアドレス」も「ホームページ」もよく分かっていないまま、「プロバイダー」の「nifty」に入会した。
知人からメールが来るととっても嬉しかった。名刺の裏にメールアドレスのハンコを押して、配った。
携帯電話も毎年替えた。プロデューサーをやっていると、外での電話のやり取りが異常に多い。時には長電話で携帯電話の本体が熱くなって来るほどだ。
1年に一度買い替えないと、バッテリーが持たない。
脚本打ち合わせ、撮影現場、編集、MA(音楽や効果音、ナレーションを入れる作業)など、プロデューサーは多忙を極める。
毎日、気が休まる日は無かった。携帯電話を買い替えるのも一種のストレス発散だっただろう。
2002年、佐藤浩市さん主演のドラマ「天国への階段」で沖縄・宮古島に行った。
このドラマは俳優さんのスケジュールの加減で、放送直前に撮影が全て終わるという変則な形を取っていた。
雨に降られる事も無く、撮影はロケ初日で無事クランクアップ。
翌日は雨予備日。キャスト・スタッフは自由行動になり、ゴルフに行く者、麻雀をする者。自由行動となった。
この日の朝9:08、東京支社のFAXにビデオリサーチから「天国への階段」第1回目の視聴率が送られて来る。
僕はしばらく携帯電話をONにしていたが、いつドラマの視聴率に関する電話が会社からかかって来るか耐えきれず、携帯をOFFにして、布団を被って寝てしまった。
夕方起きて、恐る恐る留守電を聞いてみたが、何も入っておらず、着信履歴も無い。
ストレスを解消する為に買った携帯電話が沖縄・宮古島にいる僕に大きなストレスをかけていたのである。
「いつでも捕まる」という事が本当にいい事か、その時以来、疑問に思っている。
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